原発事故とプラグイン自動車の行方

4月 07 2011

原子力発電のこれまで

東日本大震災発生から3週間が過ぎようとしています。新聞やTVで報道される、この大震災の死者と行方不明の数字もやっとその増加が少なくなってきました。被災地での復興作業のニュースにも日本人の頑張りや団結力の強さを感じさせるもの、また次ぎを担う若者達の真剣な支援活動などが紹介され、少しずつ先に明るさが見えてきたように感じます。

しかし、福島原発事故だけは余分、日本の原子力安全神話がこれほど脆くも崩れ去るとは思ってもいませんでした。正直に言えば、わたしも日本の原子安全神話を信じていた一人でした。地震多発国で唯一の原爆被害国、その上でエネルギー資源のほとんどを輸入に依存するこの日本で、原子力平和利用としての原子力発電設置およびそのオペレーションには、念には念、もちろんヒューマンエラーの排除は当然として、自然災害に対してもその想定基準は万全には万全を期しているのは当然と思っていました。

まったなしに迫ってくるポスト石油時代の自動車用エネルギー源として、中長期的には電力会社から供給される低カーボン電力がその最有力な代替エネルギー手段であり、ハイブリッド普及により石油消費を減らしながら、Liイオン電池の進化を進め、その電池の賢い使い方で、さらに石油消費を減らし、それをバイオ燃料や合成燃料に置き換えていくとのシナリオを描いていましたが、今回の原発事故でそのシナリオが大きく崩れてしまいました。

今回の事故が世界へ与えたインパクトもまた大きいものです。この震災は、アメリカも中国も原子力発電を低カーボン発電の切り札の一つとしてそれを推進し、一時は原発廃止を決定したスウェーデンやドイツでも、最近では低カーボン化の動きの中でその見直しに動き出した矢先のこの事故です。これらの国々では、今回の事故を受けて原子力政策の再度の見直し圧力が急速に高まっています。

日本に目を戻せば、経済に致命的な打撃を与える計画停電を迅速に食い止めるため、タービンを含む火力による発電量を増やすのが大前提となり、一昨年に当時の鳩山首相が大見得を切った2020年温暖化ガス25%削減シナリオどころか、初代プリウスを発売した1997年12月に開催された気候変動枠組み条約第3回締結国会議(COP3、京都会議)で制定された京都議定書での温暖化ガス削減目標の達成も、この原発事故で達成困難になってきました。日本だけではなく、グローバルでの地球温暖化緩和シナリオへの影響も甚大です。欧州のCO2排出権取引マーケットでは、その取引価格上昇がおきています。

見直しを迫られるエネルギー戦略

今は、この福島原発事故のこれ以上の深刻化防止と放射能流出の防止、出来るだけ早い避難解除を祈るのみですが、将来のエネルギーシナリオ、低カーボンシナリオとして原発をどうするのか、犯人捜しではなく、なぜこのような事故に至ったのか、開発時の想定条件からどこがどう狂ったのか、操業開始後にも環太平洋周辺部でおきた様々な大地震、津波災害、直近では2004年12月のスマトラ沖地震、また過去の地震、津波災害の調査がどのように安全設計に反映されたのかなど、そのディシジョンプロセスを明らかにし、情報公開の上、オープンな議論が必要です。

もちろん、安全性に関しては経済性からの妥協はあり得ません。

もともと日本の電力供給計画、またそれをベースにしたエネルギー計画において、原子力の活用はその中心のもとして据えられていました。低カーボンで安定的に電力を発生させる原子力発電を緩やかに拡大してそれをベース電力源として、カーボン排出量の大きい火力発電を様々な手段で代替えしていくというのが震災前においては主流な考え方でした。

電力会社からの電力を使う、プラグイン自動車もその有力なオプションの一つです。その電力利用の前提には、発電力の調整が苦手な原子力発電を増やすと今よりもあまる深夜電力をこの充電に使おうとの狙いもあったようです。電力会社としても、プラグイン自動車の拡大での発電需要の増大による火力発電の増強は好ましくなく、原発拡大による深夜電力有効利用の手段としてプラグイン自動車とくにバッテリー電気自動車普及の後押しをしていたと思います。

