福島第1の放射能汚染水漏れと2012年の電力CO2

今回の福島第一原発での高濃度放射能汚染水タンクからの漏水事故と東電のこれまでの一連の対応を見ると、緊急事態での危機管理マネージどころか、設計組立品質および運転維持の不具合未然防止の初歩の初歩すら機能させられなかった東電という組織体にこれ以上まかせておけないとの印象を強く持ちました。

以前のブログでも述べましたが、地球温暖化緩和にむけたすべてのジャンルでのCO2を代表ガスとする温暖化ガス排出低減は待ったなしで、このためには安全が最優先ではあるが原発の再稼働と安全性をさらに高めた新しい原発開発を続けるべきと主張してきました。 

しかし、この体たらくでは、この安全確保と新しい取り組みをこの機能不全に陥った組織に任せることは出来ません。少しでも国民の理解を得ることが再稼働の前提なのにも関わらず、電力会社自らが逆に不信感を募らせるばかりで、いよいよ困難な状況となってきています。

プラグイン車は原発を前提で構想された

9年ほど前にピークオイルに備え、地球温暖化緩和のために自動車からのCO2排出も抑える実用に近い手段としてプラグインハイブリッド(PHV)の開発をスタートさせました。その前提には、原発による低CO2かつ安価な夜間電力をこの充電電力として使うシナリオがありました。

3.11前の日本のエネルギーシナリオでは原子力発電の拡大が謳われており、低燃費HV車の電池をエネルギー密度の大きなリチウムイオン電池に変え、この格安で低CO2の夜間電力を電池の充電に使い、CO2削減を果たそうとの考えでした。

PHVなら、バッテリ電気自動車の最大の課題である航続距離不足の問題も解決できます。しかしこのシナリオも3.11福島第1原発事故で大きく狂ってしまいました。太陽光、風力などリニューアブル発電に多くを期待できないことは明らかで、低CO2とともに安価な電力であることが必要条件となります。

私自身、電力村の住民でも原発の利害関係者でもありませんが、脱原発でかつ国際競争力を維持しながらの低CO2社会の構築、低CO2自動車のシナリオは描けませんでした。もちろん二度と高濃度放射能汚染物質を世界にまき散らすような原発事故は起こしてはならず、原発の安全性の確立なくして低CO2社会は絵にかいた餅になってしまいます。

原発の安全確立と低CO2技術が日本の今後の鍵

今年の秋にはIPCC5次レポートが発行されます。今月初めの日本の猛暑なども含め世界的に気象の変動は明らかに大きくなってきており、未だに人為的な発生起源の温暖化ガスが気候変動の要因であることを否定する声は聞こえてきますが、とうとう400ppⅿを突破した大気中のCO2濃度などの影響が皆無とも証明できず、将来の人類のために気候変動リスクを回避する活動を起こす必要があるのは間違いないかと思います。

福島原発事故の影響を自分の眼で確かめ、これからの低CO2エネルギー、低CO2自動車のシナリオを考えたいと思い、今年の1月には福島第2原発の見学をさせて頂きました。その際は、増田所長みずから、停止中の原子炉内部からさまざまな緊急冷却ライン、流行語にもなった炉心圧力のベントライン、原子炉の底にあるサプレッションチェンバー、さらには津波影響で倒壊したオイルタンク、大型タンクローリーを間近に目にし、天井を超える水を被った緊急冷却用ディーゼル発電機と冷却水ポンプ建屋、ガスタービン発電機トレーラー車など、その後の緊急安全対策工事についても説明を頂きました。

当時の現場の状況、緊急事態での原発安全停止の基本、「止める、冷やす、閉じ込める」を所長のリーダシップと所員と関連会社のスタッフの献身的な活動により成し遂げた状況など、増田所長、および所員のかたがたから現地、現場で詳しく説明を受け、東電福島第2原発現場の現場力に強く感銘を受けたのは事実です。

今回の漏水不具合では、今さら本社のトップを現場に貼り付けたから何とかなるような話ではないと思います。次々と発生する緊急事態をさばき、オペレーションによる不具合発生を未然に防ぐためには、プロの緊急プロジェクトマネージャと現場マネージャーのタイアップが不可欠となります。それこそ現場力の結集とそのパワーを生かす、リーダーのリーダシップとマネージパワーが必要です。

そのような人材を探し出すことがトップの役割です、現状のトップマネージではこの人材を探し出すことすらできていないとしか思えず、これもまた今回の事故が人災であったと言わざるを得ない大きな要因になっています。

今後は国が全面にでるようですが、政治家や官僚が現場作業をやるわけでも、やれるわけでもありません。やれる人材、危機管理オペレーショのリーダーを見出すこと、そのプロ人材の組織化、全面的な支援が政治家や官僚のやるべきことであり、日本の新しい危機管理チーム結成を期待されます。この収束なしに、原発再活用への道はありません。

おりしも先日、2012年度の日本9電力会社の電力CO2発生値が電力各社から発表されました。原発のない沖縄電力を除いて、残り8社の電力CO2は大幅な増加を示しており、電力各社が3.11前に設定していたCO2削減目標はいずれも未達となってしまいました。

大飯原発以外はすべて停止していても、この猛暑の夏のピーク時を節電と火力シフトで乗り切ることが出来ました。しかし、原発分をまかなったのはほぼ100%が石炭、石油、天然ガスの火力発電で、リニューアブル電力ではありませんでした。

このところの貿易赤字も、電力各社の赤字も、さらに温暖化ガスCO2の大幅増加もこの火力発電シフトが原因となっています。ポスト京都議論の進展は遅れていますが、低CO2技術で貢献していってこその日本の存在価値であり、真水部分(温暖化ガスの国内削減分)の削減にしっかり取り込まずして国際貢献は考えられず、この点からも安全確保が前提ではあるが、原発再活用議論に目を背けて進めることは出来ないのではないでしょうか?