パリのオートリブ(Autolib)

パリで世界最大規模のEVカーシェアリングプロジェクトがスタート

フランスのパリ市で今週初めから、EVのカーシェアプロジェクトの試験運用が開始されました。当初はパリ市内にある33カ所の貸し出しステーションで66台のEV車でスタートし、本年12月には、250ステーション、250台に増やす予定で、その後はパリ市に隣接するイル・ド・フランス圏にも拡大し、来年夏には1100ステーション、2,000台、最終的には6,600ステーション、3,000台を目指すとのことです。

http://www.paris.fr/accueil/deplacements/autolib-les-premieres-stations/rub_9648_actu_94468_port_23738(パリ市)
http://jp.reuters.com/article/idJP2011100201000558(ロイター)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2832255/7863530?pageID=2(AFP)

このプロジェクはパリ市のドラノエ市長発案のもと、2009年にその構想を発表され、このプロジェクトに参加するEV車や充電ステーション運営サービスの公募を行われ、結果、バンサン・ボロレ(Vincent Bollore)氏率いるル・モンド誌などメディア関連企業から、自動車部品、リチウム電池など様々な企業グループから構成されるフランスのボロレグループ(Bollore Group)が受注しました。使用されるEVは、フェラーリのデザインなど自動車デザインで有名なイタリア最大のカロッツェリア(自動車モデラー)として有名なピニンファリーナがボレロ社と共同で開発を行ったもので、Blue Carと名付けられています。電池はボレロ社のリチウムメタルポリマー電池を搭載、製造はイタリア・トリノにあるピニンファリーナ社の工場をリースして生産しています。

車両諸元は全長3650、全幅1700、車高1610の4人乗り、三菱i-MieVと日産LEAFの中間に位置するサイズですが、軽量ボディーにi-MieVのロングレンジタイプの電池エネルギー16.0kWhの倍近く、LEAFよりも多い30kWhのリチウムメタルポリマー電池(LMP)を搭載し、欧州走行基準で航続距離250kmを持つと発表されています。LMPは、現在のリチウムイオン電池の以前に開発され、充放電の繰り返しで導電性物質が析出し短絡をおこしてしまう問題があり、今のリチウムイオン電池に置き換わっていったいきさつがあります。ただし、それをウルトラキャパシタとの組み合わせで解決したとの話もあり、そのコストとともに実際はどう使っているかにも注目しています。

なお、このクルマはピニンファリーナのデザインらしい、洒落たスタイルの4人のりコミューターで、これまた洒落たデザインの貸し出しステーションや充電端末、貸し出し用端末とともに、パリ市街にどのようにマッチしているのか、今から楽しみです。会員代や使用料金なども発表されていますが、使用料は30分単位の設定となっており、短時間利用を狙ったコンセプトのようです。

バンサン・ボロレ氏いわく、このオートリブプロジェクトにボレロとして100万ユーロ以上を投資したとのこと、どのようなビジネスモデルを描いているのか興味のあるところです。

ベリブの自動車版

現時点の計画では、EVカーシェアとして世界最大の規模となり、パリ市関係者の発表によると、公共交通機関と個人用の乗り入れ自動車の間をつなぐ位置づけとして、パリ市民の足として定着しているバイク(自転車)シェアプログラム“ベリブ”(Verib)の自動車版を狙ったプログラムとのことです。

パリ市 バイクシェアプログラム “ベリブ”(Verib) 貸し出しステーション

パリ市 バイクシェアプログラム
 “ベリブ”(Verib) 貸し出しステーション

この“ベリブ”は、旅行者も借りることができ、メトロやフランス国鉄(SNCF)の駅から借り、どこの貸し出しステーションに返してもよい仕組みで、街を歩いていてもこの貸し出しステーションやこれを使って走っている人たちが見慣れた日常の風景となっています。“ベリブ”プログラムは、会費と使用料以外にも、広告宣伝のスポンサー収入もあるようで、運営面も安定しているようです。しかし“ベリブ”規格に基づく頑丈な作りですが、それでも故障が多発、故障というよりも故意に壊されるケースもあるようで、また雨の日やよくある交通機関のストの日などでは、鍵をかけて自分専用にしてしまうなど、マナー違反も多いとも耳にします。大都会でのコミューターEVによるカーシェアビジネスは、航続距離に制限のあるEV普及の一つの方向と過去も様々なトライが行われてきましたので、今回こそはと期待も大きいと思います。しかし、2年ほど前に、ドイツのカーシェア運営会社を訪問したことがありましたが(EVではなく、小型車の地域カーシェア会社)、安いサブコンパクトクラスを使い、ボランティアのサポートを受けてやっと赤字をださないで運営できていると言っていましたので、その2倍以上も高価なクルマに充電設備など付帯設備も高額なEVカーシェアビジネスをどのように成立させるのかも気になるところです。このパリ市のオートリブ Blue Carだけみると、自社製といえども30kWhのエネルギー容量で300kg以上の重量を持つリチウム電池を搭載し、結構高くつく新素材の軽量ボディーのクルマで、この規模の生産量でパリ市にどれくらいの納入価格で納入できているのか、最終的に3,000台のEVと6,600カ所の貸し出しステーションに充電器、貸し出し用端末、カード費用などを含めると相当な費用になると思いますが、ビジネス的にも成立しているベリブに対しオートリブが2匹目の“どじょう”となるかも注目です。

カーシェアリング、自動車の未来は?

日本でも、民間と地方自治体タイアップによるEVカーシェアプログラムが開始されていますが、まだこのサービスが日常に入ってきてる段階にはありません。プログラムの規模も小さく、まだまだビジネスとしての成立性を議論するフェーズではないのが現状ですが、海外の事例とはいえこのオートリブを筆頭とした欧州大都市での実証試験の結果は、カーシェアリングが今までのような環境コンセプトの状況から実際のビジネスとして成立するものに発展できるのか、大いに参考となるものでしょう。

カーシェアリングはスマートシティ計画などとあわせて、モビリティの未来を担うものとして、大いに期待されてきました。しかしながら、EVやPHEVといった車両の変化以上に、自動車保有の文化を変えるというこのコンセプトは決して順調に普及しているとは言えません。また、プラグイン車(EV・PHEV)を使用しないカーシェアリングについても、国内外で多くのサービスが開始されていますが、厳しい言い方ですが、まだまだ多くのサービスが単に少しだけ手続きが簡略化されたレンタカーに過ぎないというのが現状だと思います。
また数年前に、ドイツのカーシェアについて現地で話を聞く機会を得たのですが、カーシェアリング先進国といわれるドイツでも、開かれたビジネスではなく、一種の環境社会運動だからなんとか成立しているというのが私の率直な感想でした。

公共交通機関の発達した大都市を持つ日本や欧州では、クルマによる大気汚染、渋滞、騒音対策として、都市圏への自動車の乗り入れ制限や速度制限とセットでこのようなEVカーシェアプログラムの構想は、これから拡大していくことでしょう。
しかし、正直に言いますと、カーシェアリングについては、一部その構想の中に新たなモビリティの形態としてではなく、脱自動車への一段階となりうるのではという懸念を拭えないところもあります。また、これは一部EVについても当てはまるものです。
個人的には、そのような考え方のもとでは、このようなサービスがビジネスとして普及することはないと思っていますし、逆にビジネスとしては今までの自家用車の自由度を大きく下げることはなく、その上で自家用車にはない利便性や経済性などを付加したものではなけば市立しないと考えています。私も、クルマ屋として、この新たな自動車の形態については、これからも厳しく慎重に見続けていきたいと考えています。