日経BPのPHV記事に対して

株式会社コーディアの八重樫尚史です。
いつも記事を書いている代表の武久に代わって、久しぶりの登板をさせていただきます。

今月の初め、3月5日に日経BP社の日経ビジネスONLINEにて村沢義久氏の『「燃やさない文明」のビジネス戦略』という連載で、『EVとしては中途半端な「プリウスPHV」』という記事が掲載されました。

『「燃やさない文明」のビジネス戦略』
EVとしては中途半端な「プリウスPHV」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120301/229296/

書かれた村沢氏は東京大学総長室アドバイザーをされている方で、以前よりサステナビリティの専門家として多くの著書を発表されています。

この『「燃やさない文明」のビジネス戦略』は日経ビジネス誌のオンライン向け連載で、これまでに電気自動車と太陽光発電を中心に取り上げられてきました。

正直に言いますと、トヨタでハイブリッド開発を担ってきた者の息子としてという立場を差し引いたとしても、今の世界の次世代車競争を常日頃から観察しているものとして、憤りを感じる記事でした。このブログではあまり明確に異議や批判を行うのを避けてきたのですが、やはり誰かがやらねばならないと思い、今回はこの記事に対する意見を掲載することとしました。

村沢氏の主張

この記事は、村沢氏はプリウスPHVの発売を話題の端緒として、プリウスPHVとアメリカで一昨年の年末(実質的には去年の初め)から販売開始された「シボレー・ボルト」との比較、そしてプリウスの「プラグイン化改造」についての紹介となっています。

挑発的なタイトルに比べて本文はややトーンダウンはしていますが、村沢氏のプラグインPHVに対する主張は大きく捉えると

1. プリウスPHVはシボレー・ボルトと違い、ハイブリッド車プリウスの延長線上で作られているのでEVと遠い。よって、プリウスPHVは「EVとしては「中途半端」」である。

2. ガソリン車からEVへの流れというトレンドの中では、シボレー・ボルトは「市場ニーズ」から生まれた「ニーズ優先」の車で、「プリウスPHV」はトヨタの技術開発の流れから生まれた「シーズ優先」の車だ。

3. プリウスPHVはトヨタの精巧な技術の産物であり、新興国メーカーはより簡単なEVに向かい、トヨタが「ガラパゴス化」する恐れがある。

4.プリウスを160万円の費用で改造可能であり、安くPHVを手に入れることができる。・こういったPHV改造が有望であり、これから補助を与えるなどして支援すべきだ。

以下、これに対して私の意見を述べていきます。

「レンジ・エクステンダー」とは?

比較車両となっているGMのシボレー・ボルトについては、このブログでも販売開始前から注目し、何度も取り上げてきました。そしてその駆動方法の違いについての解説記事も掲載しています。

その中でも説明していますが、GMが中心となって提唱している「レンジ・エクステンダー」というのは、ハイブリッドの中でも最も古くからあるコンセプトである「シリーズ・ハイブリッド」のコンセプトが名前を変えられて紹介されたものです。

「レンジ・エクステンダー」技術がEVに近いというはその通りで、トヨタやホンダのハイブリッド車とは違って、基本的にはエンジンは発電機してのみ使用し駆動は電動モーターのみで走る車です。(ただし、シボレー・ボルトにはエンジンの駆動を走行のアシストにも使用できる機構が含まれているとも言われています。)

先ほど古くからあるコンセプトと書きましたが、世界初の「量産」ハイブリッド車が「プリウス」であった事が示すように、コンセプトがありながら実用化されて来なかった歴史があります。その理由は、このコンセプトでは車全体の効率化が難しいという点からでした。

トヨタやホンダなどハイブリッド車は、バッテリーとモーターなどによる重量増をなるべく抑えこみながら、変換効率の著しく低い低速加速時にエンジンのアシストを行い、また回生エネルギーなども利用できる電気の特性を組み合わせることによって、従来のガソリン車以上の燃費を達成し量産化が実現されました。

「レンジ・エクステンダー」(「シリーズ・ハイブリッド」)でも、軽量化が大きな鍵となります。ただし、基本的にはEVと同等のバッテリー容量とモーター出力を有し、更に発電用エンジンを積む為に、これは非常に困難なものとなります。2つのエネルギーを上手く組合せる事が出来なければ、EV走行時の航続距離を発電用エンジンが、ハイブリッドモード走行時の燃費を大容量バッテリーがそれぞれ減らすという結果になりかねません。

シボレー・ボルトはこのようなチャレンジの末に生まれた車でした。GMがハイブリッドの開発を始めたと囁かれはじめたのは、1997年のプリウス販売から間もなくでしたから、10年以上たってようやく完成した車ということができます。ただし、燃費については35マイル(56km)のEV走行距離を超えたハイブリッドモードではEPA37mpg(15.6km/l)と、プリウスの50mpg(21.1km/l)と比較しても劣った数字となっています。

ボルトは「ニーズ優先」でプリウスPHVは「シード優先」?

