フランスの自動車の今

12月 19 2013

「これまでの自動車は、イギリスを祖父、ドイツを父、フランスを母、アメリカを里親として育てられてきた。」

これは、1997年3月のトヨタ・ハイブリッドシステムの技術発表会以来、おつきあいいただきご指導いただいているジャーナリストで(株)日本自動車経営開発研究所代表である吉田信美氏の著作からの引用です。

吉田信美氏から頂いた写真家、富岡畦草氏の記録写真集『車が輝いていた時代』の巻末に吉田信美氏が書かれた「世界自動車産業の栄枯盛衰」にあった文章の一説になります。

戦前から戦後の1970年代初めまでに日本で走っていた様々なクルマの写真を取り上げたこの写真集には、私の愛車第1号でもあったいすず・ベレット1500も載っており、またクルマ屋になるきっかけとなった当時のなつかしいアメ車、ヨーロッパ車が数多く収められています。

また吉田信美氏がまとめられた「栄枯盛衰」ではスチュードベーカー、ナッシュ、ヒルマン・ミンクス、オースティンといったすでに存在しなくなった車名、自動車会社、そこから現在に至るそれこそ世界の自動車会社の栄枯盛衰のすさまじさを伺いしることができます。

今日のブログのテーマは、ここで自動車の育ての母と表現されているフランスの自動車事情について取り上げてみます。

フランスはプラグイン車の実験に適した国

何度か、このブログでも取り上げてきましたが、プリウス・プラグイン車の欧州実証試験の拠点としてトヨタはフランス電力公社(EDF)と組んでフランス・ストラスブールを選びました。トヨタのパリ事務所に「プラグインハイブリッドのやる気はないか」とEDFからの最初の打診あり、私がその相談を受けたことがこのプロジェクトに係るきっかけでした。

外部電力で電池を充電するプラグイン自動車が次世代環境自動車としてCO2低減の実効を上げていくためには、その充電電力が低CO2であることが必要条件です。現在も自動車マーケットの規模が大きい欧州諸国の中で、また世界的にみてもフランスが群を抜いて低CO2電力を供給しています。

電力ミックスでは原子力と水力比率で90%以上となっており、この電力で充電すれば、2050年に電力の低CO2排出を達成した場合の想定として、世界が目指すべき低CO2電力を使ったプラグイン自動車のCO2削減ポテンシャル実証試験を今やることができます。さらに、フランスは「自動車の育ての母」といわれる自動車文化の先進国であり、自動車が社会生活の中に深く根差すなかで、今のクルマの延長線ではないかもしれない将来モビリティを研究するには最適な国との判断がありました。

加えて、電力料金も欧州では安い国の一つで、リニューアル電力固定価格買い取り制度のためぐんぐん電力料金が上がっているドイツと比較してもプラグイン自動車普及の可能性と課題を調査するには格好の国です。

フランスでも一筋縄でいかないプラグイン車の普及

EDFからストラスブールでの実証プロジェクトが提案され、それから何度もストラスブールを訪問しました。夜のパーティーで楽しむワインや世界遺産である旧市街の運河クルーズ、大聖堂観光の楽しみは別としても、世界環境都市にも選ばれその中核として使われているスタイリュッな低床トラム、そのトラムの駅を拠点としるパークアンドライドなど将来モビリティ構想が進められているなど、ストラスブールが実証試験としても最適と感じました。このあたりのエピソードは以前に日経TechOnの連載でも紹介していますので、興味のあるかたはそれをお読みいただきたいと思います。

また、世界一の電気自動車宣伝マンであるゴーンさんのお膝元であり、ルノーから超小型コミュータEVの「Twizy」のほか、小型デリバリーバン「KangooZ.E.」、小型乗用EV「ZOE」、さらにバッテリー交換方式の「Fluence」の4車種も販売をスタートさせ、「ZOE」が5,233台、「KangooZ.E.」が3,884台、全体で昨年比45.5%増の12,867台と苦戦が続く日本と比較して好調に推移しています。

とはいえ、「Twizy」は今年に入り売れ行きが止まり、バッテリー交換方式の「Fluence」はサービス提供者であったBettr Place社の破綻もあり生産を中止しており、この9月、11月に欧州で自動車、電力、石油業界の人たちと会話をしましたがこのまま電気自動車販売が拡大していくことはないとの意見が支配的でした。

一方で、パリ市内ではレンタル自転車「Verib」の自動車版、ボロレー社のピニンファリナデザインの電気自動車「BlueCar」をつかったEVカーシェア「Autolib」が4000箇所以上もの充電貸出ステーションを整備してスタートさせ、市民の足として使われています。まだ2年目ですが、電池火災の発生のほか、事故、故障の多発、メンテ不良なども伝えられており、こちらも決して楽観的な状況では内容ですが、この方式がどこまで定着するのか注目しています。

