2010パリモーターショー 詳細感想

EVを中心に据えるフランスメーカー

1週の間を置いてしまいましたが、先々週に引き続いてパリモーターショーの感想をお伝えします。その回のブログでは、今回の主題であった筈の、クルマが持続可能なモビリティへの大変革期を迎え、将来どのような姿に変わっていくかということへの回答を、多くのメーカーから感ずることができなくてがっかりしたと書きました。しかしその中にあって、自動車メーカーで唯一、明確に将来は電気自動車と強く発信したのがルノー/日産のゾーンでした。その発信人は言わずと知れたMr. Gohns(ゴーンさん)であり、プレスデーの9月30日には、ルノーゾーンの中心に置かれた真っ赤なスーパースポーツEVプロトの前で、大見得を切り、フランスのTVではその映像がこのモーターショーのハイライトとして流されていました。

Renault EV スポーツコンセプト

Renault EV スポーツコンセプト

また、このルノー/日産ゾーンが隣り合わせのブースで展示していたパビリオン1では、その向かい合わせにプジョー/シトロエンのブースとフランス勢が大きなスペースを占めており、そこでもそれぞれカラーリングを変えたスーパースポーツEVプロトが中心部分に展示され、さらにカラーリングとバッジを変えたアイミーブを数台ずつ展示されるなど、フランスとして将来は電気自動車の流れをアピールしているように感じました。EVスポーツでは、BMWのプロトや、すでに販売をしているアメリカのテスラ-モータ他、いくつかのベンチャー企業からも展示されていました。

2年前から変わったこと、次世代自動車の流行りすたり

またこのパビリオン1に隣接するパビリオン2は代替エネルギー車関連の団体や企業の展示ゾーンと、電気自動車の試乗コーナーが設けられていました。ここには、さまざまな手作りに近い改造車やゴルフカートベースのような小型電気自動車が所狭しとばかりに、展示されていました。前回の2008年にもこのうちのいくつかのEVをすでに展示販売していた印象ですが、気になったのは当時はこのEV以外でもバイオ燃料製造企業ブースや代替燃料自動車を展示するブースが目に付いたのですが、二年後の今回はその展示がほとんど姿を消していたことです。同様に、一時期ブームであった燃料電池自動車の展示も、ホンダ、ベンツなどに限られ、またその展示自体も地味なものになっていたことにも、時代の移り変わりの速さを感じました。この次世代環境自動車開発競争のまっただ中で過ごした当事者としては、こんどのEVブームの先行きをこれらが暗示しているのではないかとの思いを抱かせるものでした。 

EV Commuter の例 その1

EV Commuter の例 その1


EV Commuter の例 その2

EV Commuter の例 その2

果たしてEVで『決定』なのか?

はたして2年後、5年後にもこのEVへの流れは続いていくのでしょうか?正直に申しあげると、今のリチウム電池を改良するレベルでは、今の個人用、営業用、貨物輸送用、乗客輸送用を含む多くの自動車をEVに置き換え、ガソリンや軽油などから発電電力エネルギーに転換し、ポスト石油燃料とさらに地球温暖化の抑制をめざす低カーボン化への流れを作ることは極めて困難と私は考えます。とはいえ、全てのEV化を悲観的に考えている訳ではありません。もちろん、ハイブリッドプリウスで先鞭を切った自動車の電動化は今でも必然と考えています。EVの使い方として、電力会社のサービスカー、郵便配送車、さらには荷物の宅配車など都市内でいつも決まり切ったショートトリップの用途だけに使い、常に充電できる一定の駐車ポイントに戻ってくるようなクルマの用途では、経済的にペイするようになるならば、普及が見込めるかもしれないと、私が技術アドバイザーを勤めているフランス電力公社の役員と彼らの展示ブースで話しをしました。しかし、今の自動車保有台数の大部分を占めている個人用自動車の用途をEVに置き換えていくには、今のリチウム電池の延長にある技術のレベルでは極めて困難ですし、本当にお題目となっている脱石油、地球温暖化緩和への効果を求めるのであれば、クルマの用途の大多数を占めるこのジャンルのクルマを低燃費、低カーボンのものに置き換えて行かなければいけないのは自明のことです。とはいえ環境保全のためといえどもお客様に我慢を強いるようでは、また割高なものでは普及の加速はできません。多額の補助金が貰えたとしても、その間にコスト低減を行い、補助金が廃止されても収益を上げられるレベルにできなければ、正常な企業活動の中では販売し続ける訳にはいきません。さらに、環境保全のための法規制で購入を義務づけても、我慢のクルマ、割高のクルマでは、従来車を持ち続け、マーケットの縮小を招くことは、過去の経験からも明かです。脱石油、低カーボンはグローバルな要請であり、自動車メーカーがこの要請に応えたクルマを提案し、提供できなくては、法規制強化を避けることはできません。

