レジオンドヌール勲章の授賞式

今朝、今年三度目のパリから羽田に帰国しました。今回はいつものビジネス出張とは少し色彩が違い、フランスの友人がレジオンドヌール勲章※を受勲したため、その受勲式とその後の祝賀パーティーへの出席のための渡欧でした。
※リンク先はフランス大使館の紹介ページ 

フランスの受勲パーティーの印象

会場は、パリのセーヌ川の北側、官庁街と大学街に隣接したサンジェルマンデュプレにある、フランス電力公社(EDF)の小さな博物館やこのようなイベントなどに使うホールや会議室がある迎賓館ビルの中のそれほど大きくはないフロアーで行われました。会場には250人ほどゲストが招かれ、その眼の前で勲章授与式があり、大統領の名代としてEDFの先々代の社長から勲章が手渡されました。
その後、授与者から授与理由、受勲者のキャリアの詳しい紹介、答礼スピーチと続き、それが終わるとシャンパンに始まりお祝いのパーティーです。勲章を授与し紹介をしたのは、その友人にとって入社当時の上司に当たる人だったそうです。

出席者は、大臣、国会議員、企業経営者、そして受勲者の友人達とそのご婦人達のようでした。出席者に大臣や代議士、財界の大物が含まれているせいか、会場周辺は警察や複数のSPが固めるものものしい雰囲気でしたが、中の受勲式そのものはスピーチの内容やその後のパーティー等でも堅苦しい所などなく、以外にカジュアルに行うのだなとの印象を受けました。

受勲したのはフランスでの自動車電動化の仕掛け人

今回、受勲を受けた友人は、何度かこのブログで紹介しているストラスブールでのプラグインプリウスのプロジェクトの仕掛人で、今から6年前、2006年にトヨタにトヨタハイブリッドベースのプラグインハイブリッドをやって欲しいともちかけてきたフランス電力公社(EDF)の当時の電気自動車事業部長その人です。現在は、この電気自動車事業部を含め、さらに広い領域のトップをつとめており、新しい交通システム網構築に熱心なストラスブール市長が彼の大親友であることから、プラグインプリウスを使って世界各地で実施するプラグインハイブリッド大規模実証プロジェクトのフランスでの展開拠点として、市長とフランス政府の支援をとりつけ、クレベールプロジェクトを仕立て上げました。

受勲理由の一つとしても、エネルギー・環境分野の重点政策となったプラグイン自動車普及政策の具体化にいち早く取り組んだこと等があげられ、この受賞式への私の出席とともにモナコでの最初の話し合いのエピソードが紹介されたことに感激しました。さらに答礼スピーチでも、そのモナコでの出会いと将来自動車としてのプラグイン化を語り合いストラスブールでのプロジェクトに結実したことを、一緒にこれに携わってきたフランスのトヨタ事務所長とともに紹介され、日本後で感謝の言葉を述べてくれました。

もちろん、フランスの国家政策としての自動車電動化推進であり、当然ながらフランス国営企業である電力公社ですから今ではトヨタとのプラグインハイブリッドプロジェクトだけではなく、ルノー/日産、プジョー/シトロエンー三菱i-MiEVとの電気自動車プロジェクトにも共同パートナーとして取り組んでいます。そのフランス籍の会社をさておいてエネルギー/環境政策の取り組みとしてトヨタとのアライアンスだけを紹介してくれたことも、そのオリジナルを一番大切にするとの欧米の人たちの根っこの考え方に触れる思いをしました。

このエピソード紹介は、自慢話として紹介している訳ではありません。トヨタハイブリッドを自動車電動化スタートのオリジナルとして評価をしてくれ、さらにその開発に携わった私とのモナコで出会い、そのそもそものトヨタへのコンタクトから現在に至まで、トヨタの現地フランスの代表と私の二人がこの叙勲式に招待されたことを合わせ、国家政策に大きく関わり、さらに大組織間の提携プロジェクトであっても、あくまでもそのオリジナルを大切にするとの彼らの根本思想として紹介したかったからです。