一方ハイブリッド車では、フランス工場で生産している「ヤリスHV」(日本名ビッツのHV、アクアと同じハイブリッドシステム)と英国生産の「オーリスHV」、プリウスがトップ3を占め、全体で昨年比66%増の41,430 台と、主流の地位を確立した日本のようにとはいきませんが、ハイブリッドの普及拡大が進み始めています。

パリの市内では、プリウス・タクシーが増加し、また走行中や路上駐車中のプリウス、ヤリスHV、レクサスRX HVを良く見かけるようになりました。贔屓目ではありますが欧州の走行環境の中で、普通以上のクルマとして評価されるようになっていると実感しています。

走りや走行フィーリングでも普通以上を目指せば日本よりもガソリン価格が高く、また平均年間走行距離の長い欧州で次世代自動車としての地位を築けるのではと期待しながら見守っています。また、現地生産拠点があるのもポイントです。今はHV部品のほとんどは日本から運んでいますが、いずれハイブリッド部品の現地化拠点として、CO2が低く、安い電力供給が期待できるフランスが有望だと思います。

「自動車の母」、フランスも変化へ

これまでフランスでは、安価で、またマニュアルセレクトのダイレクト感が良いとして、マニュアル変速機が好まれてきました。ここに、ハイブリッド普及の影響とまではまだ言えませんが、低燃費、低CO2車への関心が高まったせいもあってか、また安全運転の観点か、自動変速車のシェアが年々増加しています。

燃費のための多段化、CVT化、ハイブリッド化としての自動変速は必然、さらに事故防止のためにも、運転に集中できる自動変速は避けられない方向だと思います。さらに、排気のクリーン化でも、変速操作ごとにエンジン負荷変動が大きくなるマニュアル・トランスミッションから、この負荷変化もコントロールする自動変速は有効な手段です。低CO2とともに排気のクリーン化も進める必要がある新興国のクルマもマニュアルはスキップして自動変速に移行することは不可欠です。この動きもフランスから欧州全体へ、さらにアジア、アフリカとモータリゼーション進行中の新興国に波及していくと思います。

また、仏自動車工業会(CCFA)発表として、フランスの新車販売でディーゼル車シェアが昨年比大幅に低下しているとのニュースが流れました。新車販売でのディーゼル車シェアが1-11月で67.5%と、2012年の72.9%から大きく減少、2003年以来の最低を記録しました。

この理由としては、ディーゼル車奨励金の見直しと課税強化、ディーゼル燃料のガソリン並み課税など、ディーゼル恩典を減らしたことがあげられ、CCFAとして2020年にはシェア50%まで後退するとの予測を発表しています。これ以外にも、2014年から実施される排気ガス規制Euro6対応でガソリン車並みのNOx規制が決まり、この対応でのコスト上昇も販売に影響するものと言われています。乗用車のディーゼル化でも経済性とクルマにうるさいフランスがリードしてきました。この状況にも変化がみられそうです。

都市内への車両の乗り入れ規制も欧州が世界で先行しています。トラムの活用やパークアンドライド、大規模なレンタル自転車はパリをスタートに主要都市に展開されています。電気自動車カーシェア、レンタルプロジェクトも、パリの「Autolib」のように一気に4,000台規模のプロジェクトからのスタート、いまさら数十台からスタートするちまちました、また用途限定の日本のBEV/PHEV実証で何を訴求するのか疑問がわいてきます。

この新しい環境都市づくり、その中での将来輸送機関ネットワークの構築、個人用将来モビリティの探索もすでに実証段階から、実用段階に入りかけています。もちろん、これはフランスだけではなく、ドイツや北欧諸国など様々な都市でその具体化が進められてきました。プリウスPHVの実証試験を行ったストラスブールから、ライン川の橋を渡ると対岸はドイツ、すぐに速度無制限のアウトバーンがあり1時間で世界環境都市フライブルグ、カールスルーエを訪れることができます。

欧州不況が長引くなかで、ルノー、プジョー・シトロエンの経営環境が悪化、フランス工場の縮小、閉鎖が話題となり、その「自動車の母」フランスの自動車産業が転機を迎えようとしています。ドイツ勢にくらべ、海外進出に遅れたこと、過度なディーゼルシフト、環境自動車への対応遅れなど、要因は様々、日産が支えるルノーも、これまたBEVシフトが重荷になっているようです。PSAは中国メーカーの支援を得て経営立て直しに取り組むことが決まりました。現地生産のトヨタ・ハイブリッド拡大が雇用拡大に貢献し、フランスが欧州での次世代自動車普及、将来モビリティ発進の拠点となってくれることを期待しています。