ストラスブールでのプラグイン・プリウス ユーザーミーティング

ドイツのモビリティを実感

先週のブログでは、ドイツ滞在中に借りたVOLVO直噴ディーゼル車のアウトバーン走行の印象を取り上げましたが、今回の欧州旅行の主な目的はフランス・ストラスブールで行っているプリウス・プラグインの大規模実証試験のユーザーミィーティングへの出席でした。

先週ご紹介した通り、ライン川沿いの古い木組み建築を残した小さな街バッハラッハでライン川クルーズとワイン、それと半端ではない量のソーセージ料理を堪能した後、アウトバーンを南下し、古い学生都市として有名なハイデルベルグで一泊しました。

翌日は、フランクフルトに戻ってレンタカーを返却し、そこからドイツ国鉄DBの特急ICEとローカル電車を乗り継ぎ、国境を越えてストラスブールに入りました。ただし、車ならハイデルベルグからアウトバーンを140km/hぐらいでのんびり(!?)走っても1時間30分ぐらいで到着する距離ですが、フランクフルトから乗る予定だったICEが1時間以上も遅れ、その影響でこれまた乗り継ぎ予定だったフランスの特急TGVに乗り遅れる羽目となり、重い荷物を持ってローカル電車をなんとか乗り継いで、2時間以上も遅れてほうほうの体でストラスブールに入りました。

ヨーロッパの中ではきちっとしている印象のドイツですが、列車の遅れはよくある話で、天候のせいでもなさそうですが、駅の時刻表では各列車に軒並み大幅な遅れが記されており、日本の定時遵守のすごさをまさに実感しました。

鉄道の利点の1つである定時性がこれですから、夏のバケーションの家族旅行などでは、家族全員の長期旅行用の大きな荷物をクルマに放り込んで、通行料無料のアウトバーンをそれも燃費の良い直噴ディーゼル車やハイブリッド車で移動するほうが快適なのは間違いありません。

それでも、ライン川クルーズから岸を望むと、両岸ともに鉄道が走っており、しかも結構な頻度で旅客、貨物が通っている様子です。どうやってあの鉄道網を維持しているのか、不思議に思いました。

日本でも公共交通機関へのモーダルシフトが叫ばれていますが、こと人の移動に関してはアメリカどころか、公共交通機関網が発達している欧州に比べても日本の公共交通機関利用比率は圧倒的に高い水準にあります。これについては少し昔のデータを用いて、昨年話題に取り上げました。まさに、今回はそれを再体験した形になりました。

フランスでは根付きはじめたプリウス

さて、ストラスブールに入ると、ドイツとは違って日本車を良く見かけるようになります。また、その中でも(勿論、日本ほどではないですが)プリウスもよく目立つようになっており、送り出した身として喜びを感じました。

これはこの後、ストラスブールからパリへ向かう途中で立ち寄ったランスでも、そしてパリでも同様で、このようにゆっくりとかもしれませんが、着実にフランスで日本のハイブリッド車が根付き始めており、これから欧州のクルマ社会に根をしっかり張って次世代自動車として普及拡大を続けいく未来をかいま見たような気がします。

なお、ストラスブールで宿泊したホテルの近くの路上公共駐車スペースにも、実証試験用充電ステーションと充電ステーションを拠点としてカーシェアとして使っているプラグイン・プリウスが停められていました。

写真1_プラグイン・プリウス

ストラスブールでの
プラグイン・プリウスと
路側充電ステーション

2年間のまとめとしてのユーザーミーティング

余談が長くなりましたが、ストラスブールでのプラグイン・プリウス実証試験の状況について少し紹介したいと思います。プロジェクトのスタートをこのホームページで紹介したのが2年前の2010年5月ですので、丁度2年が経過したことになります。

今回出席したユーザーミーティングは、この2年間お使いいただいた結果のレビューと、その結果を反映させて開発をすすめた次の量産タイプ(日本で販売されているプリウスPHVの欧州仕様)の紹介を行い、そこからユーザーの方々のご意見をいただく場として企画されました。

会場はプロジェクトへの支援をするとともに、自身もリース車のユーザーでもあるストラスブール市の、その市役所にある講堂です。まずトヨタ、フランス電力公社(EDF)からの状況説明があり、その後市および都市圏交通担当の方からの説明、そしてユーザー代表との質疑応答が行われました。

少し堅苦しいミーティングの後、おなじ市役所内ホールでのカクテルパーティがあり、主催者がセットしてくれたライン川に合流するイル川と運河にかこまれた旧市街、ストラスブール港、EU議会を巡る観光船によるクルーズを楽しみ、日が一年で一番長いこの季節では、やっと暗くなりかかった夜10時過ぎに解散というスケジュールでした。

