日本のハイブリッド車はガラパゴス?

3月 08 2012

シェアを大きく伸ばした日本のハイブリッド

3月7日の日経新聞電子版に「ハイブリッドに死角 車もガラパゴス化の懸念」という記事が掲載されました。ちょうど同日に、日本の2月度車種別販売台数が自販連から発表されたところで、それを意識した記事なのでしょう。

2月の車種別販売台数トップは、35,875台と9ヶ月連続でプリウス、2位はフィット、フィットはハイブリッド・従来ガソリン車の合計の数字でその内訳は不明ですが、4位につけたフリードとともにかなりの比率はハイブリッドと思います。さらに、昨年12月末に発売を開始した、トヨタの小型ハイブリッド車アクアが1月の4位から21,951台の3位への躍進を遂げています。

昨年の統計では、日本の新車販売台数に占めるハイブリッドの割合は、通年で10.8%と初めて10%の大台を超えました。メーカー別でみると、やはりトヨタ/レクサス車のハイブリッド比率が高く、2011年通年で30.8%、続いてホンダの28.4%と後半のフィット・シャトルHV、フリードHVの投入でインサイトの落ち込みをカバーし、高いHVシェアを占めています。

今年に入ってエコカー補助金が決まり、1月、2月とエコカーの販売が伸び、1月にはトヨタ/レクサス車としてHVシェア50%を記録、この伸びもあって日本全体での1月の新車販売台数に占めるHVシェアは20%を越えたようです。

このように日本では、1997年12月のハイブリッド車プリウスの発売以来、14年にして、お客様の懐にも、そして環境にも優しい(私自身、この言葉を使うのはあまり好きではありませんが)至極普通のエコカーとして、お客様に受け入れていただくようになったことに感慨を深くしています。

海外でのハイブリッドの現状

そこでの、「ハイブリッドに死角 車もガラパゴス化の懸念」との記事です。確かに、今の瞬間風速としては、日本だけが突出してはハイブリッド車のシェアが高まっています。中国は、国策として複雑で高度な技術を必要とするハイブリッドをスキップして、一気に電気自動車の普及を計るとの報道も流れており、リチウムイオン電池の開発にも国を挙げて取り組み、自国ブランドのさまざまな電気自動車を開発し、実証試験を行っていると報道されていました。

その電気自動車の販売台数はすでにハイブリッド車を越えたとの報道もありました。確かに、中国自動車工業会によると、2011年のハイブリッド車販売台数は2.556台、これに対し電気自動車5.579台とEVがHVの2倍以上となっています。
また、様々な地方都市で電気バス、小型電気自動車の実証プロジェクトがスタートしていますので、この発表された販売台数の数字がどのような定義なのか、一般販売をおこなって通常の方が購入しているか、それとも公費を利用した実証プロジェクトで使っているクルマをカウントしているのか、不明なところも多く、実態はなかなか見えて来ません。

しかし、中国の2011年の新車販売台数は1,850万台にもなり、その中の数千台ですから、ハイブリッドも電気自動車もまだまったく量産マーケットとしては存在せず、マーケット議論の対象外と言っても良いでしょう。

またアメリカでも日本ほどハイブリッド車シェアが伸びている訳ではありません。ハイブリッド車の販売台数が352,274台、そのシェアが2.99%を記録した2007年から2010年まで、販売台数、ハイブリッドシェアとも下降線を辿ってきたことも事実です。

電動自動車全体としても昨年、電気自動車の日産LEAFとレンジ・エクステンダー型電気自動車と自称しているプラグインハイブリッド自動車GM VOLTの発売もあって、2010年の274,175台から286,367台と下降を食い止めたようですが、自動車販売台数全体が大きく伸びたこともあって、シェアは2.37%から2.25%とさらに下がってしまいました。

欧州ではどうでしょうか?欧州単独でのEV/HV販売台数の数値は掴んでいませんが、日本のように多くはなく、従ってシェアもまだ低い状態です。しかし、プリウスは一目で見分けがつくせいもありますが、フランス、UK、ベルギー、スウェーデンではちょくちょく見かけくらい走っています。残念ながら、ドイツに移動するとぐっと少なくなってしまいますが、ドイツの無制限区間もあるアウトバーンを持つドイツは特殊な世界です。

