IPCC5次レポートと将来自動車の低CO2

IPCC5次レポートが順次公表中
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007年の4次レポートの次として5次レポートのまとめをおこなっています。IPCCには、パネル議長(パチューリ氏:インド)のもと①第1作業部会(自然科学的根拠)②第2作業部会(影響・適応・脆弱性)③第3作業
会(気候変動の緩和)と国別の温暖化ガス排出データーベースの算出方法をまとめ、管理する温暖化ガスインベントリー・タスクフォースの4つの専門家グループが研究のとりまとめをおこなっています。
環境省HP: http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
気象庁HP: http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

IPCCは国際連合環境計画(UNEP)と国際連合の専門機関である世界気象気候(WMO)が共同で1988年に気候変動とその対策研究の機関として設置した国際機関です。1990年に発行した第1次評価報告書から数えて今回が5回目、昨年9月の第1作業部会の評価報告書を皮切りに、第2作業部会、第3作業部会の評価報告書が発表され、今年の10月にはコペンハーゲンでのIPCC総会で総合レポートは発表される予定です。4月13日ベルリンで開かれたIPCC総会で発表された緩和策をまとめる第3作業部会報告書では、政策決定者向け要約が承認・公表されています。各国の政策執行に強制力をもつものではありませんが、このレポートをベースとして緩和に向けての国際条約がCOP(気候変動枠組み条約締結国会議)で議論されますので、そのとり纏めも政治色が入り紛糾したようです。

IPCC 1次レポートが後押ししたプリウス・ハイブリッドの開発
ハイブリッドプリウスの開発も、この1990年に発行されたIPCC第1次レポートの影響を受けスタートしたと言っても良いと思います。この第1次レポートを受けて1992年6月にブラジル、リオで開催された地球環境サミット(環境と開発に関する国際連合会議:UNCED)で採択したのが地球温暖化問題に対する国際的な取り組みを約束する条約、国連気候変動枠組み条約です。この採択に触発され、低カーボンを目指す21世紀の自動車のスタディープロジェクト、社内コードG21をスタートさせたのがハイブリッド車プリウスにつながりました。

トヨタハイブリッド累計販売600万台は通過点、低CO2車普及が急務
しかし、5次レポートにもあるように、世界全体の気候変動緩和への取り組みは遅々として進まず、当時よりもさらに影響が顕在化し、このままでは今世紀末には平均気温として4度以上の上昇となると予測しています。現在の1度上昇程度でも、大きな気候変動を招いていますので、4度上昇の影響ははかりしれません。もちろん自動車だけの問題ではありませんが、主要な排出源の一つである自動車からの排出低減、すなわち低燃費自動車の普及をさらに加速させる必要があります。トヨタ・ハイブリッド車累計600万台達成と浮かれているわけには行きません。もちろん、ハイブリッドを含め、いずれは化石燃料を使い続けることはできません。しかし、電気自動車も水素燃料電池自動車も、充電電力の発電に、また水素の製造過程では、風力、太陽光、水力などリニューアブル発電を使わない限りはゼロCO2にはなりません。また、自動車部品の材料採掘、生成、製造過程、さらに自動車の生産過程から廃車までのCO2も考慮にいれその削減を計る必要があります。

最初は10-15モード燃費2倍がやっと、いまなら実走行燃費3倍が目標?
もちろん、ゼロCO2自動車を目指して研究開発に力を注ぐことは必要ですが、今の最重要テーマは内燃エンジン車の実用的な低CO2車をさらに進化させ、その普及を加速させることです。ハイブリッドはその実用低燃費技術の一つです。プリウスは当初は10-15モードでの燃費2倍がやっとでしたが、描いていいた目標は当時も実走行燃費2倍でした。いまではそれにあと一歩まで迫っていると思います。ハイブリッド用エンジンの最高熱効率も初代の34%から、3代目プリウスで38%、40%超えは目の前です。モーター発電機の効率も初代プリウスから現在までに大きく向上しています。電池も当時のニッケル水素円筒電池に比べ最新のリチウム電池では、軽量、コンパクトの上に充放電効率が向上し、さらに回生協調ブレーキの進化と合わせ回生エネルギー量を大きく増加させることみ期待できます。エンジン熱効率、モーター発電機効率、電池の充放電効率を高め、伝達効率を改善し、様々な損失を減らし、さらに車両軽量化、空力改善も加えていくと実走行燃費3倍、燃料消費1/3もあながち夢ではないのではと現役の連中をけしかけています。燃費3倍でも、削減率では67%程度、それも走行過程だけの削減率ですが、ここまでくるとクルマの一生で比較しても今の電気自動車よりも低いCO2排出になるはずです。

日本の実用低燃費技術、低CO2技術を世界に
IPCC5次レポートによると、各セクターともこの程度の削減率では足りず、またCO2削減の国際合意が遅れれば遅れるほど、後々の削減率を高める必要があり、場合によっては排出量を上回る削減、大気中のCO2を回収して固定化することまでシナリオに入り初めています。しかし、やれることを着実にやることが肝要、その意味ではクルマの低燃費化は、ハイブリッド技術の採用まで視野に入れて迫ってきたコンベ車(従来エンジン車)を含め、メニューはまだまだあると思います。さらに、モータリゼーションが進んできている発展途上国への低燃費技術の移転もまた、われわれの責務です。

自動車セクター以外では、電力のCO2が気掛かりです。3.11前は、ハイブリッドの先に低CO2電力での夜間充電を前提にプラグインHV普及のシナリオを描いていましたが、このシナリオが崩れてしまいました。IPCC5次レポートへも3.11福島第1事故は影響を及ぼしたようで、原子力のリスクに言及しています。リニューアブルだけで乗り切れないことは明らかで、これまた先が見えないCO2固定、貯蔵(CCS)をプライオリティの高いシナリオに入れてきました。いずれにしても、すこしでも具体的な低CO2に向かって知恵を出すのが日本の役割です。