欧州公共交通事情と将来モビリティ

4月 28 2011

先週、私はお休みをし、息子が「モビリティ考」なるブログを書かせてもらいました。
今週は私がこの「モビリティ考」を引き取って、最近ちょくちょく出かけている欧州の公共交通事情と、それを踏まえての将来モビリティについて意見を述べたいと思います。

欧州の都市交通のいま

フランス・ストラスブールでのプラグイン・プリウス実証プロジェクトもあり、またエネルギー・環境問題の講演会で欧州からお呼びがかかることが多く、このところ欧州出張の機会が増えています。それほどいろいろな国、都市を回っているわけではありませんが、出張の折には、鉄道、トラム、地下鉄など公共交通網がどのように整備されてきているかに興味があり、自分で乗ってみたり、関係者に話を聞かせてもらったりしています。

自家用自動車から公共交通機関や自転車などへ、エネルギー消費削減、CO2排出削減のためモーダルシフトを進めようとの声も多く聴くようになってきました。その中で、路面電車の復活、自転車の活用、さらにはロンドンなどのクルマの市中心部への乗り入れに対し、高額な乗り入れ税をかけるなど、自動車の使用を削減する方向で動いていると報道されています。また、ユーロスター、TGV、タリス、ICEなど高速交通網も急ピッチで進められています。

日本から、トヨタの欧州拠点のあるベルギー・ブリュッセルに行く場合も、またストラスブールに行くときも、パリ・シャルルドゴール空港に乗り入れているタリスやTGVを使い、乗り換えの時間を考慮すると同じくらいの時間で市内の中心部まで行くことができます。
またストラスブールを代表として、低床のスタイリッシュな今風の路面電車(ライト・レール・トラム:LRT)網を整備し、また国鉄駅への乗り入れ、そのターミナルを拠点としたパークアンドライド、もちろん自転車の持ち込みOK、さらにグループ割引、パークアンドライドの割引定期券など、都市への自動車乗り入れの制限とともに、トラム利用の利便性を高め、合わせ技としてモーダルシフトを進めようとしている都市が増えています。

多様な公共交通を使用するスイス

ストラスブールからライン川を渡り北へ約100km、ドイツのカールスルーエという学園都市があります。ここもトラム網を再整備、パークアンドライドにも力を入れているということで、数年前に市の交通局を訪ね、いろいろ話を聞かせてもらい、また実際にトラムにも乗って郊外まで行ってみました。ここも人口は28万と規模的に中規模都市ですが、複数の路線を持ち、一部はドイツ国鉄の近郊路線にも乗り入れています。

トラムを残し、また復活させた都市は、欧州には一杯あり、今回出張したスイスでもジュネーブ、ベルンとトラム網が整備され、時計産業の中心であるヌーシャテル州の州都ヌーシャテルなどでは急坂路の多いスイスのせいかトラムではなくトロリーバスや、トンネルを掘って作ったケーブルカーが便利な足として使われていました。

スイスでは、スイス国鉄の旅行者用パスを買うと、スイス国鉄だけではなく、このような都市部のトラム、トロリー、ケーブル、バスに乗ることもできます。また、2カ所のホテルに滞在しましたが、そのどちらも市内のトロリーやケーブルの無料券が用意されていました。

どのようにして公共交通が残されているのだろうか?

このように、欧州ではモーダルシフトに積極的に取り組み、その中心として路面電車の復活、再開発が進んでいる印象です。また、TGVやICEが走る高速鉄道網だけではなく、ローカル鉄道網も日本に比べまだまだしっかり残っている印象です。日本のようにどんどん廃線に追い込まれている印象もあまりありません。

なぜそうなのか、また十分に判っていませんが、独立採算では成立しないことは確かです。カールスルーエ市の交通局のスタッフの話では、トラム網の運営として運賃収入は30%程度、残りは国や地方自治体からの補助のようなことを言っていました。欧州はおしなべて税負担が大きいですが、回り回って、このような社会インフラを支えているようにも感じています。もちろん、乗り入れ税や都心部の駐車料は日本並みに高いなど、クルマの市内乗り入れが経済的にも不利になるようにも設定されています。

このような都市はモーダルシフトの模範生として、日本でも紹介されています。また、このような中規模都市の割には、日本のようなシャッター商店街といった感じは少なく、中心街は欧州特有の広場を中心にショッピング街がしっかり残っており、郊外の大規模ショッピングセンターは日本ほど目立たず、便利に公共交通機関を使って中心部に買い物に行けることも、シャッター化を防ぎ、待ちとしての活力をキープしているように感じます。

でも、欧州では車離れはしていない?

