セリカXXとスープラと5M-GEエンジン

9月 08 2011

私は、以前書いた通り、アメリカのマスキー法という厳しい排気規制に対応するクリーンエンジン開発を皮切りにさまざまなクリーンエンジン開発プロジェクトを担当しました。今回はその中で、印象深かったプロジェクトの一つの思い出を書こうかと思いま。そのエンジンは、マスキー規制後トヨタ初の上級スポーツ車用エンジン5M-GE、そしてそれを搭載したクルマが日本名セリカXX、アメリカ名スープラです。(リンクをクリックするとGAZOO内のページが開きます。)

規制をクリアしたスポーツエンジンを

クリーンエンジン開発といっても、エンジンだけの開発、そして排気ガスのクリーンン化だけを目的に研究開発を進めているわけではありません。エンジンをクルマの搭載した状態で、お客様の様々な使い方を想定し、実際に5年5万マイル(8万キロ)なり、現在のカリフォルニア規制では15年15万マイル(24万㎞)といった途方もない期間、距離を走行した後のクリーン度保障できるシステムを開発することがわれわれの役割です。世界中で使われるさまざまな燃料、オイルを使ってもクリーン耐久性を保障できるように、さらに、排気ガス性能だけではなく、燃費も、エンジン性能も、極低温のエンジン始動からエンジンにとって厳しい夏の高温状態での急坂登坂、ロッキー越えなどを空気の薄くなる高地の走行でのドライバビリティ、始動性としってといったエンジンがらみの車両品質項目まで、目標性能を達成できるエンジン構成、触媒、排気管といったエンジン諸元、その制御システム諸元を決めて量産設計担当に提案していくことを仕事としていました。

新しいエンジンを開発する場合には、まずはその素性が大切、最初の試作が出来上がり、エンジンだけで一通りの性能評価をすませるとすぐに従来のクルマを改造してそのエンジンを搭載し、クルマとしての評価を開始します。セリカXX(セリカダブルエックス)と言っても、知らない世代も増えてきていますが、1978年に発売したトヨタのスポーツカーです。それまでの4気筒エンジンのみのセリカから、アメリカへの輸出も意識し、排気量の大きな6気筒エンジンを搭載するため、エンジンルーム長くしたロングノーズ2ドアハッチバッククーペでした。

アメリカでは「X」という名称は映画等の指定などあまり良いイメージを喚起しないとのことから、XXをやめてスープラの名前で販売されました。日本でも3代目となる1986年発売のモデルからスープラの車名になりましたので、そちらの名であれば憶えておられる方も多いのではないかと思います。その2代目セリカXXに搭載されていたのが直列6気筒エンジンで排気量を2.8Lに拡大し、DOHCバルブレイアウトのスポーツ仕様にした5M-GEエンジンでした。

国内での5M-GE搭載は、1981年に発売し、第2回日本カーオブザイヤーを受賞したソアラに1982年の部分改良で搭載したのが最初でしたが、アメリカ向けのスープラとクレシーダ(日本名マークII)に搭載が計画されており、排気規制や燃費規制が厳しくクリーン度の長期耐久保障が求められるアメリカ向けのクリーンエンジン開発が先行して行われていました。われわれのエンジンチームでセリカXXを改造してその試作エンジンを搭載し、正式の試作車を作る前にクリーン度評価を目的に走り出しました。

自動車開発エンジニアの特権

排気規制強化の前には、トヨタでもセリカ1600GT、コロナマークII 2000GSSさらにはトヨタ2000GTなどスポーツエンジンを搭載したスポーツカーやスポーティーカーがありました。しかり、排気規制強化とその後の石油ショック後に導入された燃費規制により、このような高回転高出力、高い応答性も要求されるスポーツエンジンで、クリーン度と低燃費とその走行性能を両立させることが困難でその搭載を打ち切ってしまっていました。

そのような状況の中で、燃料噴射エンジンとそのマイコン制御化、触媒の性能向上など、クリーンエンジン技術がレベルアップし、スポーツエンジン復活を目指そうと再復活の第1陣が2T-GEエンジン搭載のカローラレビン、その第2陣がこの6気筒排気量2.8リッター5M-GEで当時の技術的には一番厳しいアメリカの排気規制に対応した高性能スポーツ車復活へのチャレンジプロジェクトでした。排気触媒などクリーンシステムフル装備で、ヤマハスペシャルチューンのトヨタ2000GT用エンジンの150馬力、コロナマークIIGSS用エンジンの145馬力を超える170馬力の高出力エンジンでした。

大抵は試作エンジンを搭載した最初手作り改造車が、そのターゲットとする生産車よりも良く走る車になるのが通例です。従来車の搭載エンジンに比べはるかに高性能なエンジンを搭載するわけですから走るのは当たり前、量産使用に仕上げていく段階で、その変速機もその出力、トルクを伝えるために補強が必要になり、シャシー、ブレーキ、タイヤ、ホイールもそれ相当の補強が必要になり車両重量が生産開始までに増えてしまいます。クルマの重量が増えると、さらに衝突安全上も補強が必要になり、さらに重量が増えるというパターンになり、これが最初の改造試作車が一番良く走ることになる理由です。

