低燃費自動車のゆくえ

9月 20 2012

先月28日、オバマ政権は昨年11月に提案されていた自動車新燃費規制に、CNG車やEV車販売に対する追加クレジット付加などの修正を加え、2025年までに乗用車のメーカー別新車販売平均燃費値として、現行の35.5マイル/ガロン(15.1km/リットルから54.5マイル/ガロン(23.2 km/リットル)達成を義務づける燃費規制法案の実施を発表しました。

また欧州でも7月11日に欧州委員会の原案として2020年までに欧州市場で販売する全ての乗用車やSUVやミニバンなど軽商用車から排出される台当たりの平均CO2排出量を、現行の2015年規制130g/km(ガソリン燃費換算で約17.8km/リットル)から95g/km(ガソリン燃費換算で約24.3km/リットル)への強化案を発表しました。

いよいよ低燃費&低カーボン自動車へのシフトが待ったなしになってきています。今日のブログでは、「低燃費自動車のゆくえ」とのタイトルで、従来エンジン車からハイブリッド車までの低燃費化のアプローチについて私見を述べてみたいと思います。

数値そのままでは比較できない

以前のブログでも書きましたが、各国、各地域の燃費規制値の比較をするにしても、そのままアメリカのマイル/ガロン値や欧州のCO2換算でCO2_g/km値、日本のkm/リットル値を同じkm/リットル値に換算にて比較しているレポートを見かけますが、これは全く意味がありません。燃費値を求める試験法、その走行モード、算定方式が国毎、地域ごとに異なるからです。

一昔前の排気規制値の比較でも、排気ガス成分中の一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の規制値をg/kmに換算し、日本の規制値が一番厳しいとの言っていた時期もありましたが、日本の規制方式はエンジンの暖機運転をしたあとで10-15モードを走らせ排気ガス成分を分析する方式で、アメリカの1昼夜駐車した後でエンジンも排気触媒も冷えた状態からスタートさせ、大きい加速度と高い最高速度で算定されるアメリカの規制と比較すれば数値は低くとも、技術的には遙かに緩い規制でした。

燃費もこれと同じで、試験法、走行モード、算出法の全く違うものを単純比較はできません。またアメリカの中だけでも、CAFÉ燃費規制で扱われる燃費値と公式認証燃費値を決める連邦環境保護庁(EPA)から公表され、販売店での展示車フロントガラスに添付することが義務づけられているラベル燃費/ステッカー燃費と言われる燃費値とは、同じマイル/ガロンで表しますがまったく違う算出方式ですのでこれを混同すると厳しさの判断が大きく狂ってしまいます。

表1_プリウス燃費比較

表1は、同じプリウスの日米欧における公式燃費の比較です。日本、アメリカ、欧州向けの仕様で、車両重量、タイヤ諸元など微妙に異なりますが、ほぼ同じ標準仕様車の公式燃費値でも日本、アメリカ、欧州で大きく異なることがお解りいただけると思います。

いずれの公式燃費も、実験室に設置したシャシーローラにクルマを載せ、そのクルマを平坦路で走行させたときと同じような走行負荷が掛かるようにローラー軸に付けられている動力計でクルマの走行抵抗を調整し、規定走行モード(パターン)を走らせ排ガス性能と燃費性能を測定します。アメリカのコンビ燃費は、アメリカ都市内走行を想定したシティーモードと、ハイウエー走行を想定するハイウエーモードを走行し、シティー走行燃費のウエートを55%、ハイウエー走行燃費のウエートを45%として算定した燃費値をコンビ燃費と呼び、これをCAFÉ規制の算定基準燃費としています。

紆余曲折のアメリカ燃費基準

少し脱線しますが、このシティー走行モード(走行パターン)は自動車の排気ガスによる大気汚染が問題になった1970年代の初めに、その排気ガスのクリーン度をシャシーローラ上で評価する走行パターンとして作られました。

