地球温暖化対策基本法案が廃案に

守られなかった国際公約

総選挙のニュースに埋もれた形となってあまり注目されていませんが、野田首相の仕掛けた衆院解散により数多くの法案が廃案になりました。その中の一つが、「地球温暖化対策基本法案」です。これは、2009年に当時の鳩山首相が国連総会で宣言した「2020年までの90年比25%の温暖化ガス削減」の国際公約実現を目指して、国内排出量取引の実施などの13年以降の国内対策が盛り込まれる予定の法案です。

この廃案で来年度からの温暖化対策に関する国内対策が空白となり、今月26日から中東のカタール・ドーハで開催される「国連気候変動枠組み条約第18回締結国会議 (COP18)」でも、日本は何の対案なしに臨むことになってしまいました。

約束が守れなかったもう一つ鳩山さんの「普天間基地の最低で県外」と同様で、全くの裏付けも無く方策検討すら不十分状態なで「温暖化ガス25%削減」という、国内どころか国際公約にもなった前代未聞の「大嘘つき」のツケが「沖縄県民」「日本」に回されてきていることを、後任者である「噓」の嫌いな野田さんも自覚すべきです。

この「温暖化ガス25%削減」鳩山公約に対しては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(アジア版)のコラムニスト、ジョセフ・スタンバーグ氏が当時、コラムで「日本の“カーボン”ハラキリ」として、日本経済にとって残酷なジョークと言い切っていました。

その時において経済成長を抑制しない唯一に近い削減策が原発拡大でしたが、これすら3.11福島で吹っ飛び、そのうえ3.11前でも「自殺行為」と言われた国際公約だけは残っていることを忘れてはいけません。

エネルギー政策は全てのベース

地球温暖化対策としてだけでなく、石油資源問題、エネルギー安全保障問題からも、石油に燃料に100%依存していた自動車など輸送機関を筆頭に、暖房、照明、家電、情報機器など民生用、製造業などに使っているありとあらゆる一次エネルギーの化石燃料比率を大きく減少さえていくことが地球人類全体に課せられた課題です。

現代では農業も漁業もこの石油資源に依存しており、人間生活の全てがこの一次エネルギーに支えられて成り立っており、この全ての一次エネルギー源の大変革が迫られている訳です。自動車用代替エネルギーの有力候補に一つが電力、この電力も脱化石燃料の低CO2電力が求められています。

震災復興を含めて日本復活の全ての活動を支えるのも安全を前提とした安定した安価なエネルギー供給です。しかし、3.11から1年8ヶ月も経過したにも関わらず、この将来エネルギー政策議論すら進んでいないまま総選挙に突入していましました。

総選挙の争点のトップに脱原発議論があげられていますが、日本の復興や経済発展を果たすため将来エネルギー議論をパスしての脱原発論には首をかしげるばかりです。2010年のエネルギー白書では、日本の一次エネルギー消費のうち太陽光、風力、地熱、バイオのいわゆるリニューアブルエネルギーはわずか1%以下、水力を入れても5%以下に過ぎません。13.2%が原子力、残り81.9%が石油、石炭、天然ガスといった化石燃料で、この全てを輸入に頼っています。3.11後、この13.2%の原子力が一時ゼロとなり、国民をあげて節電に務めたとはいえ、代替のほぼ全てを化石燃料発電に切り替え、CO2を大きく増やして対応しています。

国内で「温暖化ガス25%削減」との国際公約は、当時以上に実現困難で、「嘘つき」と言われようが、「ハラキリ」となる前に取り下げるべきです。幸か不幸か、COP15での鳩山公約は全く影響力を及ぼさず、以降のCOP16.17でも強制力を持つ国際条約はまとまりませんでしたので、今がチャンスかもしれません。

脱原発を争点にする前に、日本の将来エネルギーをどう持って行くのか、また国際的には日本の代表として民主党の鳩山首相が約束した、今では全く実現不可能である2020年国内ベースで「温暖化ガス25%削減」の修正検討とセットで、脱原発議論をやって欲しいと思います。

「嘘」のない将来エネルギー戦略を

私自身は、3.11福島の原因究明と再発防止策を技術、運営/経営、安全保障、その仕組み作りを徹底すれば安全担保は可能と思います。その上でアメリカ、フランス、英国やIAEA(国際原子力機関)と連携し、地元理解を進めた上で再稼働が必要との意見です。

もちろん、今も15万人以上の方が、ご自宅から遠く離れ避難生活を送られており、貴重な教訓と言うには、今も継続するあまりにも重い現実に目をそらすことはできません。しかし、脱原発を決めたとしても、使用済み燃料の処理は必要で、仮に廃炉にするにしてもその間の使用済み燃料の保管、廃炉処理と長い期間と膨大な費用が必要です。世界が一致して脱原発に向かうなら別ですが、お隣の国では日本に面した沿海部で続々と原発建設が進められようとしています。

3.11福島の起こしてはならなかった大失敗を貴重な教訓に、日本科学技術陣の叡智を集めると、二度とこのような災害を起こさない安全な原発とその運営指針、安全保障体制、組織を作り上げることは可能ではないでしょうか?この重い体験からの再発防止技術、指針、体制を世界に発信していくのが、日本の原子力に携わった科学・技術陣を含む全ての関係者が果たすべき責任だと思います。

「温暖化ガス25%削減」の公約違反の影響は心配ですが、ハイブリッド車、電気自動車など低燃費、低CO2次世代自動車も、また鉄鋼、セメント、電力、さらに自動車製造、部品製造の省エネ化でも世界をリードしてきました。国内「温暖化ガス25%削減」を引っ込めたとしても、この省エネ・新エネ技術を世界に広めていくことで、公約以上の効果を上げることもできるはずです。研究開発、実用化、商品化、技術移転にも安心、安全、安定、安心なエネルギー供給が不可欠です。このエネルギー政策のゆくえが、日本が再浮上できるかどうかの鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。

現実に目をそらさず、各政党の次ぎの「噓」を見抜き、日本沈没とならない政権選択が行われることを信じて、投票したいと思います。新政権発足後速やかに、「噓」でも「夢」でもない、日本のエネルギー戦略とこれも日本が世界の省エネ・新エネ技術創出による「温暖化ガス削減」に実際に寄与していける新しい「地球温暖化対策基本方策」をセット作り上げていくことを臨みます。その土俵の上で、脱原発、縮原発、これからの取り組みを議論していって欲しいものです。