この5M-GE搭載の最初の改造セリカXXの走りがとにかく印象的でした。テストコース内の走行で200km/h近くで走れるクルマとしては、1960年代後半に300台ほどの限定販売をした6気筒2リッターの3Mエンジンを搭載したトヨタ2000GTがありましたが、それいらいの高速走行可能なクルマでした。試験の合間を見ては、そのクルマをテストコースに持ち出し、高速ドライブを楽しんでいました。

2000GT

トヨタ2000GT

様々なプロフェッショナルが、実際の経験を共有してこそ本当の開発ができる

エンジンレーシング時や急加速時のもたつき、息つき、またショックが大きい状態はエンジン燃焼が不完全で、クリーンではない証拠です。まず、エンジン本体の燃料噴射弁の位置と空気を吸い込む吸気ポートかたちなど、本体回りの最適化を行い、そのうえで噴射量や点火時期の制御プログラムを変えながらチューニングしていきます。このチューニング状況を確認すると称して、試験の合間を見ては、この改造車を持ち出し、テストコースの周回路や、サーキット路を走り回っていました。

その時に、車両の走行試験を行うテストドライバーに試乗してもらったときことが大変印象的でした。彼らも試験用として購入したヨーロッパのスポーツカーで、200km/h越の走行経験はいっぱいあり、またそのようなクルマでテストドライバーの腕を磨いていました。しかし、彼らにとっても実際のトヨタ車で200㎞/h走行を行ったのは2000GT以来、これでドイツのアウトバーン走行や高速カントリー走行の車両開発ができると非常に喜んでくれました。アウトバーンでの連続200km/h走行、ハイパワーを使う、様々な走行環境での走行など、クルマを走らせての評価ができる自前のエンジンがやっと手に入ったとの歓迎のコメントでした。

クルマあってのエンジン開発、エンジンあっての車両開発、それがクルマ開発の両輪であることをその時に痛感させられました。夢中にやってきたクリーンエンジン技術開発の取り組みが、5M-GEソアラ、セリカXX、スープラに繋がり、次にシリンダーあたり4つの吸排気弁、6気筒で計24個のバルブの1G-GE、その過給エンジン1G-GTE、セリカに搭載した3S-GE、その過給エンジン3S-GTE、1986年のスープラに搭載した7M-GEとその過給エンジン7M-GTEと、米国向けを中心にさまざまなスポーツ車向けのクリーンエンジン開発を担当してきました。この高性能エンジン開発が、クリーン、低燃費エンジン開発をけん引し、そのエンジンが、アメリカや欧州でも通用するクルマ開発に繋がったように感じています。

その頃は車両評価のテストドライバー、シャシー屋、ブレーキ屋、走安(走行安全性)屋、ドラビリ屋(車両ショック、もたつきなど車両としての運転フィーリング性能評価)のエンジニアたちと将来のクルマについての議論をし、そのクルマ用のエンジンの将来について話をしました。

その時の経験と実感から、どんなエンジン、どんなハイブリッドを担当しようが、常にクルマでの性能を意識して、さらにテストドライバーの指摘を理解し、自分で確認ができるようにやってきました。

開発時にも拘りを

ハイブリッドプリウスの開発でも車両での開発を常に意識しました。しかし、このときは5M-GE スープラの開発のときとは違って、なかなかクルマとしての評価ができるハイブリッドを提供できませんでした。なかなかまともに走れるクルマが出来てきませんので、シャシー、ブレーキ、ステアリングといった車両設計評価のスタッフ、さらにクルマ全体の仕上がりを評価し、チューニングしていく車両評価のスタッフやテストドライバーには大変苦労を掛けたと思います。クルマ開発の両輪、まともに走れるハイブリッドシステムを搭載するクルマを提供できなければ、クルマそのものの開発も進みません。

やっとまともな試験ができるようになったのは、生産開始の6カ月前、それから量産型電池が出来上がり、突貫工事でハイブリッドを仕上げたのが3カ月前でした。
次々とでてくる課題ごとのタスクフォースチームを結成し、常に車両での確認を判断基準として、超短期のハイブリッド開発を乗り切ることができました。プログラムのバグですら車両評価の中でテストドライバーや、クルマの評価スタッフが見つけ出したものも多くありました。

ハイブリッドが典型ですが、最近は制御が複雑、大規模になり、その開発作業、チューニング、デバッグをコンピューター上で行い、クルマでの評価、確認がなおざりになってきているように感じます。どんな大規模な制御系が必要なシステムであれ、クルマを安心、安全、クリーン、低燃費に走らせる機能の一部です。トヨタ車両開発の根幹は、車両軸の全体最適の視点で開発をリードする車両チーフエンジニア制度でした。

トヨタだけではなく、全体最適とそのなかでのチーフエンジニアの個性を感ずるクルマが少なくなった印象を受けます。エコの前に、クルマとしての全体最適、その上で走りとそのフィーリングでも欧州車に負けてなるものかといったクルマ屋としての拘りを感じられるハイブリッド車の出現を期待します。