実証試験の詳細は、いずれ、トヨタ自動車、EDFから正式に公表されると思いますので、ここでは詳細にはご紹介できませんが、欧州での実際のユーザーによるクルマの使い方の中で、このプリウスPHVの燃費削減効果、CO2削減効果、クルマとしての基本性能、EV走行比率、充電頻度、また実使用上の普及への様々な課題などが浮き彫りになってきているように感じました。

公共充電ステーションの利用割合は3%

このプラグイン・プリウスを使ったストラスブールでの実証プロジェクトでは、基本的には日本同様、リース契約でお使いいただける法人ユーザーを募り、契約いただいた1台のクルマあたり、その固定駐車場所の充電コンセントに加え、お使いのスタッフのご自宅数カ所の充電コンセントを設置、会社、自宅両方で充電できることを目指しました。

政府、およびストラスブール市、その周辺町村を含むストラスブール都市圏(ここがストラスブール市を含むトラム網、バス、そのターミナルでのパークアンドライド事業など公共交通機関の政策企画、運営を行っています)のサポートで公共駐車場、路側帯駐車場に公共充電ポイントを設置しています。

今回の結果でも、このプラグイン・プリウスの充電は97%が会社専用駐車場かスタッフ自宅駐車場での充電、残り3%足らずが公共駐車場および路側帯駐車場での充電との報告でした。電気自動車とは異なり、電池が空っぽでもガソリンで普通のクルマ、ノーマルハイブリッド同様走れるのがプラグイン・プリウスの最大の長所であり、わざわざ公共駐車場を探し回り充電する必要はありませんので、このような結果になったのかもしれません。

しかし、電気自動車でも実用上はこの自宅の夜間充電がほとんどを占め、法人車なら会社駐車場の夜間をメインとし日中はその追加充電が中心となり、出先で公共駐車場の充電ポイントを探しまわっての緊急に充電するという比率はそれほど多くはないと思われます。

またユーザーから、ただでさえ利用する頻度の少ない公共駐車場での充電ポイントは加えて故障がちで、外で充電しようと思ってでかけても充電ができなかったケースが多かったとの苦情もでていました。

数年前に、アメリカやフランスで電気自動車の公共充電ステーションを見て回ってことがありますが、その時も故障中であったり壊されている等のケースが多く、メンテナンス費用が大変との声を聞いていました。

その数がまだ少ないうちはいいのですが、公共充電ステーションを増やしていった時、設置費用、メンテナンス費用、さらに電気代として課金など、ユーザメリットを出せるビジネスモデルが成り立つのか、このような実証試験結果を踏まえしっかりと検討しておくことが必要になります。

公共充電ステーションにはこのような課題があり、プラグイン・ハイブリッドのみならず電気自動車の普及に関し、自宅や会社など、固定駐車場での充電設備設置をどう進めるのかが普及への大きな課題となります。

今回の結果でも、専用会社駐車場とスタッフ自宅駐車場での充電ポイントで日当たり2回以上の充電ができているクルマのEV走行比率が大きく、充電頻度が下がるにつれ当然ながらEV走行比率がさがり、ガソリン消費削減効果が小さくなっています。

ストラスブールから見た次世代自動車の方向性

今回の報告では、日当たり平均充電回数が2.2回と一番多かったユーザーのEV比率が56%と多く、ガソリン削減率として64%を記録し、一番低い日当たり0.4回のユーザーではEV走行比率5%とほとんどノーマルHVとしての使用に留まっていたようです。

このEV走行比率の少ないユーザーからは、昨年のユーザーミィーティングで、燃料代は会社負担、また自宅の駐車場に屋根がなく雨天時などでは地面に這わせる充電ケーブルで服が汚されるので充電しなくなったとの声を聞いています。

ノーマルHVとして十分に使えたというのもPHVの特徴と言えば特徴ですが、一気に非接触給電とは言いませんが、服を汚さず、また荷物を持っていてももっと簡単に接続できる、充電ケーブル、コンセントを安く提供することが必要と感じました。

さらに、今回は会社の専用駐車場があり、またスタッフの自宅でも専用駐車スペースがあり専用充電設備が設置できたケースが大部分でしたが、欧州では都市部で専用駐車スペース持つのは恵まれた一部の方、大部分は路上駐車(許可は貰っているようですが)、毎日駐車スペースを探すだけで一苦労との話を聞きます。

