サステーナブル社会と次世代自動車

5月 26 2011

自動車技術会の春季大会を訪問して

今回のタイトルは、先週横浜の港みらい“パシフィコ横浜“で開催された、日本自動車技術会春季講演会の特別フォーラムのテーマから頂きました。日本自動車技術会(自技会)は、自動車関連の会社、エンジニア、研究者が参加する学会です。私自身は自動車の開発そのものに熱中するあまり、熱心な学会活動はできてはいませんでしたが、初代プリウスの開発では発売の翌年にあたる1998年のこの春季大会で技術開発賞をいただき、そんな自分もエンジニアとしてこの国の自動車技術に貢献できたのだと実感したことを思い出します。

さて、先週に久しぶりに春季大会に顔を出し、旧交を温めるとともに、午後の13時から夕方の17時30分までみっちりと計画された、講演とパネルディスカッションを聴講しました。まさにエネルギーと環境、それに対応する自動車技術とそれを推進する産業政策、その背景となるエネルギー需給動向、電気自動車とそのコア技術である電池動向、それに欠かせないレアアース、レアメタルの資源問題と、盛りだくさんの内容でした。

日本の自動車戦略は有効に機能しているのだろうか?

現在、日本の成長戦略としては、昨年6月閣議決された“新成長戦略 ~ 「元気な日本」復活のシナリオ ~ ”のなかで、日本の強みを生かす成長分野のトップとして、『グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略』が取り上げられています。そこでは、「世界最高の技術」を生かして、

(総合的な政策パッケージにより世界ナンバーワンの環境・エネルギー大国へ)
(グリーン・イノベーションによる成長とそれを支える資源確保の推進)

との文言が掲げられています。
日本新成長戦略(http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/)

このグリーン・イノベーションの対象、成長を期待するコア分野として、「次世代自動車技術」がとりあげられ、これも昨年6月経産省が企画し、官・学・財の有識者の委員会活動として纏められた「次世代自動車戦略2010」が発表されました。
「次世代自動車戦略2010」(http://www.meti.go.jp/press/20100412002/20100412002.html)

今回のフォーラムでも、最初に経産省自動車課の方からこの「次世代自動車戦略2010」シナリオに沿った説明があり、前述のさまざまなテーマのプレゼがあり、最後に全体のパネルディスカッションでの締めとの企画でした。

「次世代自動車戦略2010」シナリオで提示されている普及予測と政府目標は次ぎのように示されています

民間努力ケース

2020年~2030年の乗用車ジャンル別普及見通し(民間努力ケース)

政府目標

2020年~2030年の乗用車ジャンル別普及目標(政府目標)

「次世代自動車戦略2010」シナリオも、2009年10月の国連総会と2009年12月デンマークで開催されたCOP15でぶち上げ、参加各国の喝采を得てと言われている日本の温暖化ガス削減目標1990年比2020年25%削減を意識したものと思われます。

また戦略として次ぎの6つが示されています。

6つの戦略

6つの戦略

今回の議論は、大震災前に企画されたもので、講演内容も全てが震災前のシナリオとストーリーに則ったものでした。しかしこの大震災は、日本のエネルギー戦略が大きく揺つがし、さらに自動車業界に対しては生産のサプライチェーンを寸断し長期にわたる自動車生産の縮小に追い込みました。厳しい見方をすれば、次世代車の研究・開発拠点、さらに生産拠点としての位置づけすら危うくなってきているように思えるのが現状です。実際、今回の議論でも、日本がこの先進次世代自動車のマザー工場のポジションを獲得できるのか?との声もあがっていました。

一方東シナ海を隔てた中国ではでは、今週も新タイプのリチウムイオン電池のフォーラムが開催され、世界からその関連の企業、エンジニアが集まり活発な議論が行われたようです。自動車用リチウムイオン電池の開発および生産分野での、また電池メーカー、材料メーカー、自動車メーカー間の合従連衡の動きは枚挙に暇がなく、多くは国策を伴ったものです。ですがそうした動きのニュースの発信元は米国、欧州、中国、韓国のもので、大規模な合従連衡の動きの中での日本勢のプレゼンスは正直言ってしまうとかなり低いと言わざるを得ません。

