プリウスの回生ブレーキ ー その1 

5月 24 2014

燃費3倍をめざすハイブリッド探索から燃費2倍プリウスの開発へ
何度かこのブログで紹介しましたが、プリウスの前身、21世紀のスタンダードカー・スタディーをスタートさせたのが、1993年秋、社内コードG21です。このときにチームの依頼でエンジンチームが燃費シナリオ検討を行い、コンベ(従来車)技術で10-15モード燃費50%なら達成可能とのスタディ結果だったそうです。G21チームはこの燃費50%向上を車両開発目標として、当時の技術副社長和田さんに提案したところ、「やるなら燃費2倍、それでなければ止めておけ」と言われたエピソードはいくつかのプリウス本で紹介されているとおりです。この目標を達成するには、もうハイブリッドしかありません。急遽ハイブリッド前提での燃費2倍を達成するシステム選定が行われ、その結果選びだしたのが今のトヨタハイブリッド車全車種が採用している、2モーター方式、遊星ギアにエンジン、発電機、駆動モーターをつなげるTHS方式です。
このG21のスタディーとは別に、パワートレーングループが発足させたハイブリッドチーム(BRVF)に和田さんが与えた宿題が燃費3倍を実現するハイブリッドの探索です。この裏話を昨年のブログで紹介しました。
(2013年8月コーディアブログ http://www.cordia.jp/wp/?m=201308)

BRVFチームは、燃費3倍をターゲットに、考えられる限りの様々なハイブリッド構成とアトキンソンサイクルエンジンなど低燃費技術シナリオを入れてスタディーを進めたものの、燃費3倍の実現は困難、車両軽量化や空力改善を入れても燃費2倍強が限界との結果だったようです。BRVFスタッフ達が、和田さんからの爆裂弾破裂を覚悟して恐る恐る「燃費3倍は無理、燃費2倍強が限界」と報告したところ、「よくやった、その目標で次ぎはプロト開発に入るように」と指示をされたとの裏話を聞いています。「燃費50%程度を目標とするならG21は止めてしまえ!」とおっしゃった和田さんの頭の中には、すでに燃費2倍ならハイブリッドでやれるとの報告が入っていたことは間違いありません。このブログで何度もご紹介したトヨタの諸先輩がた、特に今も語り継がれる名車を作り上げられた車両主査のお一人、和田さんらしいエピソードです。

燃費2倍にはフルハイブリッドが不可欠、ブレーキ屋さんには苦労をかけました
この「ハイブリッドなら燃費2倍強はやれるかも?」の根拠の一つが、停車中のアイドルストップどころか、低中速の走行時には運転効率が極端に悪化するエンジンを止め、モーター走行をさせるフルハイブリッド(ストロング)とも呼ばれるハイブリッドと、今日の話題回生ブレーキの採用です。燃費3倍の探索からスタートしたプロジェクトですので、以前に実用化経験のあるエコランでも、また回生の取り分が少ないマイルドハイブリッドは検討対象には入っていませんでした。

当時の日本10-15モードだけでの「なんちゃって燃費2倍」を目指したわけでもありません。グローバル21、アメリカの公式燃費も欧州の公式燃費も探索の対象に入れると10-15モード領域だけではなく、広い車速域でのエンジン停止EV走行と減速回生ができるシステムを目指しました。

10-15モードの燃費2倍はそれほど難しいターゲットではなかったはずが、最初のプロトでの燃費試験結果は惨憺たるありさま、リッター20キロを切るレベルでした。この理由の一つが、スタディーに使った発電機とモーターの効率マップが僅かの計測点から鉛筆を嘗めて作成した実際とはかけ離れたものであったことがわかりましたが、後の祭りでした。エネルギー回生の取り代を過大に見込んでいたことになり、この回復を図らなければ10-15モードですら燃費2倍は見えてきません。少しマージンがあったはずが、当て外れでした。

燃費シミュレーションで見込んだ回生量を稼ぐことを前提に、ハイブリッド電池が受け入れられ限り目一杯の減速回生、停車の寸前で油圧ブレーキに切り替える油圧ブレーキ屋さんにとっては無理難題のチューニングをお願いしました。それまでの電気自動車ではそこまでの減速回生はやっておらず、エンブレ相当まで、ブレーキを踏むと中速域から油圧ブレーキに切り替える方式だったと思います。それを、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏み始めても回生を続け、止まる寸前に油圧ブレーキに切り替えないと燃費2倍で見込んだエネルギー回生はできません。いわゆる、高度な電気回生と油圧ブレーキの電気-油圧の回生協調ブレーキシステムを必要とする要求です。ブレーキ設計担当も、初代はそこまでの高度な回生協調ブレーキの経験はなく、油圧ブレーキのチューニングでやれる範囲と考えていたと思います。油圧・回生協調ブレーキの開発の第1歩は、エンジニアの回生協調、油圧ブレーキエンジニアを派遣してもらい、ハイブリッドエンジニアとの共同チームによる制御系の摺り合わせからスタートしました。
油圧ブレーキ系ハードはこの開発日程ではほとんど変更の余地はありません。回生域は拡大、そこから油圧への切り替えを車両のチューニングでやるしかありませんが、その車両とハイブリッドが商品車としてのチューニングに入れる状態になったのは量産トライ寸前の1997年夏の頃です。

その苦労が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤECB2の実用化を加速?
燃費2倍実現を目指す公式試験の申請諸元はほぼ決めており、回生領域拡大は必須、あとはブレーキ部隊のチューニングの詰めに期待するしかありません。ギリギリまでがんばってくれましたが、チューニングだけでは十分なレベルにはならなかったようで、初代の立ち上がりではカックンブレーキと言われてしまいました。無理な適合を押しつけ、チューニングの詰めの段階でも、まともなクルマを提供できなかったことなど、今もブレーキ屋さんに申し訳なく思っています。しかし、開き直ると、この「カックンブレーキ」が本格的なブレーキ・バイ・ワイヤのシームレスに回生・油圧切り替えを行う2代目プリウスに採用することになる電子制御ブレーキシステム[ECB2: Electronically Controlled Brake System 2]の開発を加速させることになったと言えるかもしれません。ジャーナリス試乗会でカックン感を指摘されると、「すぐ慣れますよ!」とか「ブレーキ操作が荒いからですよ!」などと嘯いていましたが、ブレーキ担当のメンバー達には口惜しい思いをさせてしまいました。

従来のエンジンと機械変速機の組み合わせでは実現できなかった、クルマを加速させ、巡航運転を行う駆動力から停車させるまでの制動力までモーターとECB2によるシームレスなコントロールの将来性に目を開くことができました。

モータ・発電機のとんでもなく高い効率マップを提出したモーター開発スタッフには大きな貸しを与えましたが、これまた2000年のマイナー、2003年二代目プリウスTHSIIと着実に効率を高め今ではそのとんでもない効率を実現し、ECB2との回生協調の進化によりエネルギー回生効率も当時では考えられなかったレベルを達成しています。このあたりは、次の機会にご紹介したいと思います。