電力の発電CO2とプラグイン自動車

11月 10 2011

先月末に、フランスでトヨタと組んで、プラグインプリウスの大規模実証試験を行っているパートナー企業フランス電力公社(EDF)役員との意見交換のためパリに出張してきました。

それまで、電気自動車(BEV)普及を熱心にやっていたEDFが、プリウスハイブリッドに注目し、そのプラグインハイブリッド化の可能性とその共同事業化を提案してきたのは、今から6年前、2005年でした。EDFは1990代の初めから電気自動車の普及に力を注ぎ、電動輸送機関事業部を作りBEVの他、バス、トラム、水上バスなど電動輸送機関の実用化に取り組んでいました。BEVでは、ルノーとPSAグループからクルマの供給を受け、パリやフランス各地のEV共同運営組合を支援し、充電ステーション設置とセットでEVカーシェアプロジェクトを実施していました。しかし、BEVの将来事業展望は拓けず、パートナーであった自動車会社も次ぎのBEV開発をストップし、EDF電動輸送機事業部では会社トップから事業転換を迫られ、そこでハイブリッドプリウスに注目、そのプラグイン化の打診をトヨタに持ちかけてきたのがきっかけです。

1990年代の初めにトヨタを含め、いくつかの自動車会社がハイブリッド自動車(HEV)の開発をスタートさせましたが、そのきっかけはBEVの販売を義務づけるカリフォルニア州ZEV規制の制定でした。とはいえ当時の最新電池技術を駆使しても、今のクルマの代替としてお客様に受け入れていただけるBEVを開発する見通しは全くありませんでした。その代替として、各社が期待したのがHEVであり、多くが想定したのはBEVの延長線上である外部電力充電型、いわゆるレンジエクステンダー型プラグインハイブリッドでした。しかし、ZEVはCO2削減というよりも、ロサンゼルススモッグに代表される大都市の大気環境クリーン化規制のシンボルとしての規制であり、結局レンジエクステンダー型とはいえ、内燃エンジンを搭載するからZEVとしては認められないとの環境派の主張が通り、HEV実用化の機運が一気にしぼんでしまったとのいきさつがあります。

一方でわれわれは、ZEV対応というよりも、将来の石油資源問題、地球温暖化問題から21世紀の自動車には画期的な低燃費が求められるとして、HEVの開発を続けハイブリッドプリウスに結びつけたとの経緯がありました。ZEVは意識しませんでしたし、普及型次世代車ということで当初から外部充電型のプラグインハイブリッドは候補には挙がっていませんでした。しかし、BEV用としての実用化は困難としても電池がもう少し軽く、コンパクトにかつ安く出来る見通しがつけば、プラグインハイブリッドの可能性もありとは考えていました。その将来電池の候補がリチウムイオン電池であったことは当然です。しかし、プラグイン自動車の普及には電池だけではなく、充電ステーション整備も必要、その費用負担を含めて、多くのユーザが経済的なメリットを出すにはまだまだ技術的にも経営的にも高いハードルを乗り越えることが必要です。また、それに使う電力も安価で、かつ低CO2であることが求められます。 

フランスで行うことの意味

フランスでは原子力発電と水力発電の両方で90%以上の発電シェアを持ち、先進国中では世界ダントツの低CO2電力供給国で、3.11前で原発が通常に稼働していた日本の発電CO2の20%以下という、2050年ぐらいに我々が目指さなければならない電力CO2排出量目標を既に達成していました。また、電力料金もオール電化契約の夜間電力料金を除くと、一般家庭用も日本よりも電力料金が安く、一方ガソリン価格は日本よりも高く、CO2低減効果、ユーザの経済メリットの点、さらにクルマの使い方の点でもクルマ文化発祥の地ヨーロッパでのPHV効果の把握とその情報発信に期待をし、EDFとのPHVアライアンスを進めることになりました。

この低CO2電力をクルマの走行エネルギーの一部に使い、長距離ドライブなど電力走行ではまかなえない部分を高効率なハイブリッド走行とすれば、いまからポスト石油や地球温暖化緩和のためのCO2排出削減シナリオの実証スタディーを行うことができます。自動車発祥の地、成熟した自動車社会の欧州で、2020年、2030年、そして2050年の自動車からのCO2排出削減目標を睨みながら、実際のユーザの走行環境での評価を受けながら次世代ハイブリッド車の開発を進めて行くには絶好のチャンスと感じました。この話をもちかけたEDFの重役が実証プロジェクトとして提案してくれたのが、彼の友人が市長を務めているストラスブール市でした。EU議会があり、EU統合のシンボルの街ストラスブール、洒落たトラムと大聖堂でも有名な観光都市で、環境保全政策にも力をいれています。さらに、街の東を流れているライン側を渡るとドイツ、30分足らずで速度無制限のアウトバーンを走ることもできます。