日本勢は各々、やるべきことはしっかりやっていると発言し、メディアもそう伝えていますが、外と内とのダイナミズムの違いは歴然としているように感じられてなりません。

自動車の世界市場は激しく動いている

例えば、先週も、ドイツからは脱原子力の動きとエレクトロ・モビリティ政策発表のレポートが飛び込んできました。また5月上旬に出張したフランスでは、今年スタートのフランス・ドイツ・Eモビリティデモンストレーションプロジェクトやニースで今年スタートしたEVカーシェアプロジェクト、さらにはパリ市が自転車大規模共同利用プロジェクトに倣ってスタートを決めたEVカーシェアプロジェクト、はたまたフランスとしてのE-モビリティ政策やその中での充電インフラ標準化活動など、目の回るほど多くの取り組みの紹介を受けました。

もちろん、このような取り組みも、日本勢を抜きにして行われているものではなく、クルマそのものはまだまだ日本勢に一日の長があり、これらのプロジェクトにも、バッジを変えた日本のEVや日本技術のEVが参加しています。ドイツ勢のEVは未だ従来車の改造EVの域を出ないもので、デモ走行でもいくつかの品質問題もあったようですが、とはいえ、まもなくプラグインハイブリッド車やEV専用車の本格導入が始まるようです。今年のジュネーブモーターショーのEV車展示では、この欧州Eモビリティプロジェクトにドイツの電力会社と組んで中国BYD社がEVデモテストに参加すると発表し、またインドのタタモータース社がイギリス開発拠点で開発中のEV社をロンドンで行うE モビリティプロジェクトの対象車に選ばれたとの報道もあり、この面でも日本勢はうかうかできません。

この動きの中で、電池とともに、情報通信ネット活用のシステム戦略、このネット活用とリンクする国際標準化戦略も日本がうかうかできず、システムセットの輸出どころか、「ガラパゴス化」が心配です。

公開討論のフォーラムですから、技術開発競争のまっただ中にあるこの分野のホットな議論を期待していた訳ではありませんが、それでも危機感の表明や将来戦略について活発な議論がなかったことが気がかりです。

世界が望む自動車を日本から出す以外に将来自動車戦略はない

「次世代自動車戦略2010」シナリオにも触れられていますが、2020年までには、今販売しているクルマの大きなモデルチェンジは1回~2回、その中で、次世代自動車のこの目標に掲げたジャンルへの切り替えは至難の業、さらに、クルマの保有年数はだんだん長くなり、仮にこの政府目標の最大に近い次世代車の販売代数に達したとしても、乗用車だけを対象にしても石油燃料消費量-25%削減の目標にはほど遠い状況でしょう。

仮に、電気自動車やプラグインハイブリッド車が、この政府目標通りの販売シェアを占めたとしても、そこで使う電力のCO2は、今回の福島原発事故の余波もあり、昨年レベルからの低下はまず期待はできないと思います。このシナリオにも原発に変る低カーボン電力の供給と自動車用向けの電力供給シナリオとセットの見直しが必至です。

さらに、ピークオイル論、今回のフォーラムでは、石油産業サイドのプレゼンテーターと自動車会社OBのプレゼンテーターとの間で、まだ石油資源は40年以上もありそれほど心配はないとの意見と、2020年までの間にも石油供給能力のピークを迎え、第3次石油ショックに備えるべきとの意見の間で興味深い議論が交わされました。

日本の成長戦略として、この先も『グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略』をコアとして、システムイノベーションを含む、広い意味でのもの作り技術でのリードで合って欲しいもの、昔も、今も、政治・外交に期待してもしょうがありませんから、やはりこの次世代自動車でのリードも、実際のクルマとして、システム商品として、また国際標準/規格化もユーザーが納得し満足できる商品として、そのシステムとしてリードすることが大切です。

先週のブログ「PHVに未来あり」で述べましたが、電気自動車どころか、PHVすらユーザーの納得する商品としては、その価格だけではなく、性能も、使い勝手もまだまだ、“環境自動車だから”の言い訳がついて回るレベル、「未来を現実」にする努力と知恵が必要です。

世界の自動車ユーザーがサプライズして満足するような次世代自動車を提供すること、その自動車技術を創出することを日本の自動車エンジニアに期待しています。