日本の電力事情とプラグイン自動車

5月 10 2012

日本のすべての原発が止まりました

今週はじめに北海道電力の泊3号機が定期点検のため発電を停止し、これで日本国内の原発は全て発電を停止することとなりました。資源エネルギー庁の出す「エネルギー白書2011」によると、電力、輸送用燃料、産業用など、日本が使用する全てのエネルギー消費の内の11.5%を占め、電力に限れば29%を占めていた原子力エネルギーが0となったということです。原発比率が大きかった関電の原発再稼働騒動、東電の電力料金値上げ騒動、関電、北電、九電エリアで心配されている今年の夏の電力供給不足問題、長期的にも脱原発、縮原発、太陽光、風力、バイオ、地熱などリニューアブル電力(Renewable Electricity: 以下REと表記)への転換を含む日本のエネルギーシナリオの総見直しが求められています。

一次エネルギーシェアで見ると、1973年、1979年の2度に渡るオイルショックを経て、石油による発電を、石炭や天然ガスを経て、原子力へシフトさせ、さらに地球温暖化問題から、その主要因ガスである化石エネルギーの燃焼によって発生するCO2ガスを低減するために、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を進めようとしている矢先の原発事故でした。

また電力だけの問題ではなく、膨大なエネルギーを消費して、現代の社会生活、社会活動は成立し発展させてきたこの国の根幹が揺さぶられる事態です。ガソリン、軽油を使ってきた自動車の燃料も、効率を高め、燃費を改善させながら、この石油依存を減らし、この非化石エネルギーを使ったものにシフトさせていくことが迫られています。

Source: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2011」
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011energyhtml/index.html

家庭、商店、金融など民生業務、運輸、産業用と、すべてこの一次エネルギー源を使っています。非化石エネルギーへのシフトは、地球温暖化問題の側面だけではなく、化石資源が有限であることからくる要請です。ピークオイル到来と言われたように、まず石油がその生産のピークを迎え、遠からず世界の需要に応えられなくなると言われています。自動車も、飛行機も、船も、まずは高効率・低燃費、次ぎに石油から、それ以外の燃料にシフトさせることが求められています。そのエネルギー転換の有力候補が、電気であり、水素でした。その水素も、非化石エネルギーからの生成としては、原子力、水力、もしくはRE電力からの生成することが必要です。

日本の一次エネルギー需給

上に示すように、2009 年度の全一次エネルギー消費のうち、非化石エネルギーは20%足らずの17.8%に過ぎません。今期待が高まっている水力とRE含めて6.3%、非化石エネルギーの三分の二が1 1.5%の原子力でした。

原発停止で次世代自動車のシナリオも崩れた

自動車の非化石エネルギー転換の現実的な第1ステップとして取り組んだのが、燃費効率を画期的に高めるハイブリッドプリウスの開発でした。その当時からも、ハイブリッドはショートリリーフ、2010年までには水素燃料電池自動車が普及期に入るとも言われてきました。その後、リチウムイオン電池に注目が集まり、ハイブリッドをスキップして電気自動車の普及を基本政策として取り上げる国まで現れました。

このブログでも取り上げたように、プリウスの開発そのものが、当時のニッケル水素電池やリチウムイオン電池技術では電気自動車の実用化は困難との判断にたち、従来車の燃費2倍を目標とした画期的低燃費車の開発が狙いでした。発売当時は、外部充電がいらないことを謳い文句としましたが、電池がもう少し進化し、さらにハイブリッドの普及拡大が実現すれば、ポスト石油への次ぎのステップとしてプラグインハイブリッドへの応用がわれわれのシナリオにはありました。エネルギー密度の大きいバイオ燃料、合成燃料と、非化石エネルギーから発電される電力をうまくミックスさせ使っていこうとのシナリオでした。非化石エネルギーによる電力で最有力候補と考えていたのはもちろん原子力発電です。

そのシナリオに乗って開発を進めた私も、間違いなく日本原子力神話の信奉者でした。将来自動車の講演でも、中国の原発地図を示し、日本の原発事故を心配するぐらいなら中国沿岸部で次々と建築が進んでいる中国の原発を心配すべき、その安全確保には日本原子力技術の総力を挙げてサポートすべきと主張していました。とんだピエロです。3.11までは輸入化石エネルギー依存度の低減、低炭素社会を目指す日本の中期シナリオの柱は、原発の増強であっったことはよく知られています。原発増強により供給余力が増し、さらにCO2が低減する夜間電力をプラグイン自動車充電用に格安で使わせもらうことすらシナリオに描いていました。しかし、3.11福島原発事故が、原子力神話どころか、日本の将来エネルギーシナリオ、低カーボンシナリオ、輸入エネルギー依存からの脱却、エネルギー/環境立国シナリオのなにからなにまで吹っ飛ばしてしまいました。

