決まったようで決まらない欧州の自動車CO2規制

7月 04 2013

欧州不況が長引いています。自動車販売も絶不調で、6月は少し持ち直したものの昨年比4.7%減、今年の上半期では8.1%減と自動車メーカーの工場閉鎖、人員整理、経営危機が話題となっています。この不況に晒されて背に腹はかえられないのか、既に決まったはずの2020年欧州自動車CO2規制がすったもんだしています。

EU委員会の政策立案レベルではほぼ決まり、ということは欧州自工会ACEAや各自動車メーカーとの交渉も終了し渋々でも合意したはずの案ですが、各国政府の合意による委員会決定を通過した後で、本来はまもなく行われる予定だった最終的な本会議での議決が延期されているという状況になっています。

単純には比較できない各国の規制

欧州は燃費ではなくCO2の排出量で規制値が定められており、現在決まっている規制値は2015年にメーカー毎に販売した新車の総平均CO2 (欧州公式認定試験NEDCのCO2値)を130g_ CO2 /km以下とすると定めています。この数値は燃費換算すると17.8km/Lになります。もし平均値がこの規制値を超えた場合には、台あたりいくらと規定されているペナルティ(罰金)が科せられる厳しい内容です。次の規制強化案が2020年に95g_ CO2 /km、ガソリン換算値として24.3㎞/Lにしようとの提案でほぼ決まっていました。

燃費規制値比較

ちなみに最近公表された日本の2020年燃費基準は小型自動車の平均燃費として20.3km/L(JC08)となっています。図1はアメリカ・オバマ政権が提案している2025年までのCAFE規制値の推移にこの欧州、日本、中国の2015年、2020年の燃費基準値、燃費規制値を㎞/L換算してプロットしたものです。このブログでも以前も紹介しましたが、この燃費数値だけを比較して、どの国が厳しい規制値かどうかを判定することはできません。この数値を出す、公式試験法それぞれ走行パターンもその条件も違うからです。

プリウス公式燃費

表1にこれも以前のブログで紹介したプリウスの、日本、米国、欧州の公式燃費値の比較を示します。これも厳密に言うと、それぞれの仕向け先で仕様が違いますので、まったく同じクルマでの比較ではありませんが、ほぼ同等のクルマの公式燃費比較として見ていただきたいと思います。アメリカCAFEは乗用車と軽トラック(Light Duty Truck)の二本立ての規制で、さらにその合算コンビネーション燃費値が規制値として定められています。

なお、米国の軽トラックとは、日本の軽トラックを思い浮かべると大きな間違いです。日本でも輸入車を時々見かけますが、いわゆるBig3のV8、V6エンジン搭載のフルサイズトラックや大型SUVを含むカテゴリーです。またアメリカの公式燃費にはCAFE計算用の燃費値と広告宣伝に使うことが義務付けられているラベル燃費の二つがあり、全く違う燃費値になっていることにも規制値比較を行うときには注意を払う必要があります。

今日の話題の欧州の2020年規制値95g_ CO2/kmについてですが、低燃費車に採用している低燃費技術にも走行パターンによる得意・不得意がありますので、厳密には燃費値だけの単純比較での厳しさ判定はできませんが、今回はプリウスの燃費値比較から厳しさを考えてみたいと思います。

日本のJC08で32.6㎞/Lのプリウスは、欧州NEDCモードのCO2で89g_ CO2/km、燃費値として26.0㎞/Lとなっています。ちなみにアメリカのCAFE基準では30.1㎞/L、ユーザー燃費平均に近づける補正をおこなったラベル燃費では21.3㎞/Lと、同じクルマでも燃費値は大きく違います。このプリウスならばなんとか2020年欧州CO2規制値をクリアしています。

前置きが長くなってしまいましたが、欧州CO2の公式燃費モードNEDCでのCO2値95g_ CO2、24.3㎞/lは、もちろん日本のJC08モードでの20.3km/Lよりもはるかに厳しく、米国の2025年CAFEのコンビ規制値よりも厳しい水準ではないかと推測しています。

規制案反対をするドイツ

欧州連合(EU)は発足当時からエネルギー・環境政策を重要政策として位置づけ、世界でこのエネルギー・環境政策をリードすることで経済発展に結び付けようとしてきています。

ドイツはその中でもエネルギー・環境を最重点政策とおき、メルケル政権も3.11福島原発後いちはやく脱原発を掲げ、太陽光・風力といったリニューアブル電力にも力を入れてきました。

ですがどうも今回の2020年CO2規制の最終決定を渋っているのはその環境先進国ドイツとのニュースが流れています。今の経済不況下で雇用にも大きく影響を及ぼす規制強化の導入は避けるべきというのが論拠のようですが、その裏にはグローバル化が進んだ中で欧州不況下でも経営状況がまだ安定しているドイツ高級車メーカー救済の思惑が透けて見えるように思います。

雇用に直結する経営的な苦しさであればフランス・イタリア勢のほうがより苦しいはずで、またドイツ勢のなかでもGM傘下オペル、欧州フォードなども苦しんでいます。しかしながら、今回の新規制案には、フランス・イタリア勢やフォードなどは積極賛成を表明しています。これはドイツの、特に高級車メーカーはサイズの大きなを中心としており、平均燃費での規制では苦しく、フランス・イタリア勢は小型車を主力としており平均燃費では優位性があることが背景にあります。

