クリーンならぬ、ダーティ-・ディーゼル:VWディーゼル、米国で大気浄化法違反

9月 21 2015

昨日、長年の自動車エンジン屋にとって、驚愕し、ガッカリし、さらに怒り心頭のニュースが飛び込んできました。OBとして同業他社の直接の批判は控えてきましたが、今回はそれを破り、まじめにやってきた多くの自動車メーカー、エンジン屋のために厳しく糾弾していきたいと思います。手当たり次第にニュースを拾い読みしてみましたが、東芝の比ではなく、企業姿勢、風土そのものが問われる悪質極まりない環境規制違反と言っても良い事件です。

 

関連記事 

  1. 米国のエコカー関連サイト、Green Car Reportの見出し記事

「VW, Audi TDI Diesel Cars Had ‘Defeat Device’ That Violated EPA Rules, 500K Cars Recalled: BREAKING: VWとAudiのTDIディーゼルは、EPAルール(排ガス規制)を侵害する’Defeat Device:無効化装置’をつけているとして、50万台のリコール、

http://www.greencarreports.com/news/1100101_vw-audi-tdi-diesel-cars-had-defeat-device-that-violated-epa-rules-500k-cars-recalled-breaking

概要

連邦環境保護庁(EPA)は、今週金曜、大手自動車メーカーに関するメディア会見を開催すると通知した。それには、VWとAudiが販売した2009年~2015年までの4気筒TDIディーゼル車約50万台についてのリコール命令についてである。それらのTDI車は、排気テストサイクル走行を検出し、その状況下だけで排気ガスを大幅に減らすようにしていたことが明らかになったとして、EPAはその行動を起こした。EPA担当官の電話会議での発言によると、そのクルマが、通常走行か排気テスト走行かを判別し、通常走行では排気制御をオフにするソフトを持っていることが疑われた。

 

  1. Reutersの報道記事

「Volkswagen could face $18 billion penalties from EPA: VW、米EPAから180億ドルの罰金に直面する可能性」

http://www.reuters.com/article/2015/09/18/us-usa-volkswagen-idUSKCN0RI1VK20150918

概要

金曜日、米EPAは、VWは有害エミッション計測の法規を欺くディーゼル車のソフトを使ったことで告訴された場合、180億ドルの罰金の可能性があると発表した。米大気浄化法不適合の罰則により、罰金は台当たり37,500ドル、総額180億ドルとなることを、担当官は電話会議で確認した。米国VWのスポークスマンは「調査には協力しており、現時点ではコメントはできない」と述べている。VWは、米国で’クリーン・ディーゼル’として強力なマーケッティングを行っており、TVコマーシャルでは「米国でのディーゼルNO1ブランドで、自慢は’クリーン・ディーゼル’」と放映している。

 

この記事は、共同通信が配信し日経、朝日ほか多くの日本紙が掲載しています。目次にある’Defeat Device: 無効化装置’の言葉は、自動車マル排屋にとってはやってはいけないタブーの装置を指す言葉で、すでに死語と思っていました。

今から30年以上も前、タイマー、車速スイッチなど試験モードの特徴に合わせてそれ以外では排気浄化システムや低燃費デバイスの作動を無効化する装置を採用するメーカーが現れ、大きな問題となりました。規制当局と自動車メーカなど関係者で、その定義、判定基準などが規定され、それに該当する場合は大気浄化法違反とされ、罰則規定が制定されました。しかし、基本的には試験モードだけに特定して、排気、燃費デバイスを無効にすること自体が、法規制の目的に反しておりアンフェアな行為であり、’Defeat Device’と疑われることもやってはいけないとのコンセンサスができあがりました。その死語になったはずの’Defeat Device’という言葉が、幽霊のように復活したというのが最初の印象です。

この’Defeat Device’の判断基準と罰則が規定された後も、リアルの大気改善はなかなか進みませんでした。このため、1990年の始め、米国ではそのクリーン度を判定する試験モード以外でエミッション悪化による影響が大きいとして、規制当局の呼びかけにより自動車メーカー各社がクルマを出し合い、米国のアトランタやスポケーンなど何カ所かの都市で走行実態調査を行いました。トヨタもこの調査活動に参加し、試験用のクルマを提供、データ分析にも米国スタッフが付き合いました。その調査結果に基づきリアルワールド走行をカバーするマル排屋にとっては厳しい判定走行モード、オフモード(公式試験モード外:オフ)試験基準を作りあげ、現在も公式試験に追加する判定試験法として使われています。 今回のケースは、このように’Defeat Device’はアンフェアとの判断基準があり、リアルワールドでのエミッション悪化防止を厳しくチェックする米国で明るみにでた不正です。