話を日経BPの記事に戻しましょう。「レンジ・エクステンダー」のボルトがよりEVに近い車であることは上で説明した通りです。その点は、村沢氏の(1.)の主張とニュアンスこそ違うものの同じです。

しかし、(2.)の『ボルトは「ニーズ優先」でプリウスPHVは「シード優先」』という点は、到底納得できるものはありません。そして極めて皮肉なことに、この記事が掲載された直前の週末、GMよりシボレー・ボルトの一時生産停止が発表されたのです。正式にそうだと認めた訳ではありませんが、販売不振による一時停止であることは間違いないでしょう。

ボルトの販売は発火問題などもあり、これまでに一年間で約8,000台と、ラインオフに大統領を呼ぶなど期待を一身に背負った車としては、スタートダッシュに失敗。今年は45,000台の販売を目標にしていましたが、発火問題に対する改善を行った後の2月の販売実績でも1,000台強と、目標には程遠い売れ行きのみしか達成できていませんした。

私は実際にボルトを運転したことは有りませんので、その乗り味や居住性についてはコメントができませんが、販売不振の理由を考えるとそれだけが理由ではないでしょう。正直に言うと、EVモードでの走行距離の短さ(+充電をする際の不便)とハイブリッドモードでの燃費の悪さによって、『次世代自動車として「中途半端」』な車になってしまい、ユーザーの期待に応えられなかったからだと考えています。

しかも、アメリカでも日本と同じく、プリウスの販売台数が再び上昇カーブを描き始め、1月のデトロイトショーではフォードの新型「Fusion」が非常に高い評価を受けているなど、ガソリン価格の高騰が大統領選の大きな焦点となる状況下で、ハイブリッド/PHVに対する期待は再び高まっている状況でのこの結果です。

そしてそのような車になった最大の要因は、「レンジ・エクステンダー」としてEVと名乗ることに固執した結果、トータルで効率の悪い車になってしまったことに尽きると思います。つまりそれは、『トータルの燃費の向上』というユーザーの期待に目を背け、『EVにより近い「レンジ・エクステンダー」を採用する』というユーザーの求めているものではないコダワリ=自社の都合を優先したことといえます。これこそまさに「シード優先」の最もたる例といえないでしょうか。

ただし、私もGMだけを、いやGMのエンジニア達を責めるのは酷だと思っています。というのも、ボルトがエンジンの駆動をアシストにも利用できる設計となっているという情報が出た際、プリウスなどと同じ「シリーズ・パラレルハイブリッド」に接近した際に、一部メディアやEVファンからバッシングを受けました。「そんなのはEVじゃない」というバッシングです。また、経営陣や広告部隊からも、他社のような「ハイブリッド」じゃなく「EV」を出せというプレッシャーが強くあったことは想像に難くありません。

私はそのような声を「ニーズ」とは認めません。「ニーズ」とはより多くの消費者の声、次世代車について言うと、様々な理由から燃費の悪い=環境負荷の高い車を乗っていて、それを乗り換えても良いと思うに足る車が出て欲しいと思う多くの人に届く車を作ることに他なりません。それを選択するのは消費者であり、個人的には販売台数はその最大の指標となると考えています。

次世代車の「ガラパゴス化」?

村沢氏のこの記事の他にも、同じ頃に日経新聞でもまた違った切り口で日本のハイブリッドがガラパゴス化するという記事が出ました。それについては、先日に代表が記事を書いていますのでそちらをご参照下さい。

「ガラパゴス化」とは、音声から通信への舵をいち早く切りながらも、国内限定のサービスに終始し世界シェアを握れず国際的プレゼンスを失った日本の携帯電話を表すのによく利用される言葉です。

ハイブリッドのシェアが日本のみ突出して高いのは事実です。ハイブリッドの量産化を始めたのが日本企業なので当然なのですが、日経新聞も村沢氏もこれを日本でのみ通用する高度な製品を作っている状況とし「ガラパゴス化」と呼んでいるのでしょう。日経新聞では世界の潮流として過給器付き小型エンジン、村沢氏はEVがあるとし、ハイブリッドに固執する危険に警鐘を鳴らします。