今回のパリモーターショーでは、今の個人用乗用車の将来の姿として、環境保全だけではなく、魅力あるクルマへの進化を提示してくれるクルマに出会うことを期待していました。先々週のブログで述べたように、スーパースポーツEVの展示は、それなりの見物客で混み合っていましたが、それ以外の電気自動車では、一般公開日の初日、二日目の土日にも関わらず、その前でしっかりと展示者の写真を撮影し、ゆっくりと説明パネルを読めるぐらいの状況で、さらに中小電気自動車ベンチャー企業の展示コーナーに立ち寄る見学者はそれほど多くは無かった印象です。このトヨタを含む様々な大手自動車メーカーのEV、中小ベンチャーのEVの中に、将来自動車としてのメッセージを感ずるものは残念ながらありませんでした。

電池の搭載方法からもそのクルマの思想は解かる

Renault 「Fluence z,e」 電池とトランク

Renault 「Fluence z,e」電池とトランク

また、それを支える技術展示においても、例えばLiイオン電池に関する実装についても、目新しいものはありませんでした。今回数多く展示されていたEVの多くよりも小型で小容量の電池を搭載していた初代プリウスにおいても、その搭載に苦労をし、トランクスペースを犠牲にしてリアシートの後ろに搭載せざるを得ませんでした。しかしこれでは、いろいろな状況で、人を運び、荷物を運ぶ、乗用車としてはお客様に我慢を強いる一つの要素となります。そこで、発売と同時にこの問題を解決する新型電池の開発に着手をし、初代の単一丸形電池から、全く新しい角形電池を開発し、コンパクト化、軽量化、さらにコスト低減を果たし、2年半後の2000年にはその新型電池に切り替えていきました。このような経験からも、EV車の電池スペック、搭載状況を見て回りましたが、この面からも今の電池技術では、個人用としては、今の電池搭載量では航続距離が不十分であるばかりではなく、トランクスペース、重量、さらには高価なレアメタルやレアアースを使う電池としてはコストの面など、どの面からも今のクルマの置き換えまでをも見据えた高い目標を見据えたクルマを探すことはできませんでした。
一方、HVやPHVさらには発電用エンジンを持つGM Chevrolet VoltのようなレンジエクステンダーEVも、これらEVブーム、EVフィーバーに埋没してしまったこともありますが、新しい機構、新しい電池、その使い方の提案なども感じとることが出来ませんでした。これは、日本勢だけではなく、欧米勢も同じ印象です。将来の環境性能を高めることは当たり前として、クルマという商品の将来としてお客様目線で、自動車メークのエンジニアがもっと知恵を絞り、汗を流し、魅力ある次世代自動車の提案をしてくれること、それを日本勢リードしてくれることを期待しています。パリモーターショーは4輪自動車のショーですが、このEVとセットで電動バイクは電動スクーターの展示も目立ち、このジャンルも電動化は必然の方向に感じました。

MINI Scooter E Concept

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