一部にはアメリカだけの問題で、欧州や日本は関係なく、あってもオフモードの悪化は少ないのではとの意見もあるようですが、そうではないと思います。欧州と日本では、このアメリカのようなオフモード試験法はなく、’Defeat Device’基準も緩いのが現状ですが、EPAが摘発したこのような’Defeat Device’が使われているなら、オフモードでのエミッション悪化は今回のアメリカのケースよりもさらに大きくなる可能性大です。もちろん、基準が緩いとしてもこのような’Defeat Device‘は企業姿勢、環境保全からも許されません。

VWは現時点でコメントを避けていますし、判定ソフトの詳細も判りませんので、この問題の解析は、今後もフォローを続け、もっと情報が集まってから技術判断などお伝えしたいと思います。

ディーゼル車のマル排性能については、以前からオフモードとのギャップ大が問題とされていました。欧州の最新規制ユーロ6規制対応車が、実走行では以前ユーロ4やユーロ5よりも悪いケースがあるとの環境NGOから指摘もされています。また、規制強化にも関わらず大都市のNOxが環境基準を大きく越え、改善に向かわないのはこのリアルワールドでの急増との関連が疑われていました。

現時点で欧州、日本の試験法、判定基準で、このソフトが入っていたとして、米国の’Defeat Device’判定のように不正と判断されるかは判りませんが、規制の主旨を逸脱したアンフェアなやりかたであることは確かでしょう。

リアルワールドでの自動車燃費、クリーン度については、欧米には環境当局OB、技術者、専門家による環境NGOがあり第三者調査が行われています。今回もその環境NGOと大学研究者の合同調査データが摘発のきっかけだったとの報道もあります。クリーン度の調査には計測装置やシャシーダイナモなど高価な設備が必要であり、残念ながら日本にこのような第三者調査機関はありません。公的機関のリアルワールド調査結果や、経年車の追跡調査も公開されておらず、透明性に欠けていることは否めないと思います。

欧州と日本では、実走行に近づける新試験法WLTPの採用が決まり、また欧州ではとうとう、 ‘portable emissions measurement system:車載ポータブル計測システム’を搭載した “real world:実路走行” 排気エミッション試験が義務づけられるようになってしまいました。しかし、クルマの使用条件は千差万別、この新しい“real world:実路走行” 排気エミッション試験でもリアルワールドの一部だけを評価しているに過ぎません。それから先は、フェアネスが問われることになり、不正と判断された場合には厳しいペナルティーを課すことも当然でしょう。今回のケースでは、場合によっては刑事罰の対象にもなる可能性があります。

このような’Defeat Device’に何故、VWは手を染めたのでしようか?排気性能、燃費性能、走行性能はトレードオフ関係、こちらを立てればこちらが立たず強い関係があります。試験モード走行域外でNOx排出を垂れ流し状態にできれば、この排気浄化システムを簡素化し、コストを下げることができます。他社のシステムに比べるとVWのシステムは簡素で、これをEPAが疑ったことが今回の発端との観測記事もありました。また、米国のオフモード走行モードはかなり高負荷、高速域まで走ることになりますので、安いシステムのままで対応すると、燃費悪化、出力低下を招く可能性も強く、排気クリーンの意味、アンフェアかどうかのエンジニアとしての常識に目をつぶれば、やりたくなる誘惑に駆られることは理解できます。しかし、この明らかな不正に歯止めが掛けられなかった会社マネージは厳しく問われることになることは確実でしょう。

以前から、私は欧州勢受け売りの’クリーン・ディーゼル’との表現に違和感を覚えていました。もちろん、アンチ・ディーゼル派としてではなく、中大型トラック、大型バス、重機ではディーゼル以外の実用的な選択肢はないことは十分に理解しています。しかし、これを小型車まで適用し、ガソリンよりも緩い規制を続け、そんな状況で’クリーン・ディーゼル’とキャンペーンを張ってきた一部ドイツ勢のやりかたにもこの不正を招く温床があったように感じます。

このような不正の再発防止はもちろんのこと、この問題を他山の石として、米国だけではなく、世界全体で襟を正しリアルでの’クリーン・ディーゼル’ 、リアルでのクリーン&グリーンカーを目指して欲しいものです。