世界全体のEV/HV販売台数統計は、2010年4月~2011年3月(2010会計年度)のデータがWARDSAUTOという、自動車情報サイトにありましたので紹介します。

この統計では、世界全体のEV/HV販売台数総数は930,662台。トヨタとホンダのHVで全体の95%を占め、他のHVとしてランクインするのはFord Fusion Hybridだけ、後はMitsubishi i-MiEV、Nissan LeafのEVが登場とするなど、日本勢のオンパレードです。

この状態が続くと仮定すれば、この記事のガラパゴス化との記事を載せたくなるのも理解できないではありません。さらに、最新ニュースで、2010年末にGM復活のシンボル、オバマ大統領グリーンニューディール政策の目玉として発売を開始したレンジ・エクステンダー型電気自動車VOLTの販売が今年になっても好転せず、4月末まで生産を休止すると伝えられました。

VOLTは日本勢のHV/PHVに対する強力な競争相手になり、競い合うことで次世代自動車マーケットの活性化を期待していましたが、今のところ期待外れの結果となっているようです。

大型車回帰で経営状況を回復したアメリカメーカー

2011年のアメリカでの車種別販売台数トップはFordのFシリーズピックアップトラックです。さらに、上位にはGM Silverado、Chrysler Ramといったピックアップトラックや、大型SUVが並んでいます。確かに、アメリカには、この手のフルサイズ・ピックアップトラックや大型SUVが似合うことは確かです。

ですが、このV8エンジンを搭載するFシリーズピックアップトラックの、アメリカ連邦環境保護庁(EPA)が公表する、アメリカのカタログ燃費はリッター換算で5.9km、アメリカのカタログ燃費は2008年にユーザーが実際に実現できる実走行燃費の平均値に近づくように改定されていますので、これが実燃費とすると、月に2000km程度を走行するユーザーは月に350リッター程度のガソリンを使うことになってしまいます。

図1 2011年車種別販売NO1 FORD Fシリーズ

2011年米国車種別販売
NO1 FORD Fシリーズ

原油の高騰が引き金でプリウスなど日本勢のHVが販売台数を伸ばし始めた2005年5月、あるアメリカの調査会社が、フルサイズ・ピックアップトラックや大型SUVにその収益源を頼っている当時のBig3への警告レポートを発表しました。
そこではBig3の社債を、なんと私の名を取って“Yaegashi Bonds”(ヤエガシ債)と命名すべきだとの書き出しでした。永く続いた安い石油価格の次回に収益率の高いに大型車に頼り、原油高騰と低CO2自動車への転換に遅れをとったBig3の社債はジャンクボンドになるとの警告です。
HVのシンボルとしてでしょうが、私には何の挨拶もなく自分の名前がネガティブなイメージで付けられ、それが日本にも配信され、とんだとばっちりをうけた格好になってしまいました。
http://upload.democraticunderground.com/discuss/duboard.php?az=view_all&address=115×23574

バブルがはじけ、大金融危機リーマンショックがやってきたのが、それから3年後の2008年9月、ちょうどその9月にGMの前社長ワグナー氏がその最中、創立記念日のイベントでVOLTの発表を行いました。それから、1年もたたない間に、GMは倒産し、文字通りのジャンクボンドになってしまいました。

今また、のど元すぎれば熱さを忘れるではないですが、リーマンショック後、ガソリン価格が一時的に低迷、大型ブームの再来、その後押しで復活を果たしているのがGM/Fordの現状です。この収益を確保出来ている間に、3度目の正直、低燃費車に舵を切れるかが本当に復活できるかの鍵だと思います。ガソリン価格がじわじわと上がり、この大型車ブームも続かない見通しです。

図にアメリカエネルギー省(DOE)の部局であるエネルギー情報局(EIA)発表の、1990年から現在までの全米ガソリン小売価格の推移を示します。

第2次石油ショック後、2000年ごろまでは安定的に、水よりも遙かに安いガロン(3.79リットル)当たり1ドルレベル(1990年10月の為替レートで130円/$:リッター35円程度)をキープ、その後、中東不安、大型台風による精油所被害、さらに中国などのモータリゼーションによる需要増、在来油田の枯渇などで急上昇し、リーマン後の景気後退で一時大幅に低下しましたが、またこのところ上昇を続け、ガロン4ドル(今の円レート81円/$でリッター85円)の大台に近づいています。

アメリカの平均的な年間走行距離は日本の2倍近いですので、週1回満タン、中型車20ガロンで80$は頭の痛い出費です。

この影響もあり、東日本大震災の影響を脱した昨年後半から、アメリカでのHV販売台数が大幅に増加し始め、またFord Fusion Hybrid、日産アルティマハイブリッド、さらにはプリウスC(日本名アクア)の発売でHVマーケットも活況を呈しそうです。

「ダウンサイジング」だけで乗り切れる?