安全が最優先、現実的に進めよう

福島原発事故が想定外とは思いません、明らかに日本の政、官、学、財、この日本の原子力政策に関わった人たちが砂上に築き上げた楼閣が崩れた人災だと思います。3.11から一年が経過しましたが、今騒がれている、原発再稼働論、廃炉論、供給力不足、節電要請、大幅な値上げなどなどは全て一年前でも容易に予測ができ、その予測の議論もしていた想定内も想定内の話ばかり、一年以上たった今になって当時からほとんど進展もない不毛な議論にうんざりし、憂鬱さが増す一方です。図に示した、一次エネルギーの現状から、私自身は今でも、原子力を将来エネルギーメニューから外しては、シナリオが描けないと思っています。しかし民主党の仙石さんが発言した「原発全停止は集団自殺だ!」論を代表とする、財界筋、電力筋、政界筋の供給力不足と大幅値上げを人質とする再稼働論、には与することはできません。福島原発事故の謙虚な振り返りを踏まえ、徹底的な再発防止検討から作り上げる新基準、新体制、新組織による原発の安全点検、安全チェックなどが何よりも先決。やることをしっかりやらずして脅迫めいた再稼働論と、それにのっかった、ど素人集団である政治家にその決断を任せられないと思うのは私一人ではないと思います。

私の描いていたプラグイン自動車普及のシナリオも大きく狂いました。電力の供給能力不足が叫ばれている時に、その電力の新規需要であるプラグイン自動車の日中充電には躊躇を覚えます。また、原発発電が0になった状態では、夜間電力の発電も化石エネルギー発電にシフトし、その時の発電CO2は大幅に増加していることは明かです。さらに、原発発電の余裕電力を前提とした格安な夜間電力がこの先どうなるかもプラグイン自動車の将来に大きな影響を及ぼします。わが家は、プラグインハイブリッド普及を睨み、原発増設を想定した東電のオール電化普及路線にのって、温水床暖房、給湯、IHIのオール電化に切り替え、クルマもプラグインプリウスに切り替えましたので、CO2削減シナリオが狂うとともに、電力料金の大幅値上げで将来エネルギー費用の増大も心配です。

さらに、ポスト石油として、バイオ燃料、合成燃料の生成にも、電力は不可欠であり、電池の製造にも多量の電力を使用します。節電、効率化を進めたとしても、また現在たった6.3%しかない原子力以外の非化石エネルギーの増強だけでは、家庭、業務、運輸、産業と全ての一次エネルギー需要をカバーすることは、超長期を考えても非現実的です。しかし、ポスト石油、低カーボン社会への軟着陸として、高効率で液体燃料を使うハイブリッドと外部電力を使うプラグインハイブリッド自動車は、電力の安定供給、国際基準の電力価格、低CO2が前提ですが、有力なメニューであることには替わりはないと思います。

先週ブログで紹介しましたが、今回のプリウスプラグインでは、タイマー充電機能が標準設定になっていますので、これを活用し、供給不足が懸念される夏の電力ピーク時には充電せず、夜間だけの充電で済ませるつもりです。今提案されている東電の電力料金値上げ提案と、7月からのRE電力買い取り制による電力料金上乗せ分を入れた夏の昼間料金では、プリウスの場合、ガソリンを使ってハイブリッド走行をするよりも割高となりかねませんので、経済的にも夜間充電に切り替える必要がありそうです。

人が動き、物が動き、物を作り、またそれにつれ、人、物が動き、経済に明るさが戻り、復興が進みます。それを支えるのが一次エネルギーです。その一次エネルギーの安定供給がピンチ、先の明るさがでてきた日本の経済と復興に水を差してしまう懸念が高まっていますが、国民の安全と経済のトレードオフは決してやってはいけないことです。クルマの開発エンジニア人生でも、経済性と安全品質のトレードオフは決してやるなと、上司、先輩から叩き込まれてきました。日本の原発開発では、それをやってしまったことも、福島原発事故の遠因であるように感じます。

今年が猛暑の夏にならないことを祈るばかりですが、今年は節電の工夫での何とか乗り切り、当面はCO2排出には目をつむって化石エネルギー発電にシフトし、新しい安全基準作り、安全チェック体制、組織づくりを急ぎ、その国際基準のもとで、個別に再稼働判断を進めていくことが必要ではないでしょうか?