未来のクルマは自動運転車!?

10月 18 2015

TVコマーシャル “やっちゃいました!”

最近、気になる自動車のTVコマーシャルが、“やっちゃいました!”とのコマーシャルです。自動運転がほんとうに“やっちゃえる!”技術、になるのでしょうか?トヨタも高速道路限定のようですが、2020年に商品化のアドバルーンをあげ、さらに早いのはテスラが、ドライバー責任を強調したうえでの自動運転ソフトをリリースしました。自動車とは何か、自動車交通の安全性とは何かの掘り下げた議論や、法整備もなしに熱病に浮かされている状況の商品力競争ブームには首をかしげざるを得ません。また、それを煽るメディアの報道、行政の反応に危惧の念を強めています。安全運転の基本は運転に集中すること、この基本が変わるのでしょうか?

安全運転の基本は運転に集中すること!?

現役時代の話しですが、自動車の評価を行うためには、私のようなパワートレイン・エンジニアも試験車運転資格の取得が必要でした。その社内試験車運転資格もクルマ全体の限界走行性能を評価する社内のテストドライバーまで、様々なクラスに分かれていました。限界性能評価を行うエンジニアやクルマの走行性能評価を行うテストドライバー以外の我々が目指すトップランクが上級試験運転資格でした。それがないとテストコース内でも180 km/h超えの高速走行や、欧米一般路での試験走行は許されません。上級資格の取得トレーニングは、スリッピーな路面でのドリフト走行から、サーキット路でのタイムトライアルまで時間と金を掛けて行われます。クルマ屋にとってみると、業務内で行える最も面白いトレーニングですが、徹底的に叩き込まれることがクルマの限界を知り、その範囲で安全に走ることです。最終のサーキット走行では、最低ラップタイムが指定されますが、追い込み過ぎてコースアウトすると、それで即不合格です。兎に角、様々なクルマ、走行環境下での限界を知り、決してそれを越えた運転を行わないためのトレーニングです。そんな運転資格試験の走行トレーニングで教えられる基本の一つに、障害物回避があります。仮にテストコース内に鹿、イノシシ、熊がでてきても、「超高速走行ではぶつかってもしょうがないからハンドル操作で回避しようとするな」です。事実、静岡のコースで鹿、北海道のコースでは鹿や熊が出没することは報告されていました。レアですが衝突例もあったように思います。高速走行では、当たり前ながら急なハンドル操作は禁物、ハンドルを切らずにタイヤロックをさせない最大制動力でのブレーキングがまず運転技能として叩き込まれる基本中の基本です。クルマの限界、自分の運転技能の限界を知り、さらにどんな時にも運転に集中することを徹底させるトレーニングです。運転技能訓練でない一般路の場合でも、安全運転のポイントは運転に集中すること、このパラダイムを変える自動運転は実現できるのでしょうか?

自動運転に求められること

自動操縦に戻ると、このような高速走行中に大型動物が出てくるケース以外にも、前方に落石、道路の陥没、トラックからの落とし物、前方のスリップしたクルマに遭遇するケースはゼロではありません。さらに、操舵輪がバーストしても回避走行ができるか、衝突してでも被害を軽微にとどめるか、回避操作を行うかの判断がドライバーに委ねられているのが今の自動車です。自動運転も走行系に影響を及ぼす部品故障時でも安全に回避、待避走行させる機能を持つことが条件です。暴走運転の割り込み、故意の自爆運転まで考えておく必要があり、そんな様々なケースで勝手に後はトライバーの責任とギブアップするようなクルマならそれは自動運転ではありません。さらに、大雨、大雪、強風、霧、路面状況も水たまり、雪道、氷結路などさまざまです。ひとたび自動運転モードに入ったら、このような条件で勝手にギブアップすることは許されません。技術的にこのような条件を満たせたとしても、性能要件を定義する規格、基準、法的責任所在を定義する法規制、保険制度などなどを整備が不可欠です。

