徳大寺さんの叱咤、プリウスとカローラ

『間違いだらけのクルマ選び』2013年版を読みました。

先日、書店で徳大寺有恒さんの『間違いだらけのクルマ選び』2013年版をみつけ、すぐ購入し読んでみました。この『間違いだらけの…』は、1976年1月に第1巻が発行され、レーシング・ドライバーの経歴をお持ちの徳大寺さんが実際に厳しくクルマを転がし、その上でプロの目線ではなくユーザーの目線でその年のクルマに辛口の評点を付けるところから、自動車購入時の参考書としてだけではなく、私を含めた自動車エンジニア達の必読書でした。

2006年1月に最終刊が出版され、私も前年の11月に36年のトヨタでの開発エンジニア人生にピリオドを打ち、開発現場から身を引いた直後でしたので、この最終刊を手にした時には感傷的な気分になったことを思い出します。その後、新たに若いかたとご一緒に2011年に再開され、今回がその3年目になります。

1976年の第1回は、2代目マークIIとカローラに厳しい点を出し、現役のエンジニア時代には、自分がエンジン開発に携わったクルマがどう書かれるか気になり、辛口に取り上げられと「こんちくしょう、次こそは」と闘志を燃やし、激賞されたクルマは自分でも乗り回してみてあら探しをしたりして、それらも参考にしながら次ぎのエンジン開発に取り組んでものです。私はエンジン開発屋でしたが、エンジンのレスポンス、エンジンの音色、ドライバビリティはクルマというパッケージングとして見極めることが必要と、言い訳をしながらベンチマークとして購入する他社のクルマも、テストコースだけではなく、社外にも持ち出して乗り回していたものです。

「エコカーとはなんぞや?」

徳大寺さんには初代プリウスは大変高い評価をいただきましたが、2代目が火をつけたエコカー=ハイブリッドの流れが顕在化すると、それ以降はシビアな評価に変わってこられた印象です。3代目プリウスが登場した2009年12月には『間違いだらけのエコカー選び』という名の本を出され、そのまえがきで、「エコカーとはなんぞや?」との書き出しで、将来のクルマがハイブリッドに代表される「エコ」だけで良いのかと警鐘をならしておられました。

第1章のタイトルは「ハイブリッドは地球を救わない」。これは徳大寺さんご自身が付けられたタイトルかどうかはわかりませんが、「ハイブリッド」の代表格プリウスへの宣戦布告のような書き出しで、更に4章のはじめには「クルマは単なる移動の手段でいいのか?既存のハイブリッドカーに対する最大の疑問もじつはこの点にある」と書かれています。

「地球に優しいクルマ」との表現は、初代プリウス以来トヨタとして使って来ましたし、わたし自身も講演、インタビューなどではハイブリッド開発の狙いとして説明に使ってきました。しかし、正直言うと少し違和感を持ちながら使っていたセリフです。

自動車エンジニアとしての私の40年は、排気ガス対策のクリーンエンジンからハイブリッドまで、モータリゼーション拡大による自動車のネガティブな部分を減らし、人間社会に受け入れて貰えるクルマを目指すことだったと思っています。単なる移動の手段、足としてだけではなく、乗り回すこと、そのクルマの中で過ごすこと、そして保有することに価値を感ずる人たちに支えられてクルマは発展してきました。

エコを突き詰めていくと、徳大寺さんが書かれているように、移動手段としての意味、目的もなくクルマを走らせること、保有していること自体が『悪』と言われてしまいます。そうしたくない、走らせることを目的にクルマを持つことがこれからも許容されるように、ハイブリッドプリウスは開発したつもりです。「地球に優しい」との受け取られかたによっては不遜な表現と気にしていました。「エコ/低燃費/低CO2/クリーン」は当たり前の基本性能、その上で、「クルマは単なる移動手段でいいのか?」の疑問に答えられる、ハイブリッド車を目指しながら、私のエンジニア人生は幕引きを迎え、後を後輩達に託して現在に至っています。

プリウスは単なるエコな移動手段なのか?

ハイブリッドは、あくまでも燃費効率向上の手段です。その要素を突き詰めた結果が初代プリウスのハイブリッドに収斂したということに過ぎません。ハイブリッドには燃費効率向上を目指すほとんどのメニューが含まれています。エコラン、回生、エンジン停止/モーター走行、エンジン燃費最適運転、さらにアトキンソンエンジン、回生協調ブレーキなどなど、クルマ側も徹底した転がり損失減らし、空気抵抗の小さいデザイン、これが減速回生量を増やすことにも効果を発揮しました。

