クリーンディーゼルとプリウス「ガラカー」?

6月 28 2012

またかの『ガラパゴス論』

私は新聞、雑誌、インターネットで「プリウス」との記事、特に批判めいた記事を見つけるとじっくりと読み込むことにしています。トヨタのDNAの一つとして、大先輩から叩き込まれたのが、良いニュースはあとでいいから、悪いニュース、心配、批判に目を向けからの反応です。

最近では日経ビジネスの最新号の時事深層欄に“プリウスは『ガラカー』か?”との記事を見かけました。今年3月7日の日経新聞にも「ハイブリッドに死角、車もガラパゴス化の懸念」という記事が掲載され、このブログでも取り上げたことがあります。同じ記者の執筆された記事かどうはわかりませんが、日経の方々はこのテーマがお好きなような印象です。

記事の中身をみると、エコカー補助金の後押しで日本のハイブリッド車特にプリウスと弟分のアクアが大幅に販売台数をのばし、新車販売に占めるハイブリッド車の台数が20%を超えたことを取り上げ、昨年ハイブリッド車が1万台も売れなかった中国市場、および以前からなんども言われてきた欧州ディーゼルとの対比で、日本のハイブリッド「ガラカー」論を展開している記事です。初代プリウス発売以来、何度も繰り返し蒸し返されている話題で、またかといった印象で、いまさらこの記事に直接に反論するつもりはありません。もっとも、日本の小型自動車用ディーゼル屋さんがもっと頑張らなければいけないことは確かですし、欧州勢にかまされていることはエンジン屋の端くれとして残念なことです。

ただし、ハイブリッドはあくまでも内燃エンジン車の燃費効率を高める手段であり、組み合わせるエンジンはガソリンでもディーゼルでも問いません。ハイブリッド機能のどこまで使うかは別として、もっと低カーボンが求められるか、こちらのほうが心配ですが燃料価格がさらに高騰するとガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッド化が進むものと考えています。

このハイブリッドメニューの中には、外部電力充電を使い、この外部電気エネルギーを走行に使いその分石油燃料消費を減らすプラグインハイブリッドも含まれ、ガソリン、ディーゼル問わず、ハイブリッドの有効な使い方です。

欧州で「独自進化」するディーゼル

10年ほどまえにも、欧州でハイブリッドの講演やメディア・インタビューでは、たびたびディーゼルが本命で、システムが大規模で販価アップが大きいガソリンハイブリッドはニッチに留まるとの議論をふっかけられました。その時の答えは上述の説明と「世界中でガソリンエンジンは廃止して全部ディーゼルにしてその燃料を供給できると言うならこの議論の意味があるが、そうでないのであれば欧州だけのエゴだ」と言っておきました。

効率と経済性を持って原油から液体燃料を精製しようとすると、原油成分によっても違ってきますが、ある比率のガソリンとディーゼル油が同時に生産されることになります。

アメリカでは、小型自動車ではほとんどがガソリン車ですので、精製効率(Well to Tank)の効率を落としながらもガソリン比率を高めています。欧州では逆で、今はどうかわかりませんが、足りなくなったディーゼル油を輸入し、余っているガソリンを輸出しているとの話を聞いたこともあります。

さらに、車両重量が重く、大出力とトルクが必要な大型トラック、大型バス、さらには建設機械などの大型産業機械はもちろんディーゼルの独壇場です。シェールガスブームに沸くアメリカでは大型車両への天然ガスエンジン適用の動きもありますが、基本はディーゼル、さらに船舶用エンジンでは小型船外機エンジンを除くとこれもほぼ100%ディーゼルエンジンの世界です。このように、世界全体としては、ガソリン、ディーゼルを用途によって使い分けているのが実情です。

日本では、もう少しディーゼル油比率を高めた方が精製効率、経済性が有利との話がありますが、これも将来の石油需給シナリオの中で考えるべきで、ほんの一部の小型自動車のディーゼルシフトではCO2削減効果も微々たるものです。ですから、ディーゼル対ガソリンハイブリッド、どちらが本命などの議論はあまり意味がありません。

確かに欧州、特にフランスではこのところ小型自動車のディーゼル比率が急激に高まっており全体の60%、今年年初来の新車販売に占める割合は83.5%に達したとの報道もあります。この流れは、欧州の自動車CO2規制の影響によるものと見え、欧州自動車メーカー各社が速効性のあるCO2削減手段として、小型ダウンサイジングとディーゼル比率アップを選んだとも言えると思います。

欧州環境庁は今月暫定統計値として、昨年販売登録された新車の平均CO2排出量は135.7g/kmで、前年に比べ4.6g(3.3%)減少したと発表しました。欧州では、新車のCO2排出規制強化として、2015年130g/km、2020年95g/kmがすでに決定済み、ガソリンでもディーゼルでも、従来技術の延長では乗り切れないことは明かで、ハイブリッド化、プラグイン化、電動化合わせて大幅なCO2削減を進めていくことが求められています。