図は2009年に独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のHPに乗っていた、2007年夏、消費電力がピーク記録した日の、一日24時間の発電電力Mixです。平均として約30%が原子力発電ですが、電力需要が下がる夜間はさらに原子力発電の比率が高くなっています。このベースの原子力発電を増強拡大しようとのシナリオでした。しかしこのシナリオは、この事故によって完全に崩壊したと言っても過言ではないでしょう。
バッテリー電気自動車やプラグインハイブリッド自動車も、夜間充電による増設する低カーボン原子力発電の使用を前提とする以上、見直しが必要です。


出典:http://www.nedo.go.jp/informations/events/190205_2/siryo3-4.pdf

将来のポスト石油、低カーボン社会に向かっては、何度も述べてきているように、今のクルマに置き換わり、その用途を完全にカバーでき、普及拡大していくことが重要であり、そこで使う電力も原子力をあてに出来なくなっても低カーボンが必要条件となります。しかし、太陽光、風力、地熱では力不足であることは明らかです。

だからと言って、一部原子力関係者が言い出しているように、このまま原子力に戻るしかないとのシナリオでは国民の、さらに世界の賛同が得られる状況ではありません。

大震災から感じたエネルギーインフラと将来自動車の行方

今回の大震災では、エネルギーインフラとして、電力に集中することが危険であることも明らかになり、また石油供給インフラも過度な集中化と物流のボトルネックがあることも露呈しました。石油燃料供給にボトルネックがあったものの、当たり前の話ですがガソリン、軽油を給油できると、最初に復旧していった道路を使い、被災地への人、物の移動をクルマで行うことが出来ています。やはり、自動車は将来も電気への一極集中ではなく、ゆくゆくはバイオか合成燃料への変換が迫られるでしょうが、液体燃料供給インフラも維持していくことが重要と感じました。

太陽光、風力、地熱、バイオ、それを使った再生可能低カーボン電力、第2/第3世代のバイオ燃料、再生可能エネルギーを使った水素、有りとあらゆる方向からのシナリオ見直しが迫られていることは確かです。今の時点では、ウルトラCの名案は浮かびませんが、何でもかんでもグローバルマーケット主義、科学技術至上主義で過去を振り捨てて突っ走ってきたやり方を見直す時期のようにも感じます。

科学技術フィールドに長く身を置いた一人として、今回の原発事故が科学技術至上主義の結果、科学技術の暴走と言われることが残念です。科学技術の暴走ではなく、結局はそうさせた、政治、経営判断など人の問題に帰結すると思っています。もちろん、その判断に流されてしまった科学者、技術者もその責任から免れないことはたしかです。

この自然災害が多い日本で、安心、安全な社会作りを進めるためには、それでも科学技術の発展が必要不可欠です。最新の科学技術を使いこなすもの人、紙の上、机の上ではない現地、現物、現象ベースの人智の結集、それを支援する科学技術、その知見をベースとする、政治、経済ディシジョンが重要と思います。科学技術に携わってきた一員として、現場視点、人間重視の科学技術発展を後押ししていきたいと願いっています。

この震災、被災地の連絡車、救援車、さらにはボランティアの派遣車として、低燃費でフルタンクでの航続距離が長いプリウスが活躍したとの話を聞かされました。航続距離1000km、途中のガス欠を心配しないで人、荷物の配送ができたと喜ばれたそうです。

次ぎの自動車として、今取り組むことは、ウルトラCの前に地道な効率向上、車両軽量化などオーソドックスなことの積み重ねからのような気もします。エンジンの効率を高めるとハイブリッドの燃費も向上します。従来エンジンも、さらにそれを使ったハイブリッドもまだまだ効率向上、性能向上の余地があります。また、様々なエンジン、クルマのカテゴリへの展開もこれからです。プラグイン自動車用の前に、ハイブリッド車用としてのリチウム電池にも低燃費、効率向上、性能向上が期待できます。

従来技術の改良に着実に取り組みながら、バイオ燃料、合成燃料、水素、さらには低カーボン電力利用の可能性を、安心、安全社会の社会インフラの観点も入れて見直していくなかから、何か見えてくるのではと期待しています。