しかし、郊外にでると、高速道路網は日本以上に整備され、特にドイツでは速度無制限のアウトバーンを使い快適に長距離ドライブができます。また郊外路も市街地を除くと80km/hぐらいのスピードで飛ばすことができ、もちろん高速は殆ど無料、全体としてクルマ離れがおきている印象はありません。パリ、やジュネーブのモーターショーの印象でも若者のクルマに対する熱い視線は日本以上に感じます。

また、講演会やパーティーなどの話でも、エネルギー、環境も大事、されど、人の移動する自由を放棄するつもりはないよ、との意見が日本以上に多い感じがします。ストラスブールでも、カールスルーエ、ストックホルム、パリでも、もちろん一部には環境命の方々もおられますが、クルマとの共存、その中でもグリーン自動車への期待、それを活用した“個人の自由な移動”は担保する、モーダルシフトと新モビリティ待望論に賛同が得られることにクルマ屋として安心します。

欧州では、公共交通網の整備が進み、モーダルシフトも進んでいるとの印象と、日本ほどはクルマ離れが進んでいないとの印象にギャップを感じてきましたが、先週で尚史が紹介した、EU、アメリカ、日本の旅客および貨物の輸送距離データをみて、そのギャップを埋めるヒントが貰えたように思いました。

旅客輸送のデータからは、その三つの地域のうち、ダントツに自動車依存度が低いのは日本、先進国の中でクルマ依存度が低いとの結果です。公共交通機関の利用割合を見ると、バスも鉄道、トラム+地下鉄もいずれも日本の利用比率が一番大きく、公共交通整備が一番進んでいるようにも見えます。
これを、1997年の人口を調べるのは面倒なので、手元にあった2008年の人口、EU圏5億、アメリカ3.1億、日本1.3億で割ってみると、一人当たりの年間輸送距離となりますが、日本と欧州が約1万人・km/年、アメリカがその倍の2.2万人・km/年とアメリカ人が圧倒的によく移動するとの結果になっています。

日本の鉄道比率が圧倒的に高いのは、これは東海道・山陽新幹線の輸送力や大都市圏のJR網、私鉄網の影響が大きく、またトラム+地下鉄比率の高いのも同様、首都圏、名古屋圏、関西圏といった人口の集中した大都市圏の充実した公共交通網の結果が、このようなデータとなったように思います。ギャップの理由が理解できましたが、この都市かの進行、さらに首都圏の一極集中によるモーダルシフト、それによる省エネ、CO2削減が目指すべき方向とは到底思えません。

排斥ではなく共存の考えを

欧州でも大都市への人口集中は進んでいますが、日本ほどではなく、中規模の地方都市がシャッター化を招かずにしっかり残り、そこを中心としてクルマとの共存を図るかたちで公共交通網の整備、その上でのモーダルシフトを目指しているように感じます。

確かに、日本の地方都市では鉄道、路面電車、バスといった公共交通機関がどんどん廃れ、クルマでなければ行かれたい郊外型のショッピングセンターがどんどんでき、都市部が寂れてきて、シャッター商店街化してきているのが現実、もちろんモータリゼーションの拡大も大きな要因ではありますが、人口の大都市集中の一方、また独立採算性重視のあまり、地方の公共交通網が毀損していったこともこの要因ではないでしょうか?

魅力ある地方都市再生、いわゆるコンパクトシティ作りではありますが、首都圏への一極集中をさけ、クルマとも共存を図る新しい公共交通網と「モビリティ」のありかたを考えて行きたいと思います。

“Freedom of Travel” “Freedom of Mobility”