ロスの地方道4号線を走っているクルマの走行パターンを調査し、その代表的な走行モードを抽出して定められたことからLAナンバー4、LA#4モードと呼ばれています。当時のシャシーローラでは当時のクルマでもその抽出したモードを走らせるとタイヤスリップを起こしてしまうので、今も使われているこのLA#4 モードでは、実際の調査モードからスリップが起こらないように加速度、減速度を緩めた走行モードとなっています。

一方、ハイウエーモードは石油ショックの影響から輸入石油消費の削減を目的に導入したCAFÉ規制の燃費値をも求めるために提案された走行モードで、石油ショック後にこれも燃料消費削減を目的に実施されたハイウエーの最高速度制限を厳しくした時に設定され、当然ながら遵法運転を行った場合の走行モードですので最高速度は現在の実際の流れ寄るも低速になっています。

またどちらのモードも大気温度75°F(約24℃)と春、夏のヒーター作動もなく、エアコン負荷も小さな大気条件での試験で、いずれも今のリアルの走行燃費よりかなり燃費の良い結果がえられます。シティーモードでは一晩駐車したあとのクルマ、エンジン、触媒なども大気温に近い状態からのエンジン起動(冷間始動条件)となっています。CAFÉ規制は従来から、このコンビ燃費を使っており、オバマ政権の提案するCAFÉ強化提案も、この基準燃費での規制です。

それでも、日本の10-15モード、JC08モード走行での走行燃費よりは低い値となります。ちなみに、EPAラベル燃費は、1980年代にこうして算定したCAFÉ燃費を公式燃費としたところ、この公式燃費が実際のユーザー燃費と大きく異なることからEPAが訴えられ、シティー、ハイウエーそれぞれの燃費値に概略の修正係数をかけ、ラベル燃費として公表するようになった経緯があります。

さらに近年になり、インサイト、プリウスが発売され、ハイブリッド車のような低燃費車のラベル燃費では、これまでの係数をかけてもユーザー平均燃費とのギャップが大きくなっているとのユーザーの訴えから、EPAはユーザー平均燃費に近づくようにラベル燃費算定基準を変更しました。

これはかなり複雑な算定方式で、シティーモードやハイウエーモード以外に排気のクリーン度評価に使っている、大気温-7℃での低温COエミッション試験、US06、SC03モードと呼ぶ大気温が高くエアコン負荷の大きな運転モードや、急加減速運転の排気性能評価のモードの燃費測定結果の全てを加味し、悪目、悪目に燃費値が算定されるように調整した算出方式です。

正直言うと、アメリカ方式では、開発段階、認証試験、認定試験段階で、車両スペックごとに試験車両を備える必要があり、また試験の数、回数、その設備もばかにならず、開発エンジニアにとっても、会社にとっても費用、時間、要員数で負担の大きなやりかたです。このような複雑な試験法はあまり歓迎できませんが、日本もそろそろリアルワールドをもう少し意識する時期になっているように思います。

プリウスは既に将来の規制をクリアしている

脱線が長くなりましたが、フルハイブリッドのプリウス燃費ならば、2025年のアメリカCAFÉ規制強化、2020年の欧州95g_CO2規制をパスするレベルを現在でも達成しています。さらに、昨年新モデルを発売開始したカムリハイブリッドのCAFÉ基準コンビ燃費が標準車で58.7mpg(24.9km/リットル)プリウスC(日本名アクア)は71.8mpg(30.5km/リットル)となり、トヨタ車の販売車種総平均燃費としてカムリハイブリッドレベルで規制値を満足できることになります。
また欧州CO2規制ではすでに2015年基準メーカー平均130g_CO2/kmをトヨタは他社に先駆けてトップでクリアしており、2020年95g_CO2/kmもフルハイブリッドを増やしていけば遅れをとることはないと思います。

