レジェンド葛西選手の銀メダル、スキージャンプとプリウスの思い出

葛西選手の銀メダルに感動

7度目の冬季オリンピックを41才で迎えた葛西選手が、ラージヒルジャンプでついに宣言通りの個人のメダルを獲得しました。わずかの差の銀は少し残念ですが、まさに有言実行、ジャンプ競技のどころかトップアスリートとしてのレジェンドと言ってもいいでしょう。

見ての通り、一つ間違えば大きな怪我を負いかねない競技を30年以上、それも世界の一線級として続けてきたことには敬服以外のなにものでもありません。私自身、札幌で生まれ育ち、実家から札幌オリンピックのラージヒルジャンプ台、大倉シャンツェまで歩いて30分、小さいころはそのままスキーで飛ばすと10分たらずで家までたどりつくことができました。

小学生の冬の遊びはまずジャンプ、近くの丘にスコップで雪を積み上げた小さなジャンプ台を仲間と作りその台を飛ぶところがスタート、徐々に大きな台に移っていき、その最後がラージヒルジャンプ台になります。隣の家のお兄さんが複合のオリンピック選手、近所から世界選手権、オリンピックで活躍したジャンプ選手がでるような地域です。

私自身、彼らと同じように小学生の低学年からジャンプをやり始めましたが、20メータクラスで頭から突っ込む大転倒をしてジャンプが怖くなり飛べなくなってしまい、その先には進めませんでした。とはいえ、近くの大倉シャンツェへは、度々ジャンプ競技会を見にいきました。

容易に想像がつくとは思いますがやはり危険な競技で、常に救急車が待機しており、風に煽られ転倒して救急車で運ばれる選手を何度も見ました。高校生の時、競技の整備を手伝わされ、大倉シャンツェ踏切台(カンテ部)の下から普通のスキーで滑り降りたことがありますが、その急斜度のランディングバーンを滑り降りるだけで足がすくむ恐怖の体験でした

プリウスの冬道テストコースはジャンプ場巡り

前置きが長くなってしまいましたが、今日のブログはレジェンド葛西選手とプリウスにあわせたタイトルにしましたが、プリウスをジャンプ台から飛ばせる話でも、またプリウスをレジェンドと図々しく対抗しようとする話でもありません。

札幌の中心街から西に見える大倉シャンツェは、中心部のテレビ塔から約6.5キロ、ちょっとした坂道を上がって競技場までむかう雪道はクルマの格好の試乗コースです。その周辺の住宅地は、私が暮らしていた当時からすっかり変わってしまいましたが、土地勘はある地域で、北海道に行くたびにプリウスの試乗コースとして走り回っていました。

ノーマルヒルジャンプ台の宮ノ森シャンツェにも近く、そこから市民スキー場がある藻岩山山麓へ抜けていく山道の登り降りもまた良い試乗コースです。今ではジャンプ台付近まで住宅地が広がっており、冬の雪道では4WDがほしくなる地域ですがFF、FRの2輪駆動車も使われています。プリウスがそのような走行環境でどうかを自分で試してみたくなり、何度かその周辺を走り回りました。

トヨタには北海道士別市の郊外に大きなテストコースがあり、寒冷地試験、整備された雪道の走行路もいろいろありますが、私自身は開発スタッフたちに頼んでもっぱら一般路の試乗ツアーでチューニング状況や問題点の説明を受けながら確認させてもらっていました。

初代プリウスでは、北海道の販売店からトラクション制御が効き過ぎて雪道のでこぼこにはまると脱出できないとの指摘があり、その確認や改良の相談が冬の試乗をやるようになったきっかけです。

時間がなかなかとれないので、スタッフたちにわがままを言い千歳空港や旭川空港まで試乗するプリウスで迎えにきてもらい、そこで合流。大抵は一泊二日で雪道を走り回り、スタッフたちと開発状況や試験状況の話も聞き、夜は海鮮料理とビールで懇親を深める冬の楽しみな出張でした。

こういった試乗も先輩たちに叩き込まれたトヨタウェイの現地、現物、現車主義、テストコースだけではなく、生活道路のクルマの使い方をお客様の目線で確認する方針を貫かせてもらいました。

もちろん、私自身は開発エンジニアであり、クルマ評価のプロではありません。我々の試乗と併せて、クルマ評価のプロの目で、現地、現物、現車での評価をしっかりやってもらい、このような機会にシステム制御スタッフと一緒に評価状況、課題を聞かせてもらう企画です。

試乗コースとして、大倉シャンツェ、宮ノ森シャンツェ周辺とともに、ロングツアーでは、札幌オリンピックアルペンの会場である手稲山、小樽の住宅地にある天狗山周辺、小樽から札幌郊外の定山渓に抜ける途中にある札幌国際スキー場、旭川拠点では旭岳の麓、勇駒別、十勝岳を望む美瑛、富良野から狩勝峠を抜け新得と、どういう訳かスキー場巡りといったコースが多かった印象です。

冬道からS-VSCが生まれた

もちろん業務出張ですからスキーをやったことは一度もありませんが、スキー場への登り、その下りは、絶好の試乗コースです。こうした試乗の中で、ハイブリッドシステムが担う駆動力のトラクションコントロールと回生制動とブレーキの協調制御の確認を通して、二代目プリウスに採用することになったS-VSC(Steering-Assisting Vehicle Stability Control)の開発につながっていきました。

低燃費、低カーボンで夏も、冬も安心、安全に、またストレスを感ずることなく運転そのものも楽しめるクルマをめざし続けてきました。初代、二代目、三代目プリウスと少しはこの目標に近づいていると思いますが、まだまだクルマとしてのレジェンドには程遠いと思い続けてきました。

次なる四代目は、エコ金メダルは当たり前、エコの看板を外したところでクルマの基本性能、その魅力を高めてくれると、これまで350万人のお客様の後押しもいただいてクルマとしてのレジェンドに一歩でも近づくことを期待しています。