2013年デトロイト・ショーを遠くから見て

今回も、八重樫尚史が書かせて頂きます。このブログの右肩にもリンクを新設しましたが、コーディアではメールニュースサービスを開始し、多忙の代表の八重樫武久の代わりにこのブログに登場する機会が今後増えるかと思います、改めましてよろしお願い致します。

回復基調が鮮明なアメリカ自動車市場

さて、現在アメリカ・デトロイトでは、北米国際オートショー(通称:デトロイト・ショー)が開催されています。デトロイト・モーターショーは隔年の東京モーターショーは違い毎年開催され、自動車業界にとっては年始の恒例となっているイベントです。

アメリカの2012年の(大型トラックを除く)乗用車の販売台数は約1478万台で、リーマン・ショックの後で1000万台強まで落ち込んだ2009年を境に翌年から3年連続で年率1割以上の増加となっています。ただし、リーマン・ショック前は毎年1700万台で推移していましたので、まだ回復余地があると考えられています。(アメリカの販売台数はWardsAutoの統計データを使用)

なお、日本の販売台数は軽自動車を含めて約577万台(自販連全軽自協のデータより)、EU27カ国とEFTA(アイスランド、ノルウェー、スイス)を併せたヨーロッパは、金融危機の影響によって前年比-7.8%と1995年以降で最低の数字となり1252万台になります(ACEAの発表データより)。また、中国については正確な数字はわかりませんが、1900万台程度であったと報じられています。

アメリカの市場はその台数の多さもそうですが、地域内のメーカーのシェアが圧倒的な日欧中の市場とは異なり、他国メーカーのシェアがビッグ3と呼ばれる国内メーカーのシェアが50%を割り込む市場であるのも特徴的です。広大な国土を持つためか他と比較して大型の自動車は好まれるという消費者の傾向はあるものの、最もオープンな市場と言って間違いはないかと思います。

「エコが後退したショー」??

さて、そんなアメリカ市場を代表するデトロイト・ショーですが、今年の日本での報道を見ると「エコカーの存在感が無くなり、代わりに大型車やスポーツカーが目立ったショー」として紹介されることが多いようです。

確かに今回のショーでは、ここ数年エコカーの象徴とされたバッテリーEV(BEV)の新車が少なく、あったとしてもテスラの高級SUVEV『Model X』やVIA MotorsのBEVピックアップトラックや大型SUVで、広く普及を目的とするモデルは見当たりません。

おそらくは、そういった状況を見て「エコカーの存在感が無くなった」と報じているのかと思いますが、ショーで紹介されたモデルの詳細を現地報道から追っていくと、そうではないではないかと感じています。私自身、現地に行っては居ないので、その空気感などは解らず、断言などはできないのですが、おそらく「エコカー」の定義の一人歩きによってアメリカ市場の方向性の分析が歪んでいるような気もしています。

さて、個人的に今年のデトロイト・ショーのニュースを通じての感想を言うと「SUVの再拡大の機運が感じられたショー」というものです。こう書くと「つまり、「エコカーの存在感が無くなった」というのは間違いないじゃない。」と思われるかもしれませんが、私はそう感じてはいません。

SUVと特にそのベースとなったピックアップトラックは、今でもベストセラー・カーで、実際に2012年のアメリカでの最量販車はフォードのFシリーズというピックアップトラックです。勿論、これだけ大型のクルマですから、小型自動車と比較して燃費は圧倒的に悪く、「エコカー」とは対極的な存在とされています。

今回デトロイト・ショーで、こうした昔からのピックアップトラックが大手を振っていたのかというと(いや、実際には展示されており、確実に存在感を放っていたのでしょうが)、各社の新モデル技術発表を見ているとそうとは思えませんでした。

代表もこのブログで何度も、自動車の様々な意味での「ダウンサイジング」は「エコ」の基本だということを書いています。「ダウンサイジング」には、近年欧州系メーカーを中心に主流となりつつある小排気量過給エンジンの採用や、車体の軽量化や小型化も含まれます。また、代表も繰り返していますが、ハイブリッドもエンジンへの依存を低減させて「ダウンサイジング」をもたらす技術でもあります。

オバマ政権も燃費規制を厳しく方向性を打ち出し、またガソリン価格が高止まりしている中、SUVといえどもその流れを無視出来るわけがなく、今回のショーの注目モデルの多くはこうした「エコ技術」を採用したモデルでした。

デトロイトで目についたSUV

具体的に挙げていきますと、大型SUVの象徴的モデルであるクライスラー『ジープ・グランド・チェロキー」の新モデルには、3.0lのディーゼルモデルが設定されました。高速ではこれまでの大型SUVと比較すれば非常に良い30mpg(12.75km/l)の燃費を誇るとうたっています。