パリの市内でも、駐車場を探しに走り回っているクルマをよく見かけますが、こうしたクルマが渋滞の要因にもなり、またこの走行で消費している燃料量も馬鹿になりません。

このような駐車環境の中で、プラグインHVを含め、電気自動車の普及を図るのは一苦労、フランスでは、新築住宅は新築集合住宅建設では充電コンセントの設置が法律として義務づけられると話を聞きましたが、このような政策、また路上駐車場への充電コンセント設置など、普及へのハードルはまだまだ高そうです。

電気自動車どころか、プラグインHVの一足飛びの普及はまだまだ、この駐車場事情も考えると、都市部ではよほど経済的な余裕がないかぎり家族でクルマを複数台保有することは困難、また1台の保有でも専用駐車場に充電設備を設置できる比率はそれほど多くなさそうです。政府、地方自治体とも連携を取りながら、地道に充電設備設置を進めながらプラグイン自動車普及を目指すことが必要です。

この点からも、いま取り組むべきは、石油消費の削減、CO2削減の実効性を上げるには、従来車の燃費向上と、このコア技術であるノーマルハイブリッドの普及拡大が肝心と思いました。

下は、ユーザーミィーティングの会場である、市役所前広場を使いヨーロッパトヨタが実施したハイブリッド車の展示会の様子です。

写真2_トヨタハイブリッド車展示会

ストラスブール市役所前広場での
トヨタハイブリッド車展示会

この展示会では、今秋発売する欧州版プリウスPHVと6月にフランス工場で生産し、販売を開始したヤリスハイブリッド(日本名ビッツのハイブリッド版)、英国工場で生産し、欧州限定で販売しているオーリスハイブリッドなどを展示しており、ユーザーミィーティングの参加者他、市役所に出入りする人たちから注目を集めていました。

しかし、ノーマルHV普及の先として、日当たり充電回数が多くEV走行比率が高く、64%ものガソリン消費削減を実現したユーザーでは、日本とは1桁以上も低い低CO2電力による充電を行っておりCO2排出量の大幅削減を実現できていることも実証されています。

日本の現状では望めませんが、電力の低CO2化とともにHV技術の進化を進めていけば、脱自動車、我慢のエコカーシナリオではなくとも大幅な石油消費削減とCO2削減を実現する自動車シナリオが描けそうな気がしてきました。

パリのEVカーシェアAutolibの現状

ユーザーミーティング後、ストラスブールからパリに入り、週末をパリで過ごしましたが、パリでこのブログでも紹介している電気自動車のカーシェア事業Autolibのステーションを何カ所かみかけました。

すでに2000台以上のBlue Car EVの配車が終わり、貸し出しステーション、充電ポイントの整備も計画どおり進んでいるようです。充電仕様、充電プラグはこのBlue Carと共通であることは必要ですが、このカーシェア会員になると、個人用のプラグイン車もこの充電ポイントで充電することが可能との触れ込みです。

大都市部の電気自動車普及にはこのようなEVカーシェア、その充電ポイントを一般プラグイン車にも解放するパーク&チャージ事業などもありと注目しています。

このプロジェクトの推進者、パリ市のドラノエ市長はこのBlue Car EV 1台あたり、市内で使われる自動車5台分の削減を目指すと言われており、わたし自身は脱自動車の動きとして心配していますが、ストラスブールでの公共充電設備の状況で述べたように、故障、破損のメンテナンス費用含め、パリではやっているレンタ自転車の2匹目の「どじょう」にはならないと思っています。

 写真3は、パリ・ノートルダムダム大聖堂とパリ警視庁の建物があるセーヌ川の中州シテ島にあった、Autolibステーションです。5台分の充電&貸し出しステーションが全てBlue Carで埋まっている状態で、見ている間の借り出しもありませんでした。

この日は日曜日だったせいもあるかもしれませんが、昼頃の時間帯で1台も貸し出されていない状況でした。会員数は延びているようですが、あまり利用率は高くなっていないとの噂も聞こえてきており、今度どうなるのか興味はつきません。

心なしか、昨年リリース直後に見たクルマの状態に比べ、汚れが目立ち、また一部には擦り傷が目立つクルマもありました。レンタ自転車Velib(ベリブ)でも故障、破損が多いと聞きましたが、このクルマではカードによる無人の借り出し、貸し出しですので、擦り傷、へこみ、クルマの故障、破損の修理費、さらには洗車、室内清掃など自転車の比ではなく日常のメンテナンスが大変、ビジネスモデルとしての成立性も見物です。

写真3_Autolibステーション

シテ島のAutolib
充電&貸し出しステーションと
Blue Car