もし、上記の条件を満たし、法整備もでき、完全自動運転のクルマが実用化できるなら、老兵は消えゆくのみ、将来の自動車技術を語る資格はありません。そうでない、中途半端な自動運転もどきのフィーバーなら、自動車に拘わる誰かが止めるべきです。”やっちゃいました!“のTVコマーシャルのクルマも、トヨタの2020年に目指すクルマも、先週テスラが『Model S』制御ソフトVersion7でリリースした自動操縦ソフトも、もちろん完全自動運転ではありません。テスラの例では、自動運転を目指すとしていますが、いざ何かの折にはドライバー責任、ステアリングホイールを従来車どおり手を載せて走ることが”strongly recommended”とされています。結構、システムとしてのギブアップ条件は多いようです。

自動運転車はバイ・ワイヤシステムが前提 その道を拓いたのはプリウス

自動運転車は、当然ならが、ドライバーの操作ではなく車を自動で操りますので、その基本は、クルマの基本要素「走る」「曲がる」「止まる」は、信号仕掛け、バイ・ワイヤー制御が前提です。その意味で、この三要素全てをバイ・ワイヤー制御でやらざるを得なかった、フルハイブリッドのプリウスがこの自動運転への道を拓いたと言っても良いでしょう。バイ・ワイヤー制御でなければ成り立たないフルハイブリッドのプリウス開発では、バイ・ワイヤー制御の安全、安心品質をどうやったら保証できるか、本当に保証できるのか、確認に確認を重ね、無い知恵を絞り、意地悪試験をやりまくり、その上で清水の舞台から飛び降りるような決断でGoを掛けました。「走る」「曲がる」「止まる」の三要素に、ドライバーの操作、意図から外れる安全・安心性能を損なう不具合が発生したら、リコールは当然、生産をストップさせ場合によってはすでに売ったクルマを回収するケースまで想定しました。それくらい、重い決断で踏み切った、ハイブリッドです。

Googleの自動運転開発用試験車の殆どがプリウスとレクサスRXハイブリッド

今の自動運転ブームに火をつけた主役は、Googleですが、遊園地のオモチャのようなハンドルもない自動運転プロトは別として、これまでの検討用車両のほぼその全てが2代目プリウスと、レクサスRXハイブリッド車の改造試験車です。バイ・ワイヤーの信号系だけを操作して、ナビデータと画像認識処理に基づく運転操作信号をハイブリッド車のアクセル信号、ブレーキ信号、ステアリング舵角信号としてECUに送り、ハイブリッドECU、ブレーキECUなどから駆動力、制動力、操舵角信号をアクチュエータに送り自動運転をやっていると思います。ハイブリッドシステム制御をハックして動かしているのでしょう。しかし、制御ソフト全体がその設計思想含め、解読されているとは思いません。

エンジンを含めた、ハイブリッドパワートレイン、パワーステアリング、ブレーキシステムの基本構成、設計要件、設計思想、フェールセーフ設計指針、保証指針、さらにその車両系、シャシー系の設計指針と思想、特性を理解して、設計情報を掴んで改造できる筈はありません。信号系、制御系だけをだまして自動運転と言っているなら、極言するとお遊びのオモチャです。ブレーキ性能一つとっても、タイヤ、ディスク径、パッド特性さらにサスペンション特性など、さまざまな設計要件があり、基準、規格があり、試験法があり、さらにその上で、各社の規格、判定基準に沿ってクルマは作られています。さらに、クルマは個人ユーザでも15年以上、タクシーでは50万キロ以上も使われ、その間の経時変化も考慮に入れた安全・環境品質とその信頼性保証が必要な製品です。