日経の記事によると、中国での「ダウンサイジング」を取り上げています。V8をV6に、V6を4気筒になどエンジン気筒数を減らし、排気量を小さくし、通常の走行領域を熱効率の高いゾーン(低燃費ゾーン)にもってくる考え方です。低下する出力やトルクを、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなど過給器で補う方式がその一つです。
しかし、低燃費のためのダウンサイジングは定番中の定番で、ハイブリッド化による低燃費の考え方にも「ダウンサイジング」がしっかり入っています。ハイブリッドでの電池アシストも同様の考え方です。もう一つの「ダウンサイジング」がクルマ自体を小さく、軽量化し、低燃費を実現する「ダウンサイジング」です。これも低燃費の実現の為には王道の手段です。

ただし、過去に石油ショックの時代にそれをやって失敗したのがGM/FORDのアメリカBig3でした。小型化したキャデラックなどはまったく売れず、その隙をついて販売を伸ばしたのがトヨタ、日産、ホンダの日本勢でした。
当時もエネルギー安全保証として燃費規制が導入されましたが、社会要請に応えつつ、結局はお客様が良い意味でのサプライズを感じ、満足いただける商品が普及の前提、エコだけで多くのお客様に満足いただくことは出来ません。

中国でもEV/HVが普及出来ない理由も、まだ経済的にも、商品魅力の点でも、また品質的にもまだまだお客様にとって満足できるEV/HVが提供できていないことが最大の理由です。しかしながら、昨年の年間販売台数が1,850万台を越え、2020年には4,000万台を予測する記事も見かけますが、この急激に増加する自動車を走らせる燃料をこのままでは供給できなる可能性が高く、また世界経済、世界の環境に大きなダメージを与える危険性が高まっています。

大幅な石油消費の削減が待ったなし、従来技術の延長での「ダウンサイジング」だけで乗り切れないことは明かでしょう。EV/HVはあくまでもクルマの商品機能とのトレードオフをさせずに燃費効率を高める手段の一つであり、その中核に「ダウンサイジング」の考え方があり、お客様が満足する「ダウンサイジング」をEV/HVそして車両技術の進化で競い合うのがこれからの自動車だと思います。

ちなみに、中国のガソリン価格は、すこしずつ上昇してきていると言ってもまだリッター100円以下、ガソリン価格がここまで安いのはEV/HV普及を妨げる要因にもなりますが、このまま低価格を維持できる筈はありません。

しっかりとしたクルマを作っていけば「ガラパゴス化」は無い

欧州でもユーロ安の影響もあり、燃料価格がじわじわと上がっており、2月のフランスでのガソリン価格としてはリッター1.6ユーロと史上最高値に近づき、また厳しいCO2規制もあって低燃費車競争はさらに激烈さを増しています。

また、今の電池技術では、EVが今のクルマに変わり、世界全体の石油消費削減を果たすには力不足、しっかりと技術と品質、さらにマーケットを踏まえた利口な「ダウンサイジング」がいまこそ求められていますので、決して日本のハイブリッドがガラパゴス化の道を歩むことはなく、日本が次世代車の「パイロット」マーケットとして、世界をリードしていけると確信しています。

しかし、その条件は技術、品質、経済的にも、商品魅力としてもお客様に強く支持いただける商品を提供し続けることが前提です。クルマはグローバル商品、日本だけしか通用しないカタログ燃費、いまだに残る軽のカテゴリー、本当に石油消費削減に役にたっているかどうか判らない補助金制度などを当てにした日本専用車など井の中の蛙の商品ではなく、また「会社」の都合、一時的な収益の浮沈に目を奪われず、グローバルとして通用するクルマを作り続ける限り、ガラパゴス化を招くことはないと思います。