またこれには、今の電気自動車情勢も影を落としているように感じています。ドイツは、2009年頃から国策として電気自動車推進政策を掲げ、次世代電池開発、電気駆動技術開発にも力をいれ、産官学プロジェクトにもさまざまな資金投入がされてきました。2020年までにはこの電気自動車普及が進み、米国カリフォルニア州ZEV規制のような電気自動車に有利なクレジットを与えると、なんとかこうした高級車メーカーも規制対応もできるとのシナリオが作られていたように思います。

しかし、その後の量産販売された電気自動車の商品力、売れ行き、充電インフラの整備状況から、2020年時点の電気自動車普及率は当初予定からは大きく下方修正をせざるを得ず、その時点でのクレジット程度では達成が悲観的となり、その結果として規制決定引き延ばしているとされています。

アウトバーンと高級車を維持しようする環境先進国

日本の中では、ドイツが環境先進国、模範国として取り上げる向きもありますが、私は巧いイメージ戦略のたまものあり、実態としては模範国であるとは思っていません。地域レベルや国民の全体の意識として、リサイクル、リユース、公共交通機関の整備、交通弱者にやさしい街づくりなど、見習うべきところが多いと思いますが、自動車分野・電力分野ではそれほど環境対応に進んではおらず、これを巧妙に使い分けているように思います。

特に自動車に関連した部分でもっともそれを象徴するのが、速度無制限のアウトバーンの維持です。もちろん、自動車屋としてアウトバーン走行は今も魅力的で、この交通環境で通用するクルマ作りがわれわれのターゲットでもありました。自分のクルマで、結構な距離を短時間でストレス少なく安全に移動することはクルマの目指してきたところです。

その性能を発揮できる道路環境は非常に魅力的ですが、平均速度が高くなればなるほど燃料消費が急激に増加することは当然です。速度無制限といってもすべてのクルマが200㎞/h越えで走っているわけではありませんが、フランスやベルギーといった近隣国が高速道路で120ないし130㎞/hの法定速度制限を決め、厳しい取り締まりを行っているのに対し、アウトバーンの流れがはるかに速いことは事実で、ドイツでも上限速度130㎞/hを推奨しているといっても、150㎞/h以上の流れは普通です。

私も運転していた後ろから200㎞/h越えで迫ってくる高級車、高級スポーツカーにヒヤッとさせられることもしばしばありました。燃料消費削減との点でいえば、まずは最高速制限の強化と取り締まり強化が効果的ですが、これに手を付けずエコ重視というのはある種の矛盾です。

勿論、自動車文化発祥国であり、自動車技術牽引国とて、また自動車移動にとって快適な環境を手放したくないとの思いは自動車屋としてよくわかりますが、やはりダブルスタンダードの謗りは免れないと思います。

脱線しますが、そのような道路環境、自動車社会で、今の電気自動車が街乗りのスクーターやコミュータ限定にならざるを得ないのは当然で、各地の実証試験やそこに提供されるクルマの性能からその手のクルマは今使われているクルマとは別のジャンルのクルマであることがはっきりしてきたこともこの動きにつながっているように思います。

日本の規制はぬるま湯

また95g_ CO2 /㎞規制の厳しさに話を戻しますが、プリウス、アクアクラスのハイブリッドならこの規制を今のクルマでクリアしています。最近発売されたアコードハイブリッドでもう一息で、今日発表された新型フィットハイブリッドなら十分にクリアするレベルです。

欧州勢でも小型ディーゼル車なら95g_ CO2には燃費チャンピオンの特別バージョンでなくとも届くレベルです。V10、V8、V6エンジン搭載の高級車、高級スポーツにとっては、ディーゼル、ガソリンとも極めて厳しく、何らかの電動化、ハイブリッド化が不可欠です。
さらに、欧州でも多い馬やボート、トレラーハウスをけん引することも多いSUV、ハイブリッドといえどV8、V6エンジン搭載のレクサスなど日本の上級車もCO2の低い小型車の合算でのCAFEといえども、足を引っ張らないようにハイブリッド燃費の今以上の向上も必要になってくると思います。

この欧州規制に比べると日本はまだまだぬるま湯で、2015年基準のJC08 17.8km/Lはすでに昨年新車販売の総平均でクリア、2020年基準のJC08 20.3km/ Lもプリウス32.6、アクア35.4、アコードHV 30.0、新型フィットHV 36.0と言っている状況では簡単に達成できるのではないでしょうか? 

日本にはフルサイズピックアップはありませんが、大型SUV、大型ミニバン(アメリカのミニバンに比べればかわいいものですが)がありますが、これの合算CAFE燃費基準といえでもそれほど厳しいものではありません。現役時代も、日本の燃費基準も排気規制値もほとんど頭には入っていませんでした。

米国、欧州基準を目標に開発をすすめれば、技術的には日本対応はほとんど問題がないのがあたりまえの印象でした。あるところからトップランナー方式と言い出しましたが、まだまだ護送船団方式の色彩が色濃く残っています。試験法もしかり、欧米のような法規制、罰金方式にならう必要はありませんが、インセンティブ、税制優遇&ペナルティーなど低燃費技術を国内マーケットで競い合うことも、世界をリードする低燃費自動車開発には必要ではないかと思います。高級車でも欧州規制をパスできる低燃費車を提案できれば、新興国でも伸びている世界の高級車マーケットでの競争力、ブランドイメージを高めることができ、さらに低燃費車普及を加速させる必要がある新興国でのハイブリッドプレゼンスを高めることができるのではと思っています。

日本発進の低燃費技術、ハイブリッド応援団のつぶやきです。