日本人はそこまで、オリジナルを大切にするでしょうか? この思想の根っことして、オリジナルを大切にし、さらにそのオリジナルに取り組んだリーダーとしてその責任を全うした結果を評価するとの彼らの思想のように思えます。

それは、小さなプロジェクトから国家政策にまで関わるところまで、そのオリジナルとともに、その実現のための責任をも徹底的に追求していくことにも通ずるように感じます。もちろん、国民全ての思想と言うつもりはありません。国をリードし、社会をリードし、科学技術をリードし、産業をリードしようと意識しているほんの一握りの人たちの考え方だと思います。

国を率いる人間のプライドと矜持について

フランス電力公社のトップたちも、この国を動かしている一握りの国家公務員であることを思い知らされます。国のため、人民のため、もちろんその背景としてオリジナルな個人として国に対する、人民に対する責任を全うし、その結果として満足とその高い地位、その犠牲の対価としての国家公務員に重い叙勲制度だと思います。業績紹介にも、国家、人民への貢献が何度も強調され、たとへば、EDFの社会貢献活動として障害者ファンドを設立に関わり、運営支援に力を尽くしたことのエピソード紹介と車いすののったその団体からのゲスト紹介が続けられるといった具合です。

この勲章の歴史、その意味を知ると、この考え方が理解できるように思います。
フランス革命後、皇帝ナポレオンが革命後とぎれていた王制時代の叙勲制度を復活させたことが、このレジオンドヌール勲章の由来ですが、王制時代のその勲章の意味は、国と王に命を賭して忠誠を誓う騎士団幹部(オルドル)に認定された証として与えるナイト称号にあるようです。共和制になり、国と、王の代わりとして人民に対する献身、その責任を担うことを誓うことが、この叙勲式の意味のようです。今回の叙勲のシュバリエ章は、日本語約として「騎士・勲爵士」の意味で、まさに軍隊の将校階級の沿った等級が付けられています。(Wikipedia

この思想との対比として今の日本はどうでしょうか? 今の首相、大臣、与党、野党を問わず、またエリート官僚たちのどれくらいが、国のため、国民のためにその重い責任を自覚して取り組んでいるでしょうか? もちろん、欧米の叙勲者達がすべて国のため、国民のため命を賭してやっているとは思いませし、賛否もあるようですが、フランスの少数エリート育成のグランゼコール出身者にたたき込まれる、国家、人民への貢献の考え方には、フランス語が語源の「ノブレス・オブリージュ」ウィキペディアの直訳では「高貴さは(義務を)強制する」に通ずるものがまだ残っているように思います。

帰国をすると、国会での不信任案否決騒ぎ、首相を含め政治家の誰一人として「ノブレス・オブリージュ」のかけらも感じられない状況に愕然とするばかりです。この大震災、その後の原発事故、国をあげ、国民力を合わせてその復旧、復興、沈静化と、原発事故の教訓をフィードバックさせたエネルギーシナリオの見直し、成長戦略など、短期的にも長期的にもやらねばならないことが山積している、まさに国難であることは確かでしょう。

震災前でも、このところの日本の地盤沈下を感じていました。自動車でも韓国、中国勢の勢いに比べ、日本勢に一時の勢いがありません。日本が生み出した、ハイブリッド、電気自動車への評価はまだまだ高いものの、すでにこの分野ですら日本パッシングがどんどん進んできているように感じます。これまでも、政治には多くを期待してきませんでしたが、エネルギー・地球環境問題でリーダシップを発揮するにしても、政治のこの体たらく、幼稚さが、科学技術、もの作り技術、現場力の足まで引っ張っているというのが実感です。

今こそ、スタンドプレーではなく、国、国民のために命を賭し、寝食を忘れ取り組む、政治家、お役人の出現を祈るしかないことが残念でなりません。

パーティーでも、日本を心配する声、同情をいろいろ言っていただけました。あまりにも生々しく、またフランスとしての影響をもろの受けるEDF幹部が多く出席するパーティーのためか、原発事故の話題はでませんでしたが、この事態の早い沈静化と、この事故を教訓とする国際的な安全指針の見直しを行い、安全性を確保したうえで、原発を使い続けることを望んでいることは確かです。