日本とタイアップし、日本のハイブリッド技術を生かし、プラグインハイブリッドの普及拡大と、厳しい欧州ユーザの声を次ぎのハイブリッド開発に反映させて欲しいとの強い思いがありこのプロジェクトのサポートを今も続けています。しかし、3.11福島原発事故はここに大きな影を落とすことになってしまいました。ガソリンの代替として、外部電力によって電池を充電してその電気エネルギーを使うプラグイン自動車の普及を図るには、そのエネルギー分の発電能力を増強してもらうことが必要です。低CO2 化を進めるには、電力そのものも低CO2にしていくことが求められます。

変更を余儀なくされた日本の発電シナリオ

3.11までのシナリオでは日本としてのCO2低減の重点策として原発拡大が掲げられていました。CO2排出の多い、石炭火力や石油火力から原発への転換を図り、オール電化を推進しても有り余る夜間電力の新規需要としてプラグイン自動車用電池の充電に使おうとの構想でした。このシナリオが大きく狂ってしまったことは以前のブログでも述べたところです。オール電化の推進も、原発により余裕がでる夜間電力の新規需要開拓の意味合いが強く、この夜間低CO2電力とヒートポンプ給湯を組み合せ一般家庭の電力拡販とCO2削減を狙う、政府/電力会社合作の一石二鳥シナリオだったと思います。プラグイン自動車もこのシナリオに沿った路線でした。余裕電力の活用として安く設定される筈の夜間電力料金利用も経済メリット拡大として注目していました。

図に発電方式別のCO2排出量を示します。原発の代替として、太陽光、風力といったリニューアブル発電の拡大が叫ばれていますが、現状でのシェアは微々たるもの、思い切ったインセンティブを付けたとしても即座に原発の代替などは不可能であり、原発発電量の減少を補うためには、この図に示す火力発電の増設でしのぐ他はありません。期待が集まっているLNG火力であっても石炭や石油火力に比べるとましですが、大幅な排出削減が求められている日本のCO2排出量を短期的には増加させてしまう懸念さえあります。

発電CO2排出

発電方式別の二酸化炭素排出量
(出典:資源エネルギー庁 やさしいエネルギー解説集)

今週7日、東電から2010年度の発電電力CO2実勢が発表されました。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11110702-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111107b.pdf
2010年度ですから、3.11の影響は3末までのわずかの期間しか原発停止の影響は含まれていませんが、発電電力あたりのCO2は前年の0.324kg- CO2/kWhから0.374kg-CO2 /kWhと15%以上も増加しています。よくよく資料を見ると、実際の発電Mixベースでは2009年度もCO2低減基準年の1990年度 380kg- CO2/kWhから微増の0.384、2010年度は少し減って0.375、その差分は他から購入した炭素クレジット分で、2009年度では0.06kg分のクレジットを購入して穴埋めにつかったが、2010年度は0.001kg分しか購入しなかったことによる差です。実態としては1990年度から発電量原単位ではCO2が減っていないとの結果でした。2011年度以降はさらに発電CO2が増加してしまうことは明かでしょう。
その電力を使う訳ですから、BEV/PHVのCO2排出量も増え、また電力料金も上がってきていますから経済メリットも感度は少ないとは云え、減少してきています。福島原発事故を受け、欧州CO2マーケットの排出権クレジットが上昇を始めています。排出権クレジットの購入費用は電力料金に跳ね返り結局は消費者負担、いつまでも続けるわけにはいきません。2010年度でもクレジット購入額を減らしましたが、本年以降はさらに増加分をクレジットでカバーすることは経営的にも許されないでしょう。

エネルギーについて大きな眼で本質的な議論を

プラグイン自動車の電池を電力貯蔵源として活用するスマートグリッド構想によって、リニューアブル発電拡大切り札にしようとの声も耳にしますが、充電電力はクルマを走らせるためのもの、それを転用するシナリオをどう成立させるかが理解できません。電力貯蔵源として使うにしても、その充電電力はこれまでになかった電力の新規需要です。原発の夜間余裕電力が期待出来ない場合、この新規需要をどんなシナリオでまかなうかはこれからの議論です。自動車だけでの議論ではありません。人間の生活、農業、漁業からサービス業、製造業まで、それを支える全ての産業が多くのエネルギーを使うことにより成り立っています。脱化石燃料、低CO2を目指さすとしても、省エネと太陽光発電や風力発電など新エネだけではまかなえないことは明かです。日本の将来のためこれからのエネルギー戦略についてもっと真剣に向き合い、議論を進めていくことが必要と思います。もちろん、原発運転を継続するにしても、もう想定外は許されないことは言うまでもありません。

エネルギーと環境、フランス、ヨーロッパでの取り組み、PHVの実証状況を見守りながら、日本のエネルギー、環境議論にも加わっていきたいと思います。