もちろん、車両軽量化は効率というよりも、クルマを走らせるエネルギーそのものを減らすために効果的です。初代から3代目まで、システム出力は高めながら、コストダウンともに取り組んだのはハイブリッドシステムの軽量化です。初代に比べると40%以上の軽量化は果たしているはずです。もちろん、ハイブリッドのエコ性能の進化もめざましく、カタログ燃費では、初代の28km/リッター、2代目35.5km/リッター、3代目38km/リッター、アクア40km/リッター(いずれも日本10-15モード)と延ばしています。実燃費も着実に向上していますが、カタログ値ほどの向上感度はないようです。

その上で、「単なるエコな移動手段」から脱皮できていないとのお叱りに、今答えがだせているかを問われているのが、この『間違いだらけのクルマ選び』2013版でした。自分の足として、2代目プリウスを2台、5年で12万キロ走り、3代目プリウス、その限定PHV、今年その量販場プリウスPHVに切り替え、3年半で6万キロを走り回りました。これだけでも「エコライフ」ではありません。しかし、プリウス以前も年2万キロは走る、クルマのヘビーユーザーでしたので、この低燃費は「単なるエコな移動手段」に対し、単なるを外していただきたいほどのビッグ・アドバンテージであることをガソリン給油時の支払いの度に感じます。

3代目になってちょっとエンジン騒音が気になってきましたが、巡行運転の静かさ、スムースさ、長距離ドライブでの疲労感が少ないクルマであることもアドバンテージです。これが「単なるエコ」ではなくユーザーから高い評価をいただき、ロングベストセラーを維持できている由縁です。

次世代のスタンダードは何?

しかし、まだ徳大寺さんが「クルマは単なる移動の手段でいいのか?」と投げかけられた疑問に、上の反論をしながらも、正直言って私も『クルマとして、“エコ”以外のところでやりたかったところがまだ実現していない』と感じています。

その何かを探るためにも、ベンチマークとして注目しているのがVWニューゴルフです。この『間違いだらけのクルマ選び』2013年版が激賞し、満点の10点をつけ、また多くのモータージャーナリストが高い評価を与えています。今年10月のパリMSで見ましたが、一見して外観は先代の6代目から変わらず、大々的に”Das Auto!=これがクルマだ!“と打ち出していましたが、またスペックをみても、それほどの強いインパクトは受けませんでした。しかし、スペックをみると、車体の大幅な軽量化に取り組み、教科書通りの低燃費技術のテンコ盛り、ハイブリッドではなく従来技術と謳っていますが、この先はフルハイブリッドしかないのではと思わせるようなメニューでした。

6代目を乗った印象では、実走燃費に優れ、安心してハンドルが握ることができ、踏み込み気味で走っても描いているとおりのトレースで回れるクルマ、さらに室内の質感、シャシーの剛性感は残念ながらプリウスを大きく上回っている印象でしたので、機会があれば是非日本だけではなく、ドイツのアウトバーン、アップダウンの多いドイツ、フランスのカントリー路を走ってみたいものです。

 ちなみに、この本ではプリウス7点、アクア9点とつけられていました。ハイブリッド車プリウスやアクアとニューゴルフとの比較は、しっかり試乗をしてからまたブログで報告してみたいと思います。6代目ゴルフ試乗の印象とスペックからの判断では、クルマとして更に進化させているようで、次ぎのプリウスでは、この3点を埋めさらに上回れるように、このゴルフをベンチマークとして、しっかりとハイブリッド(エンジン+電気駆動)*プリウスの進化に取り組み、“エコ”は意識しなくとももちろん、クルマとしての+αも見せて欲しいものです。

もっと明確なメッセージを持ったクルマを!

最後にこの本でショッキングだったのが、何と新型カローラに10点満点中の1点がつけられたことです。ばっさりと切り捨てられてしまいました。私自身、実際にアクセルを踏んで走ってはいないので、反論も、肯定もできませんが、非常に残念、無念です。私の2台目のマイカーが初代カローラ、そしてその車が私にトヨタを志望させました。その系譜を受け継ぐ第11代カローラがこの酷評です、販売実績でこの酷評に反論して欲しいのですが、どうもカローラというブランドを考えると明るい顔の出来る売れ行きではないようです。

私の印象も、外観と乗り込んでみた位ですが、正直言いますと「このクルマに込めたものが何か」「このクルマが何を目指そうとしているのか」を感ずることができませんでした。近年、その手のクルマが増えてきていることを、トヨタのクルマ作りに携わる連中は猛省しなければいけないと思います。

上ばかり見て、トヨタの勝手な事情が透けて見えるようでは、それがクルマに現れてしまいます。そこにも、エコ+α、未来のカローラへの夢を膨らませ、世界へメッセージを発振できるクルマを目指して欲しいと願っています。カローラは捨ててはいけない、捨てて欲しくないブランドです。この本の評点1点も、徳大寺さんが厳しいながらも愛のあるカローラ復活を願った1点と感じました。