EVに関する六つの心配毎の六つの真実

今騒がれているSmart Gridと電気自動車の関連について面白い記事をネットで見つけましたので紹介します。原題は“6 truths about EVs that turn out to be false (utilities take note)”、副題にユーティリティー(電力会社の留意点)として取り上げているところが興味深い。

このSmartgrid.comというサイトはアメリカのSmart Grid関連のニュースを配信しているサイトで、オバマ大統領のエネルギー・環境政策の目玉、グリーン・ニューディール政策の中核を構成するSmart GridとEVのトピックスを扱う、この分野の情報配信サービスとしては名の知られたサイトです。この記事はこのサイトの代表者、Mr. Jesse Berst氏の署名記事となっています。

そこで取り上げた六項目について、その概略を紹介しましょう

1. EV普及のために、我々はショッピングモールと公共駐車場に大規模な充電インフラが必要であるとの懸念は、真実ではない。(必要とはしない、実際には大部分の充電は夜間に家庭、社有車でも夜間に会社の駐車場で充電する)

2. ガレージでの充電だけでは不十分ではないかとの懸念は真実ではない。
(しかし、路上に駐車、さらに都市居住者の路上駐車車両の夜間充電どうするかはまだ把握していく必要があります)

3. 住宅用急速充電器のオプションが必要との懸念は真実ではない。

4. 特別のケースを除いて、電池スワッピングステーション(満充電電池パックへの交換方式)が必要であるとの懸念は真実ではない。(軍隊用車両や用途が決まった営業用車両(フリート車)用としてのオプション以外はないでしょう)
EVの初期購入者は都市内移動用として使用し、長距離ドライブはガソリン車を使うでしょう。

5. EVドライバーは走行レンジを気にする必要という懸念は真実ではない。
(数週間運転をすると、実際の走行レンジや充電時間を学習する)

6. 車両から電力グリッドへの電力供給(Vehicle to Grid: V2G)が必要になるとの懸念は真実ではない。(V2Gに期待するほぼ全てのメリットはスマート充電機能で実現できる。これによりV2G機能で電池寿命保証を損なうリスクを避けることができる。)

この懸念は、電力会社だけではなく、自動車メーカー、電池メーカーの人たちも同じように抱いています。この懸念に対する真実と述べた内容も、アメリカ、欧州、日本、それぞれで状況は異なり、また将来にわたってもこの説明が正しいかも疑問です。しかし、このような議論が出てくることは歓迎です。

実証試験のデータが出揃ってきた今こそ議論しよう

このいくつかの項目について、論評をしてみたいと思います。
1の指摘には、ほぼ同意です。以前、このブログでも述べましたが、プラグイン・プリウス(PHV)を使ったフランス・ストラスブールでの実証試験ユーザーの調査結果でも、総充電回数の97%は、家庭、もしくは会社駐車場の充電スポットで、残り3%以下が公共駐車場や中心街の路側駐車スペースに設置した充電スポットでした。充電が不可欠なEVと充電をしなくともガス欠でなければ走れるPHVとでは状況は違うでしょうが、プラグイン自動車の充電は、その殆どがこの自宅、会社駐車場の充電スポットであろうとの推測はほぼ当たっています。EVの場合、PHVよりは電池のエネルギー量が多く、電池走行航続距離が長いですから、日常の都市内スクーター走行(コミュート走行)で電欠ぎりぎりまで使うことは殆どなく、予定外の走行による緊急時以外に追加充電してまで走行する頻度は少ないと思います。もちろん、以前のブログで述べているように、ショッピングモール、ホテルなど出先で充電できるようになればPHVの電力走行距離割合を伸ばすことができますので、充電スポットの普及は歓迎ですが、必要条件ではありません。

2は少し異論があります。EV/PHVの普及は輸入石油依存度の低減、長期的にはポスト石油へのエネルギー転換であり、さらに地球温暖化緩和のための自動車から排出されるCO2の削減です。“エコ”、“地球にやさしい”との教宣活動や企業の社会貢献活動のフェーズから実効を上げていくフェーズへの移行には、このEV/PHVの本格普及が必要です。
パリ、ストラスブール、ロンドン、ローマ、ミラノ、ストックホルム、コペンハーゲンなどなど、欧州の様々な都市を回る機会には、クルマの駐車環境と充電スポット設置の可能性を頭に置きながらこのところ見て回っています。ストラスブール、ストックホルムなどいくつかの都市では市交通当局の担当者、交通公社の担当者との意見交換も行っています。欧州の都市では、充電スポットを設置できるような専用駐車場をもっているユーザーはほんのわずか、大部分は路上駐車、集合住宅でも専用駐車場を持っている物件もそれほど多くはありません。日本はまだましですが、それでも都市の集合住宅の充電スポット設置をどう進めるかはこれからの課題です。フランスでは、集合住宅の新規計画では一定割合の充電スポット設置義務づけなど、法規制としての整備計画議論も始まっているようですが、まだまだ先の話です。
先週もパリに行っていましたが、パリ中心部の地下公共駐車場の充電スポット設置計画もあるようですが、駐車スペースが狭いのが通例、また民間集合住宅の駐車スペースでは、コンセントがあってもEV/PHV充電用とは考えておらず、充電に使用すると他の住人から苦情がでたとの声も聴きました。普及には様々な、法改正とともに、個別充電量の把握と課金などスマートメータとセットでの整備が必要になりそうです。駐車場付きの一軒家に住んでいるのは超大金持ちだけ、パリ市在住者に試乗用としてプラグイン・プリウスを貸しても、ほとんど充電ができず、プラグイン走行を試してもらうことができないと言っていました。
路上駐車車両での充電にはなかなか妙案はありません。パリの頑丈な充電ステーションでも、雑な扱いや故意と見られる破損が多発、また充電ケーブルの盗難も心配です。頑丈に、また盗難対策をほどこすとその設置費用は結構な高額となることも普及のネックです。