上に挙げたピックアップトラックのフォード『Fシリーズ』も、既に「EcoBoost」と名付けられたターボ付きダウンサイジングエンジンモデルも用意されており、将来はアイドリングストップ機構を搭載するともされています。

また、VWも『CrossBlue』というアメリカ市場に向けたSUVのコンセプトモデルを展示しました。これは現行のVWのSUVである『ティグアン』と『トゥアレグ』の中間に位置するサイズのクルマで、コンセプトモデルには2.0lディーゼル・ハイブリッドが搭載されています。市販車もディーゼル・ハイブリッドになるのかは疑問ですが、コンセプトや写真を見る限りアメリカ市場での販売の可能性は高そうという印象です。

日本勢でも日産が次期ムラーノかと言われているコンセプトモデル『Resonance』を展示しています。コンセプトにはAWDのハイブリッドパワートレーンを積んでいます。こちらのデザインは市販では変わりそうですが、現時点では『シーマ』や『フーガ』のみとなっているハイブリッドシステムを次はSUVに持ってくるというのは、極めて妥当な方向性です。

ホンダは『Urbun SUV』というフィットベースとされるSUVコンセプトを展示しています。これまでに発売された小型SUVが代を重ねる中で大型化した中、再びこのような小型SUVの登場には期待が寄せられているようです。またホンダは昨年、小型自動車向けの新ハイブリッドシステムを発表していますので、それの搭載も期待されます。

なおアメリカでは、ピックアップトラックと同じくフレーム構造を持つもののみSUVと呼び、乗用車由来のクロスカントリー向けのクルマはクロスオーバー車もしくはCUVと呼ぶケースが多く、上記の『グランド・チェロキー』以外の車種はクロスオーバー車とされます。2012年の販売実績では、大型SUVが、ほぼ全てのセグメントで前年比でプラスなのにも関わらず前年割れしており、こうしたSUVの中でも小型化が求められているのが見て取れます。

本当に「エコ」って何だろう?

ここまで、今回のショーで目についたSUVを並べましたが、こういった車種を見ても果たして「エコ」に目を背けていると見るのでしょうか?確かに、軽自動車の販売台数が拡大し、また登録車ではハイブリッドのシェアが非常に高くなった日本から見ると、多少は燃費が改善されたとはいえどうしても燃費の悪くなるピックアップトラックやSUVが注目を集めるアメリカは「エコ」では無いと見えるかもしれません。

しかしこのブログで繰り返し述べているように、本当の「エコ」つまり化石燃料消費を減らし、温暖化ガス排出の低減をすることを求めるのであれば、1台を電気自動車に代えるよりも、100台の既存車両の燃費を10%上昇させることのほうが効果があります。

また、既存車両の買い替えも、消費者が求めるものでなくてはなりません。それぞれの国・地域がそれまでの伝統などによって形作られた自動車文化を持っており、それを急激に変えることは非常に困難というよりもそれを行った際の反発を考えると不可能でしょう。

その時に自動車メーカーに提示できるものを考えると、これまでの利便性を捨てずに、アメリカで言えば大型車の居住性や堅牢性をそれほど失わずに、なんとかそれの燃費効率を向上させることこそが「エコ」でしょう。その点で見ると、私個人としては、今回のショーは各社とも現時点で可能な技術でこうしたSUV達を何とか次世代でも生き延びさせようと苦心しているところが見え、決して「エコ」に背を向けたショーでは無かったと感じています。

ただし、燃費規制の目標ハードルは非常に高く、これでもまだまだだというのも事実で、ピックアップトラックやSUVが今後も存在し続けるには、更なる技術改良が必要となるのは間違いありません。(これはヨーロッパの高級車にも言えることですが)

EVやハイブリッドが少なかったから「エコではない」というのは、あまりにも表層的な見方だと思います。(それと、ハイブリッドは決して少なくないのでは?)また、シボレーのコルベットの新型が注目を集めたともいいますが、そもそもこうしたスポーツカーは昔からモーターショーの華です。これはアメリカに限らず、僕も自分が実際に見たEVやPHEVが多く展示されたとされたヨーロッパのモーターショーでも、最も注目を集めていたのは高級スポーツカーでした。

2012年のアメリカ市場を見るとピックアップトラックが最量販車であったことは事実ですが、一方では販売車両の平均燃費が過去最高であったという報道もあります。私個人としては、今後の自動車を考える際には、現実的な「エコ」の視点を忘れずに見ていこうと思っています。