トヨタハイブリッド車が累計500万台を突破

先週のブログの最後で、トヨタ自動車が発表した、「トヨタ自動車、ハイブリッド車のグローバル累計販売台数が500万台を突破」のニュースをお伝えしました。

この500万台突破をお知らせするトヨタの記念コンテンツ(http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/environment/hv5m/)には当時プリウスの車両主査(車両チーフエンジニア)を務めた、現トヨタ自動車副会長の内山田さんのメッセージ動画や、記念動画、1997年から現在までの累計販売台数の推移グラフが紹介されています。

次ぎの自動車をわれわれがリードしようとして、多くの仲間達の熱い想いと寝食を忘れた取り組みに支えられ、内山田さんが車両チーフエンジニア、私がハイブリッドシステム開発リーダーと二人三脚で数多くの修羅場を乗り切って送り出したのが初代プリウスです。

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プリウスが目指したのはモータリゼーションの発展によってエネルギー資源問題、環境問題、渋滞、交通事故といった自動車のネガティブインパクト増大を抑え、自動車のさらなる発展をめざす21世紀のグローバルスタンダードカーのリードオフ役となることでした。

内山田さんのメッセージにもあるように、このようにエネルギー資源や環境問題の緩和に貢献していくには、普及拡大が前提になります。私もハイブリッド開発エピソードをお話するときには、当時から『いかにそのクルマが低燃費で環境性能がいかに優れていても、テストコースだけを走るプロト車や、ショールームに飾るショーカーでは意味がない、買っていただき、走り、使い、それを喜んでいただけるクルマ』が目標と申しあげてきました。そのハイブリッドが、15年で累計販売台数500万台突破、感無量であるとともに、このバックにこのハイブリッド車を選び愛用されている500万のユーザーの方々がおられることの重さをジワッと感じています。

これまで何度か、このブログで開発エピソードや発売初期のエピソードをお伝えしていますが、世界中の多くのお客様に支えられここまでたどり着くことができました。

1997年に販売開始された2つのハイブリッド

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図はこのトヨタ記念コンテンツにあった1997年から現在までの累積販売台数のグラフです。

トヨタでのハイブリッド車販売スタートは、1997年12月の初代プリウスではありません。その年の8月、トヨタのコミュータバス、コースター・ハイブリッドをプリウスに先駆けて発売を開始しています。このハイブリッドの狙いは、燃費よりも排気のクリーン化で、ディーゼルエンジンの変りにターセルやスターレット、カローラに使っていた排気量1.5リッタのガソリンエンジンを使ったシリーズタイプのハイブリッドです。電池は鉛、外部充電型ではなかったように記憶していますが、電池をエネルギーバッファーとして使い、エンジンは発電用として走行負荷の変動をできるだけ抑え、排気浄化能を高めていました。
大都市の幼稚園バスや、北海道のリゾート施設の送迎用として使われていました。台数は多くはありませんが、このハイブリッドバスが最初です。

その1997年の総販売台数は、トヨタのニュースリリースによると、0.3千台と書かれており、累積500万台達成を表したこのグラフの中では、線としても識別できるレベルではありませんが、このハイブリッドバスと、1997年12月10日に豊田市にある高岡工場から各地の販売店に運ばれ、その年に登録された約300台のプリウスが最初の一歩を刻んでいます。

カーオブザイヤー受賞後に生産開始

初代プリウスは、この年の日本カーオブザイヤーなど多くの賞をいただきましたが、日本カーオブザイヤーの受賞条件はその年に量産車としてお客様に販売したクルマが対象です。
10月の新車発表後、11月にちょうど次の年の冬期オリンピックが開催される長野を拠点とし、その競技会場巡るコース設定で行ったジャーナリスト、メディア試乗会で走りを確認にただき、河口湖にあるリゾートホテルで開催された日本カーオブザイヤーに臨みました。その試乗車は、先週のブログに書いた量産トライの号試車で、まだ生産開始をしていない状態でのエントリーと異例中の異例ながら、トヨタの次世代自動車へのチャレンジを評価いただき受賞することができましたが、それを受け取るためにも年内には量産と言える規模の登録を行うことが条件だったと思います。

この長野での試乗会もなんとか間に合わせた突貫作業で、システム開発担当スタッフはまだまだ猫の手も借りたい状態のなか、この時期に開発現場にいると邪魔な私などのマネージャーを集めてこれらイベントに参加しました。この長野の試乗会でも、走行中のシステムダウンが発生、原因究明にきりきり舞いをしたことを思い出します。

最近は自動車ジャーナリストからトヨタのハイブリッド車に対し、エコは良いがクルマの魅力に欠けるなどの厳しい声も聞こえてきますが、この初代ではクルマの基本性能としてはまだまだの状態でしたが、自動車ジャーナリストの方々、メディアの方々も日本発の自動車技術として応援に回っていただきました。

何とか、12月10日の生産開始までに、システムダウン不具合対策や、最後の品質、信頼性確認作業を済ませ、この日本カーオブザイヤー受賞の条件をクリアさせることが出来ました。これも今としては、なつかしい思い出です。

ハイブリッドは普及はこれから更に

丁度このブログがアップされる今、豊田市で、開発に携わってきたメンバーが集まり、ハイブリッド15年、累計販売500万台の記念パーティが開催され、OBの私にも声がかかり、
この原稿を書き終えた後で豊田に出発する予定です。

皆と一緒にこの15年、500万台の美味しい酒を酌み交わしたいと思っています。

しかし、世界で10億台を超える自動車保有台数の中で、なんとか0.5%シェア、まだ1%にも届かないことも肝に銘記する必要があります。

今日の日経新聞に「エコカー苦戦」の記事が載っていました。電気自動車の販売がはかばかしくないことを題材に、新興国でのVWを代表とするコンベ車の低燃費車普及を対比させ日本のエコカー苦戦との論調でした。

この中で、エコカーの市場規模拡大を取り上げていましたが、コンベ低燃費車であれ、ハイブリッドであれ、これから目指すのは全てのクルマのエコ性能向上です。100%エコカーが目標、100%を目標にすると、エコ性能だけではなく、クルマとしての基本性能、走る喜び、持つ喜び、買う喜びを感じていただけるクルマの総合力での競争が決め手です。

クルマの総合力発揮にも低燃費エンジンとともに強力モーター、強力な電池のフルハイブリッド機能が力を発揮すると思います。1%、5%、10%、さらに100%へとカテゴリーは問いませんが自動車の電動化、何らかのハイブリッド技術が次世代自動車の進化をリードしていくことを確信しています。