しかし産業の「ガラパゴス化」という言葉を生んだ携帯業界を見ても、この言い方には疑問があります。日本の携帯電話が他国に比べて先進的で高機能だった時代、世界シェアを奪ったのは新興国や途上国でのニーズを掴み必要最低限な機能の携帯電話を低価格で提供したフィンランドのノキアでした。確かにこの時には国内限定の高機能機市場があったという意味で「ガラパゴス」と言ってよい状態でした。

しかし、その後のスマートフォンの普及期に入り、世界シェアを急速に伸ばしたのはアップルやサムスン、台湾のHTCなどで、現在は日本メーカーだけでなくノキアも苦しい状況が続いています。この状況を「ガラパゴス化」の状況と呼ぶには、すこし抵抗があります。というのも、カメラ機能の一部だけを取り上げると高機能であったり、国内向けの「おサイフケータイ」「ワンセグ」「キャリアメール」といったサービスなどはありますが、他国から入ってくるスマートフォンに比べて機能性でも優れているとは言いがたい状況になってしまったからです。その証拠に、ノキアは日本市場に地歩を固めることはできませんでしたが、アップルやサムソンなどは日本でも販売台数を伸ばし、日本メーカーは遅れてグーグルの「Android」を採用するというのが、皆さまご承知の通りの日本の携帯電話市場の状態です。

これを引き起こした要因は、世界シェアを握ってスタンダードを握れなかった事ではなく、アップルが「iPhone」などで実現したユーザーが本当に求めている商品開発を怠ったことにあるでしょう。言い換えれば「ニーズ優先」を行えなかったからです。

さて、自動車に目を戻すと、「ガラパゴス化」を言う村沢氏の記事も日経の記事も、私は「シーズ」の話ばかりをしているように感じます。それは、「ハイブリッドだ」、「過給器付き小型エンジンだ」、「EVだ」のように。個人的には、そこにユーザーの存在を感じることはできません。

私はユーザーのニーズとはもっと根源的なものだと考えています。「もっと便利で安全で、燃費の良い=エコロジーな車を安く提供して欲しい」、これは普遍的であり世界共通のユーザーのニーズです。ハイブリッドも、エンジン小型化も、EVもその普遍的な要求に応える為の手段でしかありえない筈です。

改造ビジネスが主流になる?

村沢氏はPHVの改造ビジネスに期待が高まると述べています。この部分はこの記事でも、はっきり言って非常に稚拙な部分となっています。

まず、改造費について160万円で出来ると言っていますが、これには当然ながら改造元のプリウスが必要になり、その価格が含まれていません。ベストセラーカーのプリウスだから、これから大量に出回ると言っていますが、多くの方がご存知のように、プリウスの中古車価格は高値で安定している状況が続いています。現状で改造可能な2代目プリウス(NHW20)でも走行距離が少なく状態の良い中古車は120万円~150万円が相場となっています。これを購入して改造すると、新車のプリウスPHVを購入するのと全く代わりがありません。しかも、それでありながら、中古車でメーカーの保証を受けられないのです。

また、3代目(NHW30)に対応したキットが出ると言っていますが、現時点でアメリカでもそれに対応したキットは出回っていません。そもそもこのようなキットは、プリウスに搭載されているEVモードを利用して、擬似的な信号を車に与えてEVレンジを伸ばすもので、自動車メーカーからみても安全性の面から歓迎できないものです。

2年前に大きな問題となったトヨタ車の急発進問題を思い浮かべていただくとよいのですが、自動車会社にとって安全問題は最も重要な部分であり、それに最大限の努力を割くのは自動車会社の義務となっています。ですので、危険性の高い走行モードプログラムの改造や、発火の懸念が恐れられているバッテリーの載せ換えなどを伴う「プラグイン化」改造に対して、それを防ごうとするのは自衛の面でも当然の行動でしょう。

ただし、誤解をしていただきたくは無いのですが、個人的には完全に自己責任でこういったDIYで自動車を改造する事に関して反対の意見は持っていません。それどころか、アメリカで行われているこのような改造を、日本で行う人々がなかなか表れなかったことには、寂しさを感じていました。走り屋的なものに支配されている日本のカスタムカー市場に、EV改造などを含めてこのようなチャレンジをする自動車マニアが増えて欲しいというのが私の願いです。

ただし、村沢氏のおっしゃるPHV改造に対して国が支援するという話などは完全に別の話です。自動車の安全の管理は、国にとっても義務です。もしそのような方策を取るとしたら、自動車メーカーが取り組んでいるのと同等の安全に対する研究開発を改造会社が行う必要があるでしょう。補助金を与え数多くの改造を施すというのであれば、国がそのように指導するのは絶対に必要なことです。ですがそれは、規模の小さい改造会社にとって出来うる話ではないでしょう。改造等は価格に関係なく改造費を負担するような自動車を愛する人々が支えうる小規模のレベルで行うべきというが個人的な意見です。