このクルマの基本を性能、品質、信頼性を抜きにしての自動運転車はまだ、遊び、おもちゃと片付けられますが、それを取り上げるメディア、アナリスト達に煽られたのか、自動車メーカーの一部にも、自動運転がブームになってきていることが気になります。このTVコマーシャルだけではなく、ドイツ、スツッツガルトに本社がある老舗高級車メーカーがプレミアムクラスのリムジンコンセプトを展示し、そのCEOが完全無人操縦のそのリムジンを将来リムジンと紹介する姿にがっかりしました。自動車にどんな未来を描いているのか、本当に完全無人運転車が将来自動車としての目指す方向か、どこか、どなたかIT系以外のクルマの専門家、自動車メーカートップが、将来自動車のわくわくする夢、ビジョンを語って欲しいと思います。それは、ドライバーレス自動運転車ではないでしょう。

米国のネットサイトに、Googleのプリウス、レクサスRXハイブリッドを改造した実験車の追突事故率が高いことが何度か取り上げられていました。普通のプリウス、レクサスRXハイブリッドの事故率、米国での追突事故率は掴んでいませんが、ニュースの件数だけからするとgoogle試験車での事故率は高いと思います。その全てが、被害事故と会社側は言っているようですが、法律的な判断は別として、クルマの流れの中での追突事故で100%被害事故は多くはありません。ブレーキのタイミング、操舵のタイミングが一般のドライバー操作との違いがあるとすると、それが追突を誘発する可能性も否定はできません。もちろん、一般車のドライバーも千差万別、力量、判断基準も大きくばらつきます。ニュースで取り上げた中に、そんな千差万別、バラツキが大きく、判断ミスをする人間の運転より、自動運転車のほうが事故確率を低くできるとの意見もありましが、確率論で自動運転の安全性は議論できないと思います。

もう一つ気になることは、今回のテスラ『Model S』自動運転ソフトのリリースですが、このやりかたも大いに疑問です。未熟な状態であることはマスク氏も述べており、その状態で、安全関連リコールでは必ず登場する米国運輸省NTHSAの認可を受けてのリリースでしょうか?安全、環境基準への対応は、どこの国でも認可、認定項目だと思います。日本では道路運送法で定められた保安基準としてソフトだけの変更による操縦アシスト機能提供は認められないのではと考えますが如何でしょうか? とかく、新技術は認可基準が後追いになりますが、環境、安全関連のシステムでは、認可段階でも基準、規格化の議論は必要と思います。

その前に、アクセル・ブレーキ踏み間違防止、衝突回避システムの標準仕様化が先

いまだに、アクセル・ブレーキの踏み間違いによる暴走事故が頻発しています。また、追突事故、バックでの人身事故も後を絶ちません。信号無視、一旦停止無視、高速道路逆走による事故も、無視というよりも運転に集中できずに認知しないで走ってしまったケースが大部分でしょう。自動運転よりも先に、こうした操作ミス、認知ミスを防止するシステムの導入、さらに普及し始めた衝突回避自動ブレーキ、衝突回避操舵アシストをもっとしっかりと安心して使えるものにすることが先決のように思います。これですら、国際基準、規格、システム定義のそのレベリングが、製品よりも後追いになっています。

規制緩和は必要ですが、安全、環境は何らかの規制、基準による誘導は必要です。将来自動車の方向を誤らせるような、中身もレベルも違う状態での宣伝先行の自動運転車競争はやめて欲しいものです。繰り返しですが、安全運転の基本中の基本は運転に集中すること、それを妨げるような自動運転もどきシステムは許されません。

この自動運転車の話題については、清水の舞台から飛び降りる覚悟でバイ・ワイヤーを世に出した当事者の一人として、これからも注目し、このブログで取り上げていきたいと思っています。完全無人自動運転車の時代は、これまで述べてきた成立条件を前提にすると、近未来で実現するとはとても思えません。またドライバレス・モビリティは自由な移動手段、さらにドライブする自由空間としてのモビリティの衰退のイメージであり、個人的にはそんなモビリティは見たくはありません。

されど、まだまだ老兵が消えゆくことにはならないとの強い自信はあります。