米国、欧州の今回の燃費規制/CO2規制強化の提案は、電気自動車や天然ガス自動車のクレジットもありますが、なんらかのハイブリッド化が不可欠なレベルの燃費規制で、日本の経済誌で取り上げられた日本のハイブリッド「ガラカー論」は外れとなりそうです。

カタログ燃費だけ追ってはいけない

カタログに表現できる燃費は公式燃費値だけですので、それぞれの国、地域での評価モードで良い公式燃費がでるように、各社競いあっていることは事実ですが、燃費規制の目的はあくまでもグローバル、リアルでの石油消費削減であり、CO2排出の削減です。

確かに初代プリウスの開発で燃費2倍の目標はまず日本の10-15モードでの目標でしたが、当時からリアルの燃費向上が常に意識の中にありました。梅雨時、夏のエアコン運転からくるエンジン起動を冷気蓄熱を使い少なくする工夫、冬のヒーター要求からのエンジン起動もできるだけ低水温から温風を吹き出させる工夫、10-15モードの回生発電なら全く不必要なエネルギー容量を確保するハイブリッド電池、さらにエンジン停止走行時間を増やすためのエアコンコンプレッサーの電動化、冷却水の蓄熱、排気熱でのヒーター用冷却水熱回収などなど、ここまでの燃費向上では常にリアルでの燃費向上をめざした取り組みでした。

もちろん、日本の10-15モード、JC08モード、アメリカ-シティーモード、欧州EUモードのように都市内走行シミュレートの発進停止の繰り返し走行、平均車速がそれほど高くない走行モードでは停車中および低車速走行時のエンジン停止、EV走行、大きなエネルギー容量の電池と大出力モータを持つフルハイブリッドの最も得意とする走行モードですから、この走行モードで燃費を大きく向上させていることは事実です。

高効率エンジンの採用とその燃費効率最適ポイントでの運転がもう一つの重要な燃費向上の基本メニューです。これに加え、最近話題の小排気量(ダウンサイジング)過給も低燃費の定番メニュー、1990年代クリーンエンジン開発担当時のテーマの一つも小排気量過給でした。

過給が効きブーストトルクが発生するまでの応答遅れを改善するため、セラミックターボ、チタン製のコンプレッサーブレードのトライ、さらに機械式過給器までトライしていました。エンジンの高効率を追求し、トルク/出力性能をトレードにかけたアトキンソンエンジンを使い、電池出力アシストをおこなうプリウスハイブリッドの考え方も、小排気量過給と基本は共通です。燃費最適運転と電気過給ならぬ電気アシストがそのコンセプトです。

細かいアプローチは違えども低燃費化への基本思想は同じ

この低燃費化への基本的アプローチは、従来エンジン車(通称コンベ車)でも同じです。まず車両の軽量化、空力改善、さらにタイヤ転がり抵抗や動力伝達系の引き摺りによる損失低減が車両全体として基本部分です。低燃費メニューをどのように取り入れるかで違いがでてきます。エネルギー容量の大きな重いハイブリッド電池を搭載し、二つの大出力モータ/発電機を持つことにより重量増を招くハイブリッド車のハンデを減らすハイブリッド部品軽量化の取り組みも継続して行われ大きな成果を収めてきました。

最近何台かの欧州低燃費車に乗る機会がありました。ダウンサイジング過給、7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックス(DSG)、さらにエコランと定番のメニューで低燃費を目指したクルマです。このクルマに搭載している7段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスの作動は、またにエンジン燃費最適運転へのシミュレート、多段化は欧州勢が好むMTベースのダイレクト変速というよりも、多段化により低燃費エンジンポイントでの運転頻度を高める手段、言い換えるとCVT運転に近づけるための多段化と感じました。

クルージングに入るとすぐにアップシフト、アップシフトさせ日本の高速道路巡行までではでききる限りエンジン回転数を抑えた低燃費ポイントに抑えています。ダウンサイジング過給も低容量型のターボを使い、低速から過給が効くようなセッティングですが、やはりガソリンターボはガソリンターボ、ブーストトルクがでてくるまでのタイムラグ、それと加速時にはダウンシフトと入り交じったビジー感は免れませんでした。

