プリウスの回生ブレーキ ーその2

6月 05 2014

本格回生協調ブレーキECB(電子制御ブレーキ)
一週空いてしまいましたが、引き続き、プリウスの回生ブレーキを巡る開発エピソードをお伝えしたいと思います。先回はカックンブレーキと言われてしまった回生協調ブレーキチューニングの顛末を取り上げました。回生量を増やすにはギリギリまで油圧ブレーキ作動への切り替えを遅らせ、回生制動割合を増やすだけではなく、回生の取り代を減らすこととなるブレーキ引きずりの低減にも従来車ブレーキ以上に厳しい目標設定をおいて取り組んでもらいました。このブレーキ屋さんや車両評価の人たちとの共同作業とその時の議論がその後のさまざまな進化に繋がりました。
まず、2000年のマイナーチェンジでカックン感の改善を行い、同時に回生・油圧の切り替え適合で燃費向上を果たしました。次の本格的な進化は2003年二代目プリウスに向け開発した本格ブレーキ・バイ・ワイヤ、文字通りの回生協調ブレーキと言える電子制御ブレーキECBです。中速域からの加速ならば、回生優先、このECBの採用で大幅な燃費向上を果たすことができました。図に初代と二代目での制動力に対する回生・油圧分担割合と、回生効率比較を示します。回生効率とは、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗で回収できない減速エネルギーを除き、理論上回収できるエネルギーのどれくらいを実際に回収したかの比率としました。初代の10-15モードでは、38%程度だった回収効率が、二代目では倍近い72%程度にまで向上しています。
140605ブログ図表_ECB回生効率
アメリカ、欧州の最高速度が高く、減速度も10-15モードよりも大きな公式都市走行モードでも大幅な向上を果たしています。初代では強力な電池を搭載していてもエネルギー回生では十分にその容量を生かし切れなかったとも言えます。また、10-15モードぐらいの車速域と減速度なら、回生協調ブレーキを使わなくともアクセルペダルから足を離した状態のエンジンブレーキ相当の回生で十分との意見もありましたが、やってみるとそれでは不十分でした。特に実走行では公式モード通りの運転をしている訳ではありませんので、アクセル全閉、いわゆるエンジンブレーキ相当の減速度を強めると、無意識に車速を落としてしまい、車速維持のためにアクセルまた踏むといったオン/オフ運転を繰り返してしまうことがあります。こうしたオン/オフ運転では燃費を大きく悪化させてしまいます。この状態こそ、回生協調ECBの独断場、ブレーキで車速コントロールしながら広い領域でエネルギー回生を行うハイブリッドのポテンシャルの高さを感じたのも、初代から二代目のECB採用での開発でした。

Bレンジのエンブレの効き
また、初代ではBレンジに入れてもエンブレの効きが悪いとのお叱りもいただきました。今の設計指針、法規が当時からどう変わってきているのかわかりませんが、初代~二代目ではBレンジの減速度の上限として、長い下り坂などで電池が満充電状態でもエンジン空転で消費できる発電量としました。どんな状態でもエンブレ状態の制動力を変化させないことを指針としたため、Bレンジで電池満充電では、エンジンの許容最高回転数での空転が上限です。このため、満充電となるとエンジン回転数を発電機でつり上げて高めていました。初代ではこのエンジン許容最高回転数も熱効率を高めるため4,000回転/秒と低く設定していましたので、これが上限、このためBレンジでもDレンジとさほど差がつかない減速度しか使えなかったというのがその顛末です。エンジン最高回転数を2000年のマイナーで少しあげ、2003年二代目で5,000回転/秒まで上げた理由が、エンジン最高出力を高める他にこのBレンジでのエンブレの効きを良くしようとの狙いがありました。
エンジンでは、アイドル運転時の発生トルクが駆動トルクの下限、微妙な駆動力コントロールはできません。この点、モーターは出力側から、回生制動力までリニアにさらに精密に駆動/制動力を制御できます、初代ではこのポテンシャルを使い切れませんでしたが、スキッドコントロール、トラクション、オートクルーズなど駆動/制動力をリニアに精密に制御することのポテンシャルの高さを感じたのも、ブレーキ屋、車両屋、エンジン屋、駆動屋と共同開発作業、チューニング作業をおこなった初代~二代目の開発での思い出です。
まだまだ、電気駆動/回生制動のポテンシャルを突き詰めきれてはいなとの感じながら、開発エンジニアをリタイアしました。その後の進化が少ないことが気掛かりです。