なお、改造PHVの項で電池切れの心配がなく「心臓に悪くないEV」という表現を使っていますが、これは全てのPHVに共通する長所です。

本質を見失っている日本の次世代車報道

本来であれば、村沢氏の記事が出てすぐにこういった記事を書くべきで、1ヶ月近く経ってから書くのは遅くに失した感があります。ただ、すぐにこのような事を書かなったのには、自分自身の中で逡巡があったからです。

というのも弊社代表は会社の紹介にもある通り、トヨタでハイブリッド開発の責任者を務めた人物であり、あくまでハイブリッド側、トヨタ側の意見として見られるのではないか、という懸念があったからでした。しかし、次世代車を考えるものの端くれとして議論もなくこのような記事が出されるのを看過するのはまずいと感じ、矮小な身ながらもこの記事を書くことをようやく決意したというが本当のところです。

キーワードは元の記事が与えてくれました。
「シード優先」「ガラパゴス化」です。

普段私は、海外の次世代自動車の情報収集と翻訳を行なっているのですが、この1年ほどで、海外の状況、特に送り出すメーカー等の供給側ではない、各国政府やメディア、ユーザー等の需要側に大きな変化があったと感じています。はっきり言い切ってしまうと、「EV」への期待の急激な縮小です。言い換えれば「EVバブルの崩壊」の兆しとも言えます。

欧州では予定されていた急速充電網の設置が見直されることとなり、またアメリカではEV関連ベンチャーに向けたエネルギー省(DOE)の資金援助の基準が厳しくなり、多くのEVベンチャーが資金繰りに悩まされています。また、オバマ大統領は、EVのみに限定されていた購入補助金を、他の次世代自動車にも広げると演説で表明しました。

他国がそういって舵を切った理由については、持論を以前も述べた事があります。日産のリーフやボルトの発売です。美しく彩られた未来であったうちは期待されるものですが、実際に商品として出されると現実的な計算が働いたのです。

しかし「ハイブリッド側だからEV反対なんだろ、他社の車が売れ行きが悪いからほくそ笑んでるんだろ。」と思わないで頂きたいです。本文に書きましたが、ボルトは実際に使用したことが無いのでどうも言えませんが、リーフに関しては実際に利用してみたところ、とても良い車で、長距離を使用しないと割りきって使えば非常に価値のあるものだと思っています。

また、リーフやボルトのように新しいジャンルに挑戦するエンジニアの方々の努力には無条件で賛辞を送りますし、日産にもGMにも先鞭をつけたこの分野での開発を可能な限り続けて頂きたいも思っています。また、30~50年後の中長期的にはEV等が主流になるという可能性を否定はしません。

一部では「プリウスだって初代は売れずに、2代目から売れた」という意見があります。しかしながら、プリウスには大きな発展余地があり、2代目はその期待に答えて大きく燃費性能を伸ばしたという実績がありました。個人としては、リーフやボルトにはそうなってほしいと思っています、しかしそれは約束された未来ではありません。

私はEV等に敵意を抱いてはいません。あえて敵意、いや怒りを抱くとすれば、「ガラパゴス化」などと無闇に危機を煽り、状況が変化した中でも代わり映えのない「EV幻想」を振りまく人々に対してです。実態を伴わない幻想は、それが解けた時に大きな反動を産みます。

自動車メーカーや自らEVを購入された方などは、自分の負担を享受してそれを行われていますので、全く批判するところなどありません。しかし、まことしやかにEVの可能性を煽り国全体をそのような方向に向け、税金を元とする国庫から支援などを引き出せと言う人々が本当にその責任を担うだけの見識と覚悟があるかというと大いに疑問です。

先日、古川大臣が急速充電の「CHAdeMO」規格を国家戦略として支援していくと述べていました。しかし、上にも書いたとおり欧州などでは急速充電施設については見直しを考えており、充電設備の国際標準化の中心軸から外れてきています。また、世界各所で行われたこの数年のプラグイン車の大規模実験によって、急速充電のニーズは10%にも満たず、多くのユーザーは家庭と職場で充電するという結果がでています。今必要とされているのは、家庭や職場で充電できる安価な設備の導入であり、それは急速充電ではなく日本では100Vもしくは200Vの普通充電の設備です。(海外では400V、800Vという議論すら出ています。)