またエコランでは、残暑が厳しい9月の東京での走行ではほとんどエアコン運転からの要求からほとんどエコラン運転にはならず、モード燃費対策と言われてもしかたがない状況です。この状況は、初代プリウスで梅雨どきの除湿、夏の冷房要求からのエアコン運転でエコラン、EV走行ができなくなってしまう悩みと一致していました。リアルの燃費向上を目指していくと、結局同じ方向、エンジン停止中のエアコン作動には少し容量アップした電池、それを充電するためにはベルト駆動の発電機では物足りなくなり回生発電量の大きくとれる発電機、エンジン停止走行域拡大には、少し車速のあるところからエンジン停止をし、との途中からの再加速要求にはエンジンの急速起動ができる高出力スターター、さらに少しクリープ走行ができるモータが欲しくなるなど、どんどんハイブリッドメニューが多くなってくるように感じます。

さらに、リアルでの低燃費を追求していくとなれば、ハイブリッド化はさらに進むと思います。この多段デュアルクラッチシーケンシャルギアボックスで、パワーアシスト&回生用のそれなりのモータをつけたハイブリッドならば、クリープ、電池アシスト、回生と、今指摘した欠点の多くは改善できるのかもしれません。私もかねてより、こうしたシステムを搭載したクルマが、トヨタTHSの有力なライバルの一つとなるのでは注目していましたが、いよいよ登場しそうでそのポテンシャルに注目しています。

クルマとしての魅力を備えた次世代車を

もちろん、トヨタTHSが究極のハイブリッドと言うつもりはありません。さまざまな欠点があり、欧州の多段DSGとの対比で言われるCVT感、エンジン回転が勝手に吹き上がりダイレクト感のなさ、その割に高速燃費向上が今ひとつなど指摘されています。その指摘は当たらずと言えど遠からず、CVTフィーリングは低燃費追求の結果であることは事実ですが、THS機構そのものからくるものでもなく、改良余地もまだまだある部分です。

もちろんこれからも次世代自動車としての社会要請から低燃費、低カーボンへの追求は手を緩める訳にはいきません。しかし、エコだけはクルマとしての魅力として不十分です。速度無制限がまだ許されているドイツのアウトバーン走行を除くと、リアルでのほとんどの走行でフルパワーを使うことは多くはありませんが、このフルに近いパワーを使う走行でいわゆるダイレクト感のある動力伝達を行い、回転が上昇するとともに今のTHSよりも気持ちよいエンジンサウンドを響かせリニアに伝達パワーが高まるダイレクトな走りを実現させることは可能と信じています。

通常の90%以上は安全、安心、快適な低燃費運転でカバーでき、たまに10%以下の頻度で道路環境を確かめてフルパワーも使う気持ち良くドライブができるクルマの実現を夢見ています。それなら、リアル燃費の目減りをほとんどさせずにやれるように思います。さらに付け加えると、日本の通常の走りではそれほど差を感ずることはありませんが、欧州車の車体剛性の高さは見習う必要がありそうです。

これから、移動手段、輸送手段としてのクルマと、保有し、走る喜びを感ずるパーソナルモビリティとの2極分化がさらに進むような予感がしています。現役時代に実現出来た訳ではありませんが、私が目指していた次世代自動車はこの保有し、走る喜びを感じ、意識しなくともリアルでの抜群の低燃費も実現できるパーソナルモビリティです。

その意味では、欧州低燃費車も日本のハイブリッド車も私の理想イメージからはまだまだほど遠いとところにあると思います。免許証返上まであと1台か2台乗り換えられるかどうか、ぜひ最後のクルマとして満足できる次世代ハイブリッドパーソナルモビリティの実現を待ちたいものです。