3も当然の意見、高額な設備では電気エネルギー代替の経済メリットは帳消しです。
5で取り上げているV2G用も急速充電レベルの高パワーではこれも対費用効果からの見極めが必要です。

4もこれにコメントの必要はないでしょう。特殊用途専用、仮に電池パックの標準化が行われたとしても、今のクルマの代替と考えると途方もない数の電池交換ステーションと電池パック在庫が必要になり、その実用性は議論の余地もないでしょう。
この補足説明に書かれたコメントの『EVの初期購入者は都市内移動用として使用し、長距離ドライブはガソリン車を使うでしょう。』に興味がひかれました。
そのとおりだと思います。過去にEVカーシェア組合の責任者、官庁のEV担当官など実際にEVをよく使っている人たちと何度か懇談の機会がありました。全員が街の中のショートコミュート用として満足してEVを使っておられました。しかし、殆どの人が、忘れ物を取りに帰るなど、この距離ならなんとギリギリと少し無理をして電欠を経験していました。その対策として、通常コンセントからの長い充電ケーブルの保持は欠かせないといっていました。
また、このコメントにもあるように、話をした全員が長距離用にはEVは使わず、従来ガソリン車を使っていると言っていました。これが実態、電池技術のブレークスルーがあり、エネルギー密度、重量そしてコストがドラスティックに変らない限り、電池搭載量を制限した都市内コミュータ用途が現実解、初期購入者だけではなく、これからも長距離ドライブには殆ど使われることはないでしょう。
その上での問題提起です。このコメントにある、日常の限定した短距離走行の個人用のクルマとしては、その年間走行距離は短くなります。奥様のショッピングカー、短距離通勤の専用車など、今でのその用途では年間走行距離は短く、ガソリン消費も少なく、またCO2排出量も多くはありません。さらに、年に数度、そのクルマで長距離ドライブをしていたとすると、その代替は通常のガソリン車を使うことになるでしょう。今の平均的なクルマの代替として使われるわけではなく、最近よく目にするEV車の効果比較として、同じ生涯走行距離比較で走行費用のメリット評価のデータを見かけますが、今のクルマと同じ用途として代替される可能性は少ないことを申しあげたいと思います。

それならば、急速充電スポットを高速道路のSAやPAへの大規模設置や、その充電パワーをさらに上げたタイプを開発し充電時間の短縮化を計るとの提案もありますが、今のクルマ代替として1時間毎に充電が必要となると、SA、PAには大量の充電スポットが必要になることは計算しなくても明らかでしょう。それも長距離走行時のみに必要な機能で、日常のショートトリップでは、その殆どのエネルギーは家庭での夜間充電だけでまかなうことができ、非常時でもなければ、かなり充電量を余したまま使うことになるでしょう。

6のV2Gの必要性は、これからの話です。ここにちらっと触れているように、電池寿命への影響はまだまだ心配の種です。今の電池寿命の実力では、いまのEV/PHVの使い方でも電池状態をモニターした電気モーター入出力制御と制限走行、スマート充電制御などにより電池寿命保証を行っており、Smart Gridで期待されている大出力のV2Gまでの電気エネルギー入出力まで保証できるわけではありません。この電池寿命伸張に見通しができ、V2G用途にも使ってもその保証ができる見通しが付いた暁には、家庭や狭い地域マイクログリッドで、太陽光発電、燃料電池発電を組み合わせてその地区に電力需給調整用としての期待は持てます。また、耐久寿命伸長が前提ですが、自動車用、電力貯蔵用のリンク使用の可能性も出てくることも期待されます。しかし、これも、あくまでも電池の寿命伸張が実現出来た上での話、まだまだそのハードルは高いことを認識しておく必要があります。

今、いくつかの自動車メーカーからのEV/PHVマーケットインとさまざまな国、地区での実証プロジェクトの経過から、1,2,3,4のコメントにあるような充電インフラ整備、その標準化の方向について、従来の机上よりは実態に沿った議論が行われるようになってきました。今回取り上げてコメントもその一つです。イギリスでは、EV普及政策として決めていた、公共充電インフラの整備計画を見直す方向を打ち出しました。ドイツでも、有力電力会社のEONはE-Mobility政策としての急速充電インフラ整備見直しに疑問を投げかけ始めました。フランスでも、見直し議論が始まっています。

Smart GridはこのEV/PHV充電スポットの将来、さらには電池の将来に深く関わっています。ここも、ビジネスチャンスと囃し立てたり、乗り遅れの危機感を煽る議論に慌てる必要はないと思います。安全、安価、使い勝手の良い低パワースマート充電スポットの開発、これも安全、長寿命、軽量、安価な電池開発をしっかり行うことがEV/PHV普及拡大の基本であり、その上でのSmart Gridだと思います。