現代・起亜のアメリカ連邦ステッカー燃費詐称問題

11月 15 2012

燃費表示は新しい課題となってきた

今、アメリカで現代・起亜のクルマの連邦ステッカー燃費詐称問題が大きな騒ぎとなっています。この燃費詐称の勧告を行った部署が連邦環境保護局(通称EPA)で、排ガスクリーン度のコンプライアンス、公式カタログ燃費をメーカーの提出データ、公式認定試験結果により認定書を交付する責任官庁になります。

このブログでも以前、「低燃費のゆくえ」として、アメリカと欧州で、将来の厳しい燃費・CO2規制強化を求めるオバマ政権、EU委員会の決定についてとりあげました。
そこでは、アメリカ、欧州、日本での公式燃費試験法の違い、アメリカでは燃費規制で使われる燃費値とカタログ燃費としてクルマの販売で使わなければいけないステッカー燃費との違いについても解説しました。

地球温暖化、石油価格の暴騰から自動車の燃費性能、CO2排出性能がクルマを購入されるユーザーにとっての重要な選択基準となり、そのカタログ燃費値競争が世界中で激化してきています。今回の詐称問題は、その中で起こった問題です。カタログ燃費は、各国、各地域(EU圏)で定められた走行モード、計測方式、算定方式で計測され、その同じ土俵でフェアに試験し、算定した燃費値です。

もともとは、こうした燃費値は基本的にはユーザーが実際に走行したときの平均燃費値を示すものではなく、同じ物差しで車種ごとの燃費性能を比較し、空気環境の保全等を目的とした政策や法令に使用するためのものでした。こういった時代では、カタログ燃費とユーザー燃費のギャップは問題にはなりませんでした。しかし各国の中で、アメリカのカタログ燃費算定方式が、ユーザーの実走行燃費平均に近づけようと改訂したことにより、生じてきたのが今回のような問題です。

日本、欧州での公式燃費(カタログ燃費)は、決められた走行モード、計測方式、算定方式にのっとって行われ、基本的には認可官庁ラボ、もしくは公認ラボでの試験値が使われ、また社内申請値との相関チェックも厳しく行われています。

複雑化したためにEPAが全てをチェックすることは不可能に

アメリカの場合には、これまでカタログ燃費としてEPAが認定し公表し、販売店の展示車のフロントガラス(ウィンドーシールド)にその燃費値表示のステッカーを添付することが義務付けられていたことからステッカー燃費と呼ばれていましたが、これがユーザーの実走行燃費とのギャップが大きいことが問題になり、認定官庁のEPAが一般ユーザーから訴えられ、ステッカー燃費算定方式をユーザー実走行平均燃費に近づける方向で2008年に改訂を行いました。

今回の問題は、この新しいステッカー燃費と現代・起亜の対象車を購入されたユーザーが実際に走って得られた燃費値に大きなギャップがあるとEPAに申し出たことに端を発しています。以前のブログでも紹介しましたが、EPAはユーザー実走行燃費のアンケート調査、当時排気クリーン度と燃費評価として使っていた様々な走行モード燃費を用いた燃費修正方式を検討し、2008年にステッカー燃費算出方式とその表記方式の改訂を行いました。

この改訂は、ユーザーが実際に走行したときの平均燃費にいかに近づけるかが狙いで、ユーザーからクレームが出ないように、燃費を意識しないで走った場合のやや悪目の燃費値がでるように根拠もなく無理矢理つくりあげた修正方式との印象を持っていました。

しかし、以外や以外、同じクルマならアメリカも日本もユーザー実走行燃費アンケートの平均値はほぼ一致しており、それよりも少し悪目ながら非常に近い値に収まっています。この算出方式の詳しい説明は省きますが、排気クリーン度と燃費評価に使っていたアメリカのシティーモードとハイウェーモードに加え、零度以下での一酸化炭素排出レベルをチェックする低温COモード、ハイパワー車によるアグレッシブな急加減速運転の排気チェックモード、さらに夏のエアコン運転時の排気チェックモードを加え得た5つの試験結果から算定する方式です。