また、ビジネス的な側面を考えたとしても、大きな市場となると予測されているのは充電設備そのものではなく、電力網と通信の融合つまりスマートグリッドへの移行に伴う、電力及び通信の次世代システムの構築分野です。この分野については、GE、シーメンス、ABBといった重電業界のグローバルな巨人達とグーグル、IBM等といった通信情報分野の巨人達が虎視眈々と狙い、旺盛な企業買収をおこなっています。残念ながら、その分野で日本企業のプレゼンスは小さいと言わざる得ない状況です。

私からすれば、EVや急速充電にあくまで固執する今の日本の報道等こそが、次世代自動車に対しても「ガラパゴス化」しているように見えてなりません。自動車の未来に必要なことは、「電気で走ること」ではなく、トータルで化石燃料の使用を減らしていくことです。勿論、今の自動車が与えてくれる利便性を損わずにです。乱暴にいえば、ハイブリッドに限らず50%燃費の向上した車が10台既存の自動車を置き換えるのは、1台のEVが置き換えるのに比べ遥かに効果があります。

次世代車を狭い場所に押し込めて争わせるな

繰り返しになりますが、私はボルトやリーフを創りだしたエンジニアの方々、またこれには父である弊社代表も含まれますが、ハイブリッドをここまで普通のものとして実用化に導いた各社の方々、マツダのスカイアクティブ等に代表される従来のエンジンを更に改良していこうとされる方々、FCEVなど一般量産化の道はまだまだなものの将来を見据えた自動車を日夜研究されている方々には心よりの敬意を抱いています。

だからこそ、机上論や根拠のない決めつけを元に、次代の自動車開発をされる方々のフィールドを歪める外部の意見には強い嫌悪感を抱いています。いや、外部だけではありません、本当のユーザーのニーズに向きあおうとせずに、理解しやすさや一時的な説明のしやすさを優先し、言葉遊びを繰り返して開発現場を混乱させる自動車会社の経営層にもそうです。

今回このような長い記事を書いたのは、代表が携わったプリウスの最新型がけなされたからでは決してありません。この記事の根底にある「EVであることが絶対善である」という、これまでの自動車文化への敬意に欠け、自動車ユーザーを置き去りにし、なによりも自動車の未来を歪めかねない決め付けを許すわけにはいかなかったからです。

また、この記事にもありますが、「EVは開発が容易」という意見を軽々しく言う風潮も嫌っています。確かに、少数台の作成についてのみ言えば、EVはハイブリッドどころかエンジン車に比べても容易です。しかし、量産をして市場に受け入れられるEVの開発は決して容易なことではありません。そのような意見は、リーフやボルトをここまで評価される車として努力して開発してこられた数多くの方々を侮辱するものとすら感じています。

また、これもよくある説明ですが、「中国は難しいハイブリッドをスキップしてEVを行う」というのも同様に説得力を持ちません。中国政府がEVを推進しているというのは事実ですが、EV開発および普及が当初予定と比べても遅れており、メーカーとEV導入モデル都市に政府科学技術部が更に普及策を推し進めるよう勧告を出しているという状況です。実際、中国のEV販売台数は昨年で約6,000台弱と言われており、台数規模から考えてもそのほとんどが地方政府や国営企業用として導入していると類推されます。自動車に求めるものは、中国の人々も変わりありません。中国の人々が納得して購入するEVの開発は、これからも困難を伴うでしょう。

しかしながら、しつこいようですが私は「EV」よりも「ハイブリッド」の方がいいと言いたい訳ではありません。「EV」も「ハイブリッド」もそれぞれに特性があり、それを生かした住み分けのもとに普及するべきと考えています。勿論、ある程度重なる部分は競争も生じるでしょうが、燃費の向上に努力するエンジン車も含めて化石燃料使用の低減のための次世代車の仲間です。無理やり「次世代車競争」と煽り、その中だけで比較を行うことは「EV」にも「ハイブリッド」にもプラスとなりません。

ボルトが売れ行き不振であったものの、GMは過去最高益の決算を発表しました。これは、利益率の高いピックアップトラック等の大型車の販売が急激に盛り返したことによります。これを挙げて、「そんな燃費の悪い車を買いながらガソリンが高いなどと言うな」と、アメリカを皮肉ることは容易ですが、それは建設的な意見ではありません。そのような人々を振り向かせる為にも、「ハイブリッド」も「EV」もまだまだ努力していく必要があります。
そしてそれこそが、次世代車の存在意義であり使命です。

最後に、プリウスPHVについては、残念だと思っていることがあると正直に言います。もう少し価格で努力し(300万円を切る程度)、EV航続距離をもう少し伸ばす(実走で30km程度)ことができれば、もっと多くの人が求める車になったのにと。