ディーゼルとガソリンの環境特性の違い

ここで、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車での燃費とCO2性能を比べるときの留意点についても少し述べたいと思います。ディーゼルエンジン用燃料の軽油は、比重がガソリンより少し重く、また発熱量も少し多いので、同じ1リッターでも発生する熱量が多くそれだけでも体積当たりの燃費は良くなります。しかし、その燃費値が良くなった分だけCO2排出量が減る訳ではありません。ご存じのように、石油燃料はカーボンCと水素Hが合成された炭化水素燃料です、ガソリンと軽油では、含まれるCとHの比率がことなり、軽油がガソリンに比べすこしCの比率が多い燃料です。このため、同じ重量の燃料を燃やする、軽油を燃やした時のほうがCO2の排出量が多くなってしまします。

もちろん、燃料代は単位体積あたりですから、日本では燃料のリッター単価がやすく、比重の重い軽油を用いるディーゼルエンジン車は実走行時の効率が高いだけではなく、比重分も消費体積量が少なくなり、燃料代の観点からは有利になります。しかし、CO2排出量に関して言うと、リッター燃費の差ほど効果は持ちません。

ガソリンエンジン車では1980年代にはほぼ全ての車が触媒を採用し厳しくなる排気規制を乗り切ったのに対し、ディーゼルエンジン車排気のクリーン化はディーゼルの燃焼特性や燃料の成分の違い、さらにこれらも影響してガソリンエンジンのような触媒など後処理システムを有効に使えませんでした。

1990年代に入り、後処理システムの性能を劣化させる燃料中の硫黄分の除去などが進められいわゆるクリーンディーゼルと呼ばれるものが登場したものの、永らく微粒粒子成分(パティキュレート)の規制をガソリンエンジンのレベルから緩めるダブルスタンダードが採用されてきました。

これも、2014年には欧州でも新たなディーゼル規制ユーロ6が導入され、ほぼガソリン、ディーゼル同じレベルのクリーン度が要求されるようになります。これに対応できてからが、ガソリン・ディーゼルそしてハイブリッドの本当の勝負の時で。欧州基準であれば、2020年総平均CO2排出量95g/kmを2020年よりも早く達成するように、経済性、燃費性能、CO2排出性能を競いながら技術を進化させて欲しいものです。

ハイブリッド、プラグインの拡大がすすめば、この早期達成も十分可能、またCO2削減は2020年が打ち止めではありませんので、この先の次世代自動車を視野にいれると、ハイブリッド「ガラカー」などとはとても言える状況にはありません。

様々な技術を組み合わせて新たな自動車を

余談ですが、私の大学時代はボイラー燃焼も内燃エンジンを含む、燃焼全般の研究室に所属し、卒業論文は石炭ボイラーの燃焼というよりも燃焼したあとの残骸をボイラーに滓をのこさず融かして排出させる研究でした。このときから将来は自動車会社でエンジン開発が希望し、大学院に入った時に担当の先生に泣きついてエンジン燃焼のテーマに変更してもらった記憶があります。このエンジン燃焼のテーマが、ディーゼルの低温始動時の燃焼でした。

トヨタに入ってからは、ディーゼルエンジンの担当になったことはありませんが、クリーンエンジンの開発リーダーをやっていた92~94年頃には欧州自動車メーカーを回り、ガソリンエンジン用の触媒の活性低下をふせぐクリーンガソリン成分の採用や、ディーゼル用軽油から後処理触媒の活性低下をもたらす硫黄成分の除去などの働き掛けを行いましたので、いまのディーゼルの進化にも影ながら寄与してきたと自負しています。 

2週間ほどまえのブログで取り上げた、豊田佐吉翁が懸賞をだした電池まではいかなくとも、今のリチウム電池の一桁エネルギー量の多い電池が見いだされない限り、また今の3分の1以下のコストが実現できた上で、低CO2/エネルギー効率の高い水素製造、充填インフラ事業採算性がとれる水素燃料電池自動車の実用化に見通しがつけられない限り、重量を増やさず、余分なスペースをつぶさない範囲で電池を賢くつかい、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを使って2020年以降もCO2 95g/kmからさらなる低減に取り組んでいくことが求められます。ディーゼルエンジンもガソリンエンジンもさらに高効率化が進むと、そのハイブリッド車の効率はさらに進化します。

もちろん、エコ性能だけではなく、走りの性能、自分が走りをあやつるトラクション性能、操舵性能、音、乗り心地といった感性性能、当然ながらぶつけない、ぶつけられない安全性能も進化した次世代ハイブリッド車へのチャレンジを期待します。進化へ努力を怠れば、もちろん、あっという間にそのハイブリッドシステムは「ガラハイ」になってしまうことを銘記すべきでしょう。