従来の算定方式ならば、シティーモードとハイウェーモードの2つだけですし、EPAが社内公式試験の試験手順、試験車の管理など、厳しい管理と規定遵守を求め、さらに認可試験のための排気ガス・燃費測定車をデトロイトの近くにあるEPA試験ラボに持ち込み抜き取りチェックを行い、社内申請値、EPA公式試験の両方を使い、排ガス合否判定、カタログ燃費値算定を行っていましたので、今回のような問題を起こすことはありませんでした。

今回はEPAが韓国の現代・起亜の社内排ガス・燃費試験ラボに立ち入り検査を行い、ステッカー燃費算定に使っていた社内公式試験燃費値が実際にはそこまでの値がでず、ギャップの原因になっていたことを会社が認め、EPAがこれを公表しました。11月7日付けのThe Wall Street Journal紙によると、米オハイオ州の住人3人が、米連邦裁判所に提訴し、集団訴訟としての扱いを求めているこの案件に対し、EPAは両社の13のモデルに燃費性能の不当表示があったとの見方を示したと報じています。両社は、社内燃費のテスト方法に誤りがあったことをみつけたとして、EPAの指摘を認め、ユーザーに対し燃費ギャップ分の燃費代を返却すると発表しています。WSJの記事による、両社の説明としては、「社内公式燃費に採用した試験の手続き上のミスが原因とし、EPAがすべての車種をテストするわけではなく、自動車メーカーに作業の多くを任せている」と伝えています。

私の経験から、試験の手続き上のミスとはとても考えられません。この記事のように、公式のカタログ燃費、通称ステッカー燃費算出として使われる5モード燃費データの大部分は社内公式試験データが使われることは確かです。2008年の改訂後では、基準となるシティーモードとハイウェーモード以外の試験モードデータは、特別な試験設備も必要で、準備時間を含めると試験時間も多くかかるため、そのほとんどが社内公式データそのままが使われ、EPAラボでのチェックは行われず、勘ぐればそれを見越して残り3つの試験データに実際に規定されている試験法、算定法では出ない燃費値を申告していたのではと思います。この推測どうおりとすると、この値をコマーシャルの宣伝にも使っていたことはFairnessから大きく外れていることは明らかでしょう。

アメリカでビジネスを行うのに必要なFairness

これまでのブログでも述べてきたように、われわれ日本勢も1970年代の大気浄化法マスキーの時代から、このアメリカにクルマを輸出し販売を行うためにはこのEPAの排ガスチェックを受け、公式認可を得ることが不可欠であり、この経験で多くのことを学びました。

その中でもの最重要として日本勢が定着させてきた考えが、公平性(Fairness)と実市場(Real World)です。アメリカで排気クリーン度の認可をもらう試験法で、厳しく問われるのはFairnessです。その試験モードを走っているときだけに作動し、その他のReal Worldでは作動しない排気クリーン装置とその制御は、規制逃れのunfairなやり方としてdefeat device(…無効にする装置)と呼び、それを使っていないことの誓約をさせられます。

これが徹底されるうえ、さらにEPAからクルマの持ち込み要求があり、EPAラボでのダブルチェックも受けることになります。EPAラボでの試験要求がないケースをWaive (要求の見送り)と呼び、こうなる正直なところホットしました。Fairにやっても、もし万が一EPAラボでの試験で規制値を満たさないデータがでると、生産開始も当然ながら販売開始もすることができなくなり、会社としては大きなダメージを受けてしまいます。幸いにも私自身は、自分の担当でそのような羽目に陥ったことはありませんでした。なんと言ってもFair & その法規性の目的であるReal Worldが問われると諸先輩からも叩きこまれました。

欧米自動車の背中を見ながら、日本勢が1970年代から、韓国勢が1980年代後半から欧米マーケットに進出し、その販売拡大を図ってきました。次世代自動車こそ、こんどは我々アジア勢が自動車の進化に貢献していくことが求められています。その基本がやはりFairnessとReal World、同じFairな土俵での厳しい競争を行い、その上でエネルギー、環境保全の効果を高める普及のための貢献活動では、是非協